元宝塚・真飛聖の二つ名は「日比谷の母」 初舞台から30年、トップ時代の意外な素顔
元宝塚歌劇団花組トップスターで俳優の真飛聖が、今年芸能生活30周年を迎えた。10月20日と21日には東京・コットンクラブで記念ライブ『真飛聖30th Anniversary Live』を開催する。自身にとって初ライブとなり、多彩なゲストが各公演で花を添える。ステージでは原点だと語る宝塚時代の曲を披露し、当時の思い出がよみがえる時間にしたいという。また、宝塚で忘れがたい2作品の舞台裏や下級生らから慕われ、“ある異名”がついたことも明かした。

30周年の節目に退団後初のソロライブ開催
元宝塚歌劇団花組トップスターで俳優の真飛聖が、今年芸能生活30周年を迎えた。10月20日と21日には東京・コットンクラブで記念ライブ『真飛聖30th Anniversary Live』を開催する。自身にとって初ライブとなり、多彩なゲストが各公演で花を添える。ステージでは原点だと語る宝塚時代の曲を披露し、当時の思い出がよみがえる時間にしたいという。また、宝塚で忘れがたい2作品の舞台裏や下級生らから慕われ、“ある異名”がついたことも明かした。(取材・文=大宮高史)
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取材先で見せた凛(りん)とした姿勢が当時を彷彿(ほうふつ)とさせる。1995年の初舞台から30年。2011年の宝塚退団まで男役として務め上げ、退団後は映像を中心に俳優を続けてきた真飛が、大きな節目を迎えた。自身は「気がついたら、30年たっていたなっていう感じです。20年や25周年の時も特にイベントはやっていなくて。今回、周りの方から『何かやらないの?』と声をかけていただいて、『30周年なんだ』と改めて実感したくらいです」とさわやか笑顔で明かす。その節目の30周年記念ライブ。初開催なだけに、内容が気になってくる。
「退団してからライブをしたことがなく、今回が初のソロライブになるので、自分の原点である、宝塚の曲だけで構成したいという強いこだわりがありました」
ライブでは、過去の出演作の中で自身が歌唱したことがある歌を披露予定だ。
「とにかく、皆さんに懐かしんでもらいたいんです。宝塚時代から知ってくださっている方には、ふわっとフラッシュバックするような気持ちを味わっていただきたいですし、最近、バラエティーなどで私を知ってくださった方には、『こういう曲を歌って、こんな風に男役をやっていたんだ』と想像してもらえたらうれしいなと思います」
共にステージを作るのは、ゲスト出演する宝塚時代の縁深い仲間たちだ。花組時代トップコンビを組んだ桜乃彩音は2日間の全公演に出演。20日は、同じく相手役を務めた蘭乃はな(昼公演)と星組時代にダブル主演も経験した1期上の朝澄けい(夜公演)、21日には花組で共演した元雪組トップスターの壮一帆(昼)、そして星組時代の先輩でもある元星組トップで俳優の安蘭けい(夜)が登場する。
「リハーサルが懐かしい会話ばっかりになるから、全然進まないんです(笑)。1曲終わるたびに、すぐ思い出話で盛り上がるから、リハーサルなのに喉が枯れます(笑)。リハではあの頃のように、大騒ぎしていますね。本番ではその活気もお伝えしつつ、袖から『時間です』と鐘も鳴らしてくれるので、時間内に収まるように頑張ります」
楽しそうな雰囲気が言葉の端々から伝わってくる。一方で、真飛ら1995年入団の81期生にとっては忘れられないことがあるという。入団直前に起きた阪神・淡路大震災だ。震災で閉鎖されていた兵庫・宝塚大劇場での再開初日公演が初舞台(星組の『国境のない地図』)となった。
「ちょうど、音楽学校の卒業試験がある日だったんですが、当然試験はなくなりました。大劇場で公演もできなくなって、初舞台を踏めるかどうか分からない状況でしたが、それでも準備だけは同期でしていました。そんな前後の出来事が濃密すぎたので、初日のことはほとんど覚えていないんです。ただ初舞台公演で星組の上級生さんが熱心に指導してくださって、その熱に感動して、『私は星組に入りたい』と強く願いました。それがかなって、配属も星組になりました」
そして10年後の2005年、大きな転機が訪れる。星組から、後にトップになる花組への組替えだった。
