メディア殺到のBYD、日本向け“新型車”に警戒の声「シェア取ると思う」 開発責任者に聞く勝算

日本の軽自動車市場に参入する注目の外国車が「ジャパンモビリティショー」(9日まで、東京ビッグサイト)で公開中だ。2026年夏の発売を目指しているのは中国のEV(電気自動車)メーカーBYD。今や世界の自動車業界を引っ張るグローバル企業だが、日本での販売はここまで7000台あまりと苦戦を強いられている。満を持して投入する軽EVに、勝算はあるのか。開発の責任者を直撃した。

BYDブースに報道陣が殺到した【写真:ENCOUNT編集部】
BYDブースに報道陣が殺到した【写真:ENCOUNT編集部】

責任者が語る「強み」と激戦区での勝算

 日本の軽自動車市場に参入する注目の外国車が「ジャパンモビリティショー」(9日まで、東京ビッグサイト)で公開中だ。2026年夏の発売を目指しているのは中国のEV(電気自動車)メーカーBYD。今や世界の自動車業界を引っ張るグローバル企業だが、日本での販売はここまで7000台あまりと苦戦を強いられている。満を持して投入する軽EVに、勝算はあるのか。開発の責任者を直撃した。

 10月29日に行われたプレスカンファレンス。足の踏み場もないほどメディアや関係者が詰めかける中、BYDジャパンの劉学亮社長は3500万円超のスーパーカー「YANGWANG(ヤンワン)U9」から登場するパフォーマンスを披露した。

「2年前に同じ時期に同じ場所でBYDは初めて日本のモーターショーに参加しました。そして今回、BYDの商用車、乗用車一つにして再びこの素晴らしい東京のモビリティー舞台に帰ってまいりました。皆さん、ワクワクする未来をここから始めましょう。日本にフルコミットしています」

 ステージの両サイドには、今後の日本市場での行方を占う日本専用設計の2台の車が置かれた。左手には商用車の「T35」。そして右手には話題の軽自動車「RACCO(ラッコ)」だ。

 今年1月~9月までのEV販売台数は160万台超と世界一の規模を誇るBYD。一方で、日本国内での今年9月までの累計販売台数は7123台にとどまる。

 その強固な市場を開拓するべく、切り札として送り込むのがラッコだ。

「日本の軽規格に合わせて開発した、BYDとして初の海外専用モデル。日本の軽自動車の主流でありますスーパートール、それから左右にあるスライドドア。多くの日本のお客様に支持される装備を採用しております」(BYDオートジャパンの東福寺厚樹社長)

 日本の軽自動車の傾向を徹底的に分析し、BYDのEV技術を積み込んだ1台は、日本での勢力図を変えるべく、着実に準備を進めている。

 とはいえ、日本の軽自動車市場は、多様な車種がひしめく激戦区だ。果たして勝機はあるのだろうか。

 ラッコのプロジェクトリーダーの田川博英さんに聞くと、「1800ある高さとスライドドアという車体にバッテリーEVという組み合わせは、今現時点で言えば乗用車でできてるのは弊社だけだと思っているので、そこは本当に大きな強みじゃないかなと思っています。あとはお客様の使い方。軽自動車は、純粋にセカンドカーとして通勤やお買い物だけというお客様と、もう少しファーストカー的な使い方をされるお客様はいると思いますので、お客様の使い方に応じて、航続距離は2種類用意をしようと思っています」。

 すでに100台を超える試作車を作り、走行試験や衝突実験、充電試験といった試験を繰り返している。

「この車に触れて、9月に実際深センでも乗ってきたんですけれども、とても素晴らしい車にでき上がっている。本当に素晴らしい軽自動車ライフ、軽のEVライフというものが広がるんじゃないかなと思っています」と、目を輝かせた。

 ターゲット層については、幅広い世代を想定している。

「ファミリーも、それから少し子離れをしたご夫婦の方でも、若い方でも、十分使っていただけると思っていますので、この層にとターゲットを限定していないのが実情です。テーマカラーに白を選んでいるのも、ある意味ちょっとそういう気持ちを込めたところですかね。お客様の色で染めていただければいいんじゃないかなと」

 BYDの日本での実績は7000台あまり。この数字はどう評価しているのか。

BYD ラッコ【写真:ENCOUNT編集部】
BYD ラッコ【写真:ENCOUNT編集部】

他メーカーは警戒「売れちゃうと思う」

「率直に言うと、今までのEV4車種でもうちょっと台数増えてもよかったんじゃないかなと思いますけれども、日本のEVマーケットは弊社のみならず、なかなか広がっていかないのが、ちょっと残念だなと思っています」

 閉鎖的とも言われる日本のEV市場を、軽自動車という切り口でこじ開けるつもりだ。

「そうですね、そういうふうになっていければいいと思いますし、他社さんも軽のEV規格を検討されていらっしゃると思うので、もう全員で軽のEVマーケットを拡大していくことができれば、本当にいいなと思っています」

 国内ディーラーからは、ラッコの発表を受け、「あれすごいね。シェア取っちゃうでしょ。売れちゃうと思う」と警戒の声も上がっている。

 けん引役になるのではと水を向けると、田川さんは謙虚な姿勢を崩さなかった。

「けん引役なんてとんでもない。軽自動車の諸先輩に学んで、一緒になってやらせていただければありがたいなと思っています」

 世界的な大企業とはいえ、日本に入り込むのは容易ではない。

 しかし、課題を感じ取りながらも、のぞかせたのは新車に対する自信だった。

「EVのマーケットがなかなか広がらないのは、新しいものに対する苦手意識というか、割と日本のマーケットって慎重なマーケットなのかなと思っています。ただ、だんだんオファーが増えていけば、お客様の意識も変わっていくと思いますので。日本は火力発電がまだまだ多いんじゃないかとか、いろいろおっしゃる方いるんですけれども、バッテリーEVって、そういう環境への貢献というのは、ガソリン車に比べれば、圧倒的な優位性があると思います。今年の夏も暑かったですけれども、ああいう状況を少しでも止めていきたいというBYDのビジョンを実現するために、この軽のEVは1つ大きな役割を果たしてくれるんじゃないかなと思っていますし、ものすごく個人的にも期待をしてワクワクしてます」

 気になる価格は、「今検討中で、全く決まっておりません」と田川さん。「来年夏発売ということを申し上げたんですけど、その頃にはしっかり決めたい」と見通しを語った。

 東福寺社長は、「反響はすごくいいので、お客様がどこまで反応してくれるか。まだ半年ちょっとあるので頑張ってしっかりやって販売につなげたい」と期待した。

 BYDは新風を起こすことができるのか。その答えは、来年明らかになる。

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