「クマ鈴は逆に危険」専門店が警告 東京23区内「いつ出てもおかしくない」 多摩川が通り道に

全国各地でクマによる被害が相次いでいる。今年度のクマ被害による死者数は全国で12人(10月28日時点)と、統計を取り始めた2006年以降で過去最悪に。人を食べる目的で襲った食害のケースも複数報告されている。そんな中、注目が高まっているのがトウガラシなどのカプサイシンを主成分としたクマ撃退用スプレーの存在だ。クマスプレーからライフルまで、さまざまな狩猟・アウトドア用品を取り扱う専門店「トウキョウジュウホウ」の担当者に、クマスプレーの効果や普及状況、クマ問題の根本原因を聞いた。

クマスプレーからライフルまで、さまざまな狩猟用品を取り扱う「トウキョウジュウホウ」【写真:ENCOUNT編集部】
クマスプレーからライフルまで、さまざまな狩猟用品を取り扱う「トウキョウジュウホウ」【写真:ENCOUNT編集部】

トウガラシなどのカプサイシンを主成分としたクマ撃退用スプレー

 全国各地でクマによる被害が相次いでいる。今年度のクマ被害による死者数は全国で12人(10月28日時点)と、統計を取り始めた2006年以降で過去最悪に。人を食べる目的で襲った食害のケースも複数報告されている。そんな中、注目が高まっているのがトウガラシなどのカプサイシンを主成分としたクマ撃退用スプレーの存在だ。クマスプレーからライフルまで、さまざまな狩猟・アウトドア用品を取り扱う専門店「トウキョウジュウホウ」の担当者に、クマスプレーの効果や普及状況、クマ問題の根本原因を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

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 高層ビルが立ち並ぶ東京・代々木の一角にテナントを構える「トウキョウジュウホウ」。銃器の卸売りの他、不動産や農業など、さまざまな事業を展開している。現在同社で役員を務める30歳の藤田賢さんは、学生時代、留学先のアメリカでクマスプレーに触れ、日本での潜在的な需要を見出した。

「大学では生物学を専攻していて、教授のつながりでミズーリ州の自然保護管理局に出入りしていました。野生動物の保護と狩猟を一括で管理していて、一度は減ったクマが再び戻った地域。日本もいずれこうなるだろうと思っておりました。2020年の帰国後、クマに関する国内研究データを読むなかで違和感を感じ、もともとあったクマスプレーの仕入れを10倍ほどに増やしたんです」

 予想は的中。近年では、クマスプレーに関する問い合わせや注文が殺到している状況だ。日本では古くから山に入る際にはクマ除けの鈴の携行が推奨されているが、藤田さんは「今の時代、クマ鈴は逆に危険」と声を大にして主張する。

「猟師が山に入る際、金属製の銃のパーツやアクセサリーなどが擦れるような音が自然界に存在しないことから、クマが金属音を警戒するようになったのがクマ鈴の由来と推測しております。猟師がほとんど山に入っていない状況では何の効果も見込めず、むしろ餌と認識される可能性もあり危険なくらいです。アラスカでフライフィッシングのガイドをしている友人たちもいますが、鈴は付けず、スプレー一択でした。また、限られた時間内では銃よりもスプレーでの対処が一番効果的で、正規(EPA=アメリカ環境庁規定)のスプレーを正しい方法で使用すれば、9割の事故を防げるというデータもあります」

 ただ、日本では現在、飛距離や内容量、噴射時間など基準を定めたスプレーの規格がなく、ほとんど効果の見込めない粗悪品が多数出回っている状況だ。トウキョウジュウホウが代理店となって輸入しているEPA規格を満たした製品も、パッケージがそっくりな中国製のコピー品がアマゾンなどの通販サイトで多数販売されているという。藤田さんは早急な規制を訴えるとともに、クマ問題を加速させた都市計画法の失政についても言及する。

「クマが出る原因は開発ではなく、むしろ過度な乱開発を防ぐために設けた市街化調整区域の失敗です。コンパクトシティーを目指し、市街地の周辺に家などを建てられない区域を設けた。山には経済的な価値がなくなり、里山は放棄され山間部人口も減少、結果的に山と街の間にあった緩衝地帯のほとんどが消失しました。山の地価が下がった分、街の地価は上がるので、おそらく地権者と行政による利権もあったんでしょう。一般の方にもぜひ、お住まいのエリアの都市計画図に興味を持ってほしいと思います。

 家が建てられない、林業も割に合わない以上、不良債権となった山林はキャンプ場にするか、太陽光パネルを建てるくらいしか使い道がない。メガソーラーのせいでクマが出るのではなく、人が手放しクマに奪われた土地の活用方法がメガソーラーくらいしかない現状が問題なんです」

 すでに都内であっても絶対安全とは言い切れない状況だ。圏央道を越えた八王子、あきる野、高尾山や町田でも目撃情報が寄せられている。「多摩丘陵や多摩川河川敷が主な通り道になり得る。多摩川を下っていつ府中や世田谷に出てもおかしくない。住宅密集地では銃による駆除もできない。もしそうなったら……地獄絵図になりますよ」。早急な対策が求められる。

次のページへ (2/2) 【写真】正規品のクマスプレー(左)とパッケージまでそっくりなコピー品
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