「ライバルは大谷翔平かBTS」桜庭和志の長男・大世の未来像 号泣プロ初敗戦の舞台裏「お父さんは僕に負けて欲しかった」

日本総合格闘技界のレジェンドの息子が、プロの壁にはね返された。桜庭和志の長男・大世(26=サクラバファミリア)は今年5月のデビュー2戦目で一本負け。キャリア初の敗戦に東京ドームの大舞台で涙を流した。再起をかけ、格闘技イベント「RIZIN LANDMARK 12 in KOBE」(11月3日、兵庫・GLION ARENA KOBE)で、ボクシング元高校6冠の実績を持つ、宇佐美正パトリック(25=クレイス)とのプロ3戦目に挑む。決戦を目前に控え、当時の思い、格闘家として描く未来像について明かした。

未来像について明かした桜庭大世【写真:ENCOUNT編集部】
未来像について明かした桜庭大世【写真:ENCOUNT編集部】

「ここで負けるのか」プロ2戦目で涙の敗戦。拳にヒビ、足は骨折。

 日本総合格闘技界のレジェンドの息子が、プロの壁にはね返された。桜庭和志の長男・大世(26=サクラバファミリア)は今年5月のデビュー2戦目で一本負け。キャリア初の敗戦に東京ドームの大舞台で涙を流した。再起をかけ、格闘技イベント「RIZIN LANDMARK 12 in KOBE」(11月3日、兵庫・GLION ARENA KOBE)で、ボクシング元高校6冠の実績を持つ、宇佐美正パトリック(25=クレイス)とのプロ3戦目に挑む。決戦を目前に控え、当時の思い、格闘家として描く未来像について明かした。(取材・文=浜村祐仁)

 衝撃の26秒・KOを果たしたデビュー戦から、約4か月後のキャリア2戦目。約4万2000人が集結した東京ドームで45歳のベテランに現実をつきつけられた。UWFスタイルを継承する中村大介に腕十字固めを極められ、2Rで無念のタップ。リングを去る大世の目からは大粒の涙が溢れていた。

「勝つべき試合だと思っていました。スターになる選手って最初から連勝しているイメージだったので、ここで負けるかっていう。ちゃんとやられたなって思いました」

 当時の中村は6連敗中。今後トップ戦線を目指す桜庭にとっては、勝利が求められた試合だったが洗礼を浴びた格好となった。左手の拳にはヒビが入り、足の骨も骨折。心身ともに大きな代償を負った。しかし、セコンドを務めた父・和志の試合後の反応は意外なものだった。

「お父さんは僕にすごい負けて欲しかったみたいです。僕は調子乗りだと思われてるみたいなんで。多分(中村)大介よくやったとも思ってそうだし、負けてお前ちゃんともっと練習やれよっていうのもあると思う」

 試合後の会見では「僕の負けで気持ちよくなってそうな人がいそうで悔しい」とアンチの存在についても言及した。

「そういう人たちに、おっ、て思わせたいという意味で言ったんですけど、やっぱ(批判の)声は聞こえますよね。ステップは飛ばしまくってるわけじゃないですか。他の選手はアマチュアの舞台を踏んで、プロの試合も踏んでからRIZIN出場ですけど、自分は全部すっ飛ばして1戦目が矢地さんとの試合のわけで」

「でも(アンチを)相手にしないわけじゃないです。僕はその人たちのことを1番驚かして、そいつらもファンにさせてやろうって思ってますから」

デビュー2戦目で中村大介(右)に敗北した【写真:徳原隆元】
デビュー2戦目で中村大介(右)に敗北した【写真:徳原隆元】

「スターになりたい」明かした野望「桜庭和志のファンを自分に」

 RIZINを中心に再び格闘技が盛り上がっている。人はなぜMMAに魅了されるのか。デビュー2戦で歓喜も失意も経験した大世自身が、その奥深さを日々感じ取っている。

「自分は比較的飽き性っていうのもあるし、あとは大学の時、柔道でオリンピックのメダルを取っている人とかも見る中で、他の競技は職人じゃないですけど、1個のことをすごい突き詰めているってイメージなんですよね。でも総合格闘技はここが駄目だったら、あっちも戦えるみたいに選択肢があるじゃないですか。そういうのを考えるのがすごい楽しいです」

 キャリア3戦目の相手となる宇佐美は、MMA転向前にボクシングの名門・興國高校でインターハイや国体を次々に制して高校6冠を達成した難敵だ。東京五輪での活躍も期待され、19年にはJOC(日本オリンピック委員会)のネクストシンボルアスリートにも選出された逸材として知られている。

「初めてちゃんとストライカーみたいな人とやるんで、その圧を受けつついい感じで行けたらなと」

 RIZINの枠を飛び越え、果てしなく大きな野望も口にした。

「僕、ライバルは大谷翔平かBTSなんです」――。どういうことか。

「スターになりたい。でもそのためには桜庭和志は通らなきゃいけないんです。あの桜庭和志のファンを今度は僕のファンにさせたい。いい感じにお父さんとの共通点を見つけて、もっと盛り上がって欲しいです」

 ライト級にはホベルト・サトシ・ソウザが絶対王者として君臨している。日本MMA最高峰に位置する門番に、多くのスターを夢見るファイターがはね返されてきた。

「(ライト級の)ベルトが取りたいっていうよりは、スターになるにはベルトが必要だよねっていう。結局は強くなきゃいけない。本当に大谷になるためには、(海外も)行かないといけない。僕、競技者に向いてないかもしれないですけど、世界で……。いや、これに関してはちょっとここでストップしときます」

 インタビュー後、11月の宇佐美戦の10日前に中東の大都市、UAEの首都・ドバイで行われるグラップリングマッチへ出場することが発表された。大会直前の減量や長距離の移動を考えると極めて異例だが、らしい決断とも思えた。

 デビュー戦から約10か月。偉大な父との比較も重圧も全てを背負い、あくまでも自然体を貫いている。最後に言いかけた言葉は一体何だったのか。あえて聞き返すのはやめた。格闘家・桜庭大世はその言葉の続きを体現すべく、MMAという過酷で険しい旅を全力で歩み始めた。

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