スターダムのトップが明かす23年ぶりの地上波生中継の舞台裏 見せたかった本気「議論に議論を重ねて」
2023年12月よりSTARDOMの新社長に岡田太郎社長が就任し、2年が経とうとしている。年商15億円といわれ、日本においては業界屈指となる女子プロレス団体を率いる岡田社長に、風雲急を告げる女子プロレス界の歩き方を直撃した。

選手が勝手に誰々とやりたいと言い出す
2023年12月よりSTARDOMの新社長に岡田太郎社長が就任し、2年が経とうとしている。年商15億円といわれ、日本においては業界屈指となる女子プロレス団体を率いる岡田社長に、風雲急を告げる女子プロレス界の歩き方を直撃した。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
2025年も残り3か月。プロレス界にも例年以上にさまざまなことが起こった。直近でいえば、9月26日、上谷沙弥の試合が地上波番組(TBS系『ラヴィット』)で23年ぶりに生中継(TBSにおいては51年ぶり)されたことが大きな話題を呼んだ。
まずはこの件から岡田社長に話を聞くと、率直な物言いが返ってきた。
「STARDOMも全面的にご協力させていただいたし、私もそれが決定するまでの会議も入らせていただきました」と語ると、「これまでだったら、プロレスを朝の情報番組でやるぞとなったら、プロレスラー対芸人さんとか、レジェンドに扮装した芸能人とってなったとところを、本気で試合を見せたいので、こういう選手がいいと思います、っていう議論を重ねに重ね」た上で、23年ぶりの生中継が実現したと説明した。
その結果、「『ラヴィット』さん、上谷紗弥、STARDOM、自分の思いがちゃんと出た」番組になった。
番組では、元はアイドル志望で100以上のオーディションに落ちまくっていた上谷が、当初はSTARDOMで募集したアイドルユニットの一員として合格。その後、そのユニットが解散(消滅)したため、やるはずではなかった女子プロレスラーの道を選ばざるを得なかった、という内容が紹介された。要は上谷は、自分の望んでいなかった人生を進むことで、自分の反骨心を爆発せざるを得なくなった結果、現在の上谷を呼び込むことに成功したのだ。
それが今では「プロレスを広めたい思いはひしひしと感じる」(岡田社長)までに成長。現在の令和女子プロレス界において、突出した存在にまで駆け上がった。
そういった背景を踏まえながら岡田社長は、STARDOMを運営していくうえでのやりがいを口にする。
「STARDOMは選手が勝手に誰々とやりたいとか、こういうことをしたいって言い出すので、それを適切な場所とタイミングで調整するっていう役目とそう行き着いた時に、本人たちが『なんでもかけてやる、引退だってかけてやる』って言ったものを、『引退マッチです』ってただ伝えるんじゃなく、お客さんにどう伝えるか」

「H.A.T.E.はプロレスが上手い」
それを調整するのが岡田社長の立場になるという。
「そういったところから、過去の歴史からプロレスファンの人だったり、どう言ったらこの試合がすごいことなのかを伝わるかは日々考えて、試合の調整をさせていただいていますね」
その手法は、過去の団体とどう違うのか。
「例えば昔の全日本女子さんだったら、ビューティーペアに『負けたら引退しろ。それでお金を稼ぐんだ』っていうプロデュースだと思うんですけど、僕たちはリアルに起きた彼女たちの感情をどう見せるか。もちろん、予定通りこの人にいい試合をしてほしいからって試合を組んでいくことは全然あるんですけど、全然そうならないので、出たところでやっていくっていうのが、プロデューサーとしての責任と、会社として(選手を)支えていくっていうカタチが今のSTARDOMです」。
その後、岡田社長は印象的な言葉を続けた。
「だから一番ドキュメンタリーな感じですよね」
現在のSTARDOMでは、いくつかの派閥に該当するユニットがひしめき合っている。いわば軍団抗争が展開されていると思ってもらえば分かりやすい。なかでも圧倒的な存在感を発しているのが、“極悪女王”ダンプ松本からお墨付きをいただいた、刀羅ナツコ率いるH.A.T.E.になる。
