駆除したツキノワグマ、食への活用が脚光 注文殺到で「追いつかない」 “劇的にうまくなる”秘訣とは?
全国各地でクマによる被害が相次ぐなか、捕獲したクマの肉を食用のジビエとして活用する動きに注目が集まっている。ネット上では先月、青森県の道の駅で「熊串焼」を食べたという投稿が話題に。「おいしそう」「食べてみたい」といった声が殺到している。熊肉の活用にはどのような方法と課題があるのか。話題となったジビエブランド「白神ジビエ」を展開する青森・西目屋村の担当者に話を聞いた。

熊串焼を食べたという投稿に「おいしそう」「食べてみたい」という声が殺到
全国各地でクマによる被害が相次ぐなか、捕獲したクマの肉を食用のジビエとして活用する動きに注目が集まっている。ネット上では先月、青森県の道の駅で「熊串焼」を食べたという投稿が話題に。「おいしそう」「食べてみたい」といった声が殺到している。熊肉の活用にはどのような方法と課題があるのか。話題となったジビエブランド「白神ジビエ」を展開する青森・西目屋村の担当者に話を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
「ツキノワグマを食べた!! 下処理が完璧だったのか、臭みなくホロホロ美味かった!」
先月29日、SNS上に「熊串焼」の写真が投稿されると、「羊肉に似てる」という味や、2本800円という価格が話題に。1.7万件を超えるリポストと8.7万件もの“いいね”が寄せられるなど、大きな反響を呼んだ。
「投稿やそれを取り上げたネットニュースのおかげで、大変ありがたいことに注文や問い合わせが殺到しています」と語るのは、加工元の食肉施設を運営する一般財団法人・ブナの里白神公社の角田克彦さんだ。
ブナの里白神公社は、日本初となる白神山地の世界遺産登録を受け、1994年、地元・西目屋村の出資により設立。宿泊施設や道の駅の運営といった観光事業を担うなか、食の目玉がないという悩みを解消するため、2020年にジビエ専門の食肉解体処理施設「ジビエ工房白神」をオープンした。
「西目屋村は青森で最も人口の少ない村で、主な名産はリンゴと米、そばくらい。一方で『目屋マタギ』というマタギ文化が残る地でもあり、クマは山からの神聖な授かり物でもありました。わなにかかり廃棄されていた熊肉を何とか地域の観光に結び付けられないかと、一般の流通にも乗せられるよう、専門の施設を立ち上げたんです」
ジビエ専門の食肉解体処理施設は珍しく、秋田や宮城、長野などでは前例があるものの、青森県内では初。保健所による申請基準は県単位で異なり、青森県のガイドラインではと殺から45分以内の加工という厳しい基準が定められている。「例えば、弘前で捕獲されたクマであれば間に合わない。西目屋村の周辺で捕れた熊肉を、主に村の中でのみ提供しています」。お土産用に「クマカレー」や「クマ丼の具」といった加工品も扱っているものの、ネット通販は行っておらず、ふるさと納税の返礼品を除けば、実際に西目屋村や一部のイベント会場に足を運ばなければ食べられない“幻の味覚”だ。
「今回取り上げていただいた熊串焼は、青森・横浜町で行われた道の駅フェアに初出店したもので、通常の3倍近い200本を用意しましたが、2日目の午前中には完売しました。熊串焼の提供はイベント限定ですが、問い合わせが殺到しており、今後は西目屋村の道の駅での提供も考えています」
注目すべきはその味だ。一般的に、熊肉は「固い」「臭い」といったネガティブなイメージを持たれがちだが、ジビエ工房白神では専用の熟成庫で3日間以上の熟成を行っており、本場フランスのジビエに精通した元総料理長監修のもと、柔らかく臭みのない処理や調理を徹底しているという。
「あまり知られていませんが、熊肉は熟成で劇的にうまくなる。血抜きが進んでうまみも増します。私ももともと熊肉には苦手なイメージがありましたが、今の施設は下処理の段階でほとんど臭みがありません」
反響の一方で、課題もある。ジビエ工房白神では村周辺でわなにかかった個体のみを食肉用に卸しており、例年30頭前後の捕獲実績があったことから、それを基準に事業をスタート。初年度の21年には38頭分の供給があったが、翌22年は7頭しか捕れず、全国で被害が多発した23年には72頭、昨年は10頭と、年によって供給される肉の量に大きな差があるのが実情だ。今年は4日時点で44頭を捕獲している。
「安定供給は本当に難しい。今年は肉は豊富にあるものの、人員が足りず、加工が追い付かない状況です。近年はクマの餌となるドングリの豊凶が極端で、大豊作と大凶作が隔年で起こっており、里に出るクマの数にも影響しているとマタギの方が話していた。多く捕れた年の肉をストックできるよう、新たに大型の冷凍庫も入れて、なるべく無駄な廃棄が起こらないよう努めています。
今は悪い意味でクマの注目度が高まっていますが、人里に出たクマを山からの授かり物として消費することは、クマと人の境界線を守っていくことにもつながる。マタギの精神を守って必要以上に捕ることはせず、観光資源として大切にしていきたい」
人口わずか1200人という小さな村の取り組みは、クマ問題解決の糸口となるか。
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