秋サケ漁終了→直後に現れた“想定外”の魚たち 北海道の海で異変 漁師「押し寄せるように…」
今年、全国各地で起きている漁場の異変。北海道では、秋サケの漁期が終わりを迎えた後、本来この海域ではあまり見られない魚が押し寄せるように網にかかるようになった。海で何が起きているのか。

10月20日にサケ漁終了後…網にかかった“ピンク色の魚体”
今年、全国各地で起きている漁場の異変。北海道では、秋サケの漁期が終わりを迎えた後、本来この海域ではあまり見られない魚が押し寄せるように網にかかるようになった。海で何が起きているのか。
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北海道・島牧村で漁業、水産加工会社の2社に所属する久慈智彦さん。漁業会社で水揚げし、加工会社に販売。そこで鮮魚仕立て、加工などを行い、日本各地の卸売市場に出荷している。
異変が起きたのは、10月20日にサケ漁が終わった直後のことだった。
久慈さんが使う漁法は底建網と呼ばれる定置網の一種だ。そこにマダイが「押し寄せるように」かかった。膨れ上がった網の中で赤みがかったピンク色の魚体が、威勢よく水しぶきを上げている。
しかし、北海道で、これほどまでのタイの捕獲は珍しい。魚介類に定評があるとはいえ、すし店で出される天然のタイは、本州産を仕入れることがほとんどだ。
“よそ者”と言える魚が網にかかったのはなぜなのか。
背景にあるのは、海水温の変化だ。
タイは15度から25度くらいの水温を好み、北海道の水温は従来、魚が定着するには低すぎるとされてきた。
ところが、近年は水温が上昇。
「近年は夏場の海水温が20年ほど前から比べると3度くらい上がっている印象です。9月中にはサケに適した水温(20度以下)になることが最近は少なくなってきました」
サケ漁は9月から行われ、長年の経験則から、水温は9月20日に「20度」になることが理想とされてきた。その後は、ゆるやかに低下していく傾向だったが、「ここ数年は20度超えの期間が6月中旬から10月中旬頃まで続いています」と、データとは異なる動きを示している。
サケと入れ替わるタイミングで出現したタイの群れは何を意味するのか。詳しい因果関係は不明で、漁師の間でも、解釈は定まっていない。
久慈さんは、「南下する群れがたまたま網に入っただけであって、この後、継続的に取れるわけではありません」と、一過性の可能性を指摘する。「ずっと前には釧路でマグロが揚がった話とかもありますので、何十年、百年単位での魚の勢力図というのもあると思います」と付け加えた。
一方で、「タイに関しては近年にはないというより、『ジワジワ増えてきている』の表現が合っているように思われます」とも。網にかかる頻度はここ数年で明らかに増えており、「確かに水温は上がってます。黒潮とエルニーニョは主に太平洋側に作用するものと思っていますが、それが日本海にも影響あるのかな」と、見立てた。
10月29日現在、水温は磯寄りで13度と急激に低下した。
海の変化は、漁業のあり方にも影響を与えている。
「近年は毎年必ず同じ魚が同じだけ取れるということがなくなってきました。その時その時の海に合わせた仕事をしていくしかないですね」
“想定外”の魚たちは、どこへ行くのか。
「地元には魚屋がないので村内で出回ることはあまりありません。他の漁師さんが漁獲したものも寿都市場~札幌市場~各地市場といった流れなので、魚が欲しい人は個人対漁師間のやり取りが多いです」
サンマやイカ、カツオ、マグロ、カキ……。そしてタイ。
今年、各地の漁場で報じられた海の変化は、魚たちの「当たり前」を少しずつ変えている。温暖化による海水温の上昇、潮の流れの変化、エサとなるプランクトンの分布――。それらが複雑に絡み合う生態系の静かな転換期を、目の当たりにしているかもしれない。
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