“弱男役”が当たり役 39歳・三浦貴大、「ダメな人間を演じるのは嫌いじゃない」と語る真意
俳優・三浦貴大が主演を務める映画『やがて海になる』(沖正人監督)が、10月24日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開される。本作は広島・江田島を舞台にした3人の男女の第2の青春を描く。父の死を引きずり、島を出られない中年ニートを演じた三浦が「ダメ男を演じるのは嫌いじゃない」と語る理由とは――。

映画『やがて海になる』で主演
俳優・三浦貴大が主演を務める映画『やがて海になる』(沖正人監督)が、10月24日よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開される。本作は広島・江田島を舞台にした3人の男女の第2の青春を描く。父の死を引きずり、島を出られない中年ニートを演じた三浦が「ダメ男を演じるのは嫌いじゃない」と語る理由とは――。(取材・文=平辻哲也)
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『やがて海になる』は、広島・江田島を舞台に、中年期に差し掛かった3人の幼なじみの青春群像劇。島を出られない男・修司(三浦)、都会に出て、映画監督になる夢をかなえた和也(武田航平)、そして島と都会を行き来する女・幸恵(咲妃みゆ)――3人の時間が交錯する中で、それぞれの人生の意味を問いかける。
「最初に脚本を読んだ時、『おじさんがキャッキャしてるだけじゃん』と思ったんです。でも、それがすごく良くて」と三浦は笑う。
確かに劇中では海辺で3人が戯れるシーンが印象深い。
「最近の映画やドラマって事件が起こらないと物語にならないことが多い。でもこの作品は違う。幼なじみ3人の何気ない時間を切り取っていて、そこにちゃんとドラマがある。外から見たら“おじさんがキャッキャしてるだけ”なんですけど、そこがいいんですよね」
修司という男を演じながら、三浦は「もし俳優をしていなかったら、自分もこうなっていたかもしれない」と感じたという。
「大学(順天堂大)の同級生は立派に働いていて、医者になっているやつも多いんです。自分にはできないなって思うことが多かった。だから、修司みたいに何かを引きずりながら地元に残っている人生も、自分の中ではリアルなんです」

撮影地・江田島に「守られている感じがした」
修司は高校時代に幸恵が好きだったが、告白できず、和也と恋人に。その後、2人は別れたが、修司は幸恵への思いを忘れずにいる……。さらには父の死を自分のせいだと引きずり、ニートのような生活を続けている。
「他人から見たら些細なことでも、本人にとっては大事件。修司にとってのそれが“父の死”だったんだと思います。そういう心のひっかかりは誰にでもある。演じながらすごく分かる気がしました」
近作では、ダメ男役が当たり役になっている。『夜明けまでバス停で』(2022年/高橋伴明監督)ではパワハラ・セクハラ体質のスーパー店長、『愛にイナズマ』(23年/石井裕也監督)では、主人公を振り回す助監督を見事に演じているが、今回は違う種類の“弱さ”を抱えた男だった。
「ダメな人間を演じるのは嫌いじゃないです(笑)。ただ、それを面白がってくれる監督とやれるのが楽しい。沖監督もそうでした。すごくまっすぐで、地元への愛情があふれている人。だから僕たちも“この人のためにいい映画を撮りたい”って自然に思えたんです」
撮影は監督の故郷・江田島で行われた。三浦にとっては初めて訪れる土地だったが、「守られている感じがした」と語る。
「フェリーで20分くらいで着く距離感がちょうどいいんですよ。海も穏やかで、外海とは違う静けさがある。島の人たちが本当に協力的で、20人くらいで食事に行ったりもして。ああ、映画を撮るってこういうことだなって思いました」
完成した作品を観た三浦は、脚本を読んだ時の印象と同じものを感じたという。
「事件が起こらないのに、ちゃんと心が動く。“おじさんがキャッキャしてる”だけなのに、観終わったあとにじんわり残る。僕、この映画がすごく好きなんです」。瀬戸内海の穏やかな風景とともに描かれるのは、「誰にでも訪れる“やり直しの季節”」だ。
□三浦貴大(みうら・たかひろ)1985年11月10日生まれ。東京都出身。2010年、映画『RAILWAYS 49歳で電車の運転士になった男の物語』でデビュー。同作で第34回日本アカデミー賞新人俳優賞、第35回報知映画賞新人賞を受賞。近年の主な出演作に『流浪の月』(22年)、『キングダム2遥かなる大地へ』(22年)、『Winny』(23年)、『キングダム 運命の炎』(23年)、『愛にイナズマ』(23年)、『キングダム 大将軍の帰還』(24年)、『雪の花‐ともに在りて‐』(25年)、『国宝』(25年)、『行きがけの空』(25年)など。