「それまで、安蘭さんら上級生のスターさんが星組に来ることが多かったので、その度に違う風が吹いて楽しかったんです。男役の数だけ男役像があったので、新しく来た方からスタイルを学べるのは刺激的でした。でもまさか自分が出る側になるとは思わなかったです。伝統ある花組は、少し敷居が高いイメージがありました。男役なら真紅のバラを持って微笑んでいるような(笑)。それまで元気いっぱいで土足で走っていたのが、ヒールを履かないといけないような感覚でしょうか。結果的にこの美しい組で主演をさせていただいたことは本当にかけがえのない財産になりました」

『相棒』舞台化に「右京さん、踊らないし、歌わないよね?」
07年から11年まで花組でトップスターを務め、芝居とショーで印象的な作品を次々と残した。中でも09年12月から10年1月に大阪と東京で上演された『相棒』は、テレビ朝日系の人気ドラマシリーズ『相棒』の最初で最後となる、異色の舞台化だった。
「最初にお話をいただいた時は、本当にびっくりしました。私自身、ドラマの『相棒』はずっと大好きで見ていたので、『え、右京さんをどうやって宝塚でやるの?』と。『右京さん、踊らないし、歌わないよね?』って思いましたから(笑)」
主人公の警視庁特命係・杉下右京の独特の身のこなしや口調、ジェントルマンぶりを、ドラマから徹底的に模倣した。
「水谷豊さんが演じる右京さんをずっと見てきたので、独特のセリフの言い回しや、息つく暇もなくしゃべるようなテンポ感は、自然と自分の中に入っていました。紅茶の入れ方も練習しましたし、宝塚恒例の開演前アナウンスも通常の『真飛聖です』ではなく『警視庁特命係の杉下です』で通したんです。主題歌をそのまま使ったダンスシーンもありましたが、普通の男役よりも身体を固そうに踊ったり……。『もし右京さんが踊ったら、歌ったら』ということを常に想像しながら創っていきました」
その情熱は、オリジナルを作った“本家”にも届いた。真飛は退団後、12年放送の同ドラマのシーズン11に出演することになるが、当時から縁があったようだ。
「水谷さんをはじめドラマのスタッフの方々が観劇にいらしてくださったんです。終演後にお会いした際に、水谷さんが『僕のこだわりをよく見抜いてくれました』とおっしゃってくださって。ご本人に伝わったことが本当にうれしかったのを覚えています。退団後にドラマに出させていただいた時も、皆さんが温かく迎えてくださって。本当に不思議で、ありがたいご縁だと思っています」
もう一つ、真飛自身、「(宝塚に入ったことに続く)第2のターニングポイントかもしれない」と語ったのが、09年のショー『EXCITER!!』との出会いだ。翌年に異例の再演となり、その後も花組で17年・18年と2度全国ツアーで上演されるほど、花組のレガシーとなっている。
「初日からお客様の反応が違って、『これは花組の財産になる作品だ』って体感しました。自然と手拍子が湧いてきて、『お客様に一瞬で熱狂してもらえた!』って思いました。他の組からも『EXCITER!!』みたいなショーがやりたい』と聞いた時は、心の中でガッツポーズでした。もちろん『渡さないぞ』とは思いましたが(笑)。そうやって憧れてくれるショーに最初から携われるなんて滅多にないことです。あの出会いには感謝しています」
機転が利き、ユーモアもあって、温かい――。そうした舞台姿からイメージされる人柄に魅了されたのはファンだけではなかったようだ。実は花組トップ時代は下級生らからよく相談され、ついた異名が東京宝塚劇場の立地にちなんだ名だった。
「宝塚時代、いろんな人に、それこそ下級生らからも相談されて、『日比谷の母』って呼ばれていました(笑)。その人の個性に合わせた話し方には気を付けていましたが、私は人の話を聞くのが好きでしたし、話しかけられやすい人でいたかったかなって。最下級生とも『おはよう』って言い合えるような、みんな一緒に頑張ろう、という感じが良かったので」
そんな絆は、今回の30周年記念ライブでも発揮されそうだ。
□真飛 聖(まとぶ・せい)1976年10月13日、神奈川県出身。95年、宝塚歌劇団に入団。2007年に花組トップスターに就任し、11年に退団。退団後は俳優としてドラマや映画などで活躍する。主な出演作は、ドラマでは、TBS系『DOPE 麻薬取締部捜査課』(25)、WOWOW『怪物』(25)ほか多数。映画では、「ミッドナイトスワン」(20年)、26年2月公開の「レンタル・ファミリー」など次々に話題作に名を連ねる。また、26年4月には東京・新国立劇場で舞台『ガールズ&ボーイズ』に主演し、初の一人芝居に挑む。
