谷藤海咲、“声を出せない少女”役で見せた素顔 アイドル卒業後に見つけた俳優の原点
NHK連続テレビ小説『おむすび』(2024年)で博多ギャルグループ“ハギャレン”のタマッチ役を演じて注目を集めた谷藤海咲が、映画『笑えない世界でも』(岡本充史監督)で新たな挑戦を見せている。演じたのは、声を発することができない少女・水川凛。明るく快活な自身のパーソナルとは真逆の役柄に、谷藤が真っ向から向き合った。

公開中の映画『笑えない世界でも』でW主演
NHK連続テレビ小説『おむすび』(2024年)で博多ギャルグループ“ハギャレン”のタマッチ役を演じて注目を集めた谷藤海咲が、映画『笑えない世界でも』(岡本充史監督)で新たな挑戦を見せている。演じたのは、声を発することができない少女・水川凛。明るく快活な自身のパーソナルとは真逆の役柄に、谷藤が真っ向から向き合った。(取材・文=平辻哲也)
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公開記念の舞台あいさつを直前にしたインタビュー。谷藤はほっとした表情を浮かべ、柔らかく笑った。
「実は撮影は『おむすび』の前、もう3年くらい経つので、公開は難しいのかなと思っていた時期もありました。だからこそ、こうして見ていただけるのが本当にうれしいです。この作品は私にとってチャレンジでした。声を出せない不自由の中で、凛が持つ心の強さをどう表現できるか、とにかく考えました」
本作はいじめの被害者から一転、ある事故で加害者となり、家族から見放され鬱々とした気持ちで町工場で働いている“ぼっち”の川本優花(彩香)と、母親がいなくなり、ある日、“ぼっち”になってしまった水川凛(谷藤)が出会い、諦めから希望に向かって少しずつ動きだしていく。凛はある出来事をきっかけに、言葉を発することができなくなったという難役だ。
台本を読んだとき、言葉を持たない役をどう生きるかに迷った。
「喋れないけど、とても強い女の子だなと思いました。弱さもあるけれど、どこかで絶対に諦めない。すごく好きなキャラクターです。私自身も負けず嫌いなところや、プレッシャーに反骨する精神があるので、少し似ている部分があるかもしれません。今まで明るいキャラクターやおしゃべりな役が多かったので、自分の心とリンクさせながら演じました。静かな役は初めてで、自分にとっても挑戦の作品でした」と振り返る。
出演はドラマ『ブラック校則』『メンズ校』『ラストマン-全盲の捜査官-』などで知られる映像作家、岡本監督からの直接のオファーだった。本作が長編初監督作となる。
「岡本監督とはもともと別の現場でご一緒していて、そのご縁で今回声をかけていただきました。当時はまだ俳優としての経験も少なくて、“自分で大丈夫かな”という不安もありました。でも監督が“凛をやってほしい”と言ってくださって、信じてみようと思いました」
2022年年末から23年の正月にかけて、約2週間、長野県上田市で撮影した。
「本当に寒くて、マイナス3~4度の中で雪が降るなか走るシーンもありました。最後の方のキャバクラの服装で走るシーンは特に印象的でしたね。スタッフの人数も限られていたので、一般の方の目に止まることも多く、すごく大変でした」
劇中では、千曲川沿いの道を歩くシーンでは長回しの撮影もあった。
「ワンカットで撮っていて、凛は話せないので、スマホに文字を打ち込むのですが、実際に打ち込みをする動作も本当にやっていました。間合いもリアルに使われていて緊張感がありました。それから、工場長から乱暴されそうになるシーンもすごく大変でした。何度も撮れるシーンではないので、野村啓介さんとギリギリまで感情を高めて挑みました」

撮影後に変化も
少人数で臨んだ現場には、独特の一体感があったという。
「すごく濃い時間でした。監督もスタッフさんも、みんなこの作品を信じていて、その熱量が現場にありました。自分の役をどう見せるかというより、“この作品をいいものにしたい”という思いで動いていました」
撮影を終えたあと、谷藤の中には確かな変化が生まれた。
「この作品を通して、人の痛みに寄り添うことの難しさと大切さを感じました。凛を演じたことで、自分自身も少し優しくなれた気がします」
そして静かに続けた。
「これからいろんな作品に出させていただく中で、きっとこの作品を思い出すことがたくさんあると思います。少ない人数で作ったあの時間や、みんなの思いはずっと忘れないでいきたいです」
15歳から8年間、アイドルグループ・KissBeeのメンバーとして活動し、昨年5月に卒業。本格的に俳優への道を歩みだした谷藤にとって『笑えない世界でも』は、キャリアの節目に刻まれた“原点”のような作品になった。その記憶を胸に、次のステージへ歩き出す。
『笑えない世界でも』は17日より東京・池袋HUMAXシネマズで公開中。
□谷藤海咲(たにふじ・みさき) 1999年9月22日、東京都出身。15歳でアイドルグループ・KissBeeに加入し、約8年間活動。2024年5月に卒業後、俳優として本格的に活動を始める。NHK連続テレビ小説『おむすび』(24年)では、博多ギャルグループ「ハギャレン」の佐藤珠子(タマッチ)役を演じ話題に。Z世代による共感マーケティング会社「zzz.inc(ねむインク)」の代表取締役も務める。