「あんまり僕はこういう表現は好きじゃないんですけど、(H.A.T.E.は)プロレスが上手いんですよね。上手いって何かっていうと、もちろん技術とかグランドテクニックとか色々あると思うんですけど、自分のほうに流れを持っていく力。納得しちゃうし、相手をコントロールする力がH.A.T.E.は強い」
実際、真夏に開催された5☆STAR GPでは、H.A.T.E.の渡辺桃が初優勝を果たした。11月3日、大田区総合体育館では、同じくH.A.T.E.に所属し、ワールド.オブ・スターダム王座とストロング女子王座の二冠王・上谷による“頂上決戦”が実施されることになっている。
「渡辺桃はシンプルにプロレスが強いので、誰も優勝の時に疑わなかったし、もちろん試合の途中とか、Sareee戦で凶器とか使ったとかってあったんですけど、誰もが悔しいから認めざるを得ない結果を出して、誰もが文句なしに優勝した時に、この二人の試合を見たいと思っちゃったんです」
しかしながら岡田社長はH.A.T.E.によるSTARDOM制圧を全面的に是としているわけではない。むしろ「ベルトをH.A.T.E.から取ってくれ」と名乗り出る選手の出現を待っている。だからこそ、「誰にもチャンスはある」と語る。
Sareeeによる“ブーイング現象”の行方
一方、STARDOMにはもう一つの大きな流れが存在する。象徴的なのは、6月から本格参戦したSareeeという存在が出場する際に会場に湧き起こる“ブーイング現象”である。
大前提の話として、岡田社長は「新日本プロレスだって『闘魂』てやりすぎると、みんなから『時代は変わったんだ』っていう流れ」がある、と話しながら、それでもアントニオ猪木や「闘魂」は「LEGACY(受け継いでいくもの、遺産)であることに変わりがないし、歴史であることに変わりはない」なかで、Sareeeが「猪木さん、闘魂、強さの象徴」「古き良き全女」の流れを引き継いでいるイメージ戦略を取りながらここまで来たため、「多少はSTARDOMのなかで対立構造が起こることは予想をしていました」と話す。
それが他の団体にSareeeが出た時には決して起こらない“ブーイング現象”を呼び込んだ。
この現象をを岡田社長はこう分析した。
「Sareeeさんには『STARDOM、舐めんじゃねえぞ』と(いう意識がある)。だから僕はSareeeさんがSTARDOMのことを脅威だと思っているんだと思って、ちょっと嬉しかったんです。Sareeeという存在が認めてくれているからこそ、強く当たってくれるのかなってよく解釈して。だからSareeeさんはSTARDOMに負けたくない。しかも誰に負けたくないってことじゃなくて、STARDOM全体に負けてたまるかっていうのが強い言葉になったからこそ、STARDOMファンとしては全員が蹂躙(じゅうりん)されて負けるわけにはいかない。一致団結してヒールもベビーも関係なく、STARDOMを応援しようっていう思いがすごい強かったのかなって思います」
岡田社長は「SareeeさんはSTARDOMに対してリスペクトがあるからこそ、本気で上がってきてくれたし、本気の言葉をぶつけてきてくれた」と思っている。
興味深いのは「(Sareeeの)試合が終わった後の拍手は、悔しいけど、ファンもしちゃっている」=「ファンも認めている。認めているから、より強いブーイングで返す」という構造があると話す。
しかも「これはSTARDOMとSareeeという存在がつくった現象なので、それがプロレス界の中心の話題になるんだったら、話題の中心はSTARDOMとSareee」という認識があり、そうやってホットな話題を提供できていることを喜ばしく思っている様子が窺える。
実際、Sareeeに直接、誹謗中傷をDMするなんてことがあったならそれはやり過ぎだとは思うものの、「本当に(朱里がSareeeに)負けて怒ってた人もいたし、(SareeeにSTARDOM勢が)勝って泣いていた人もいた。だからお客さんからしたら、なんだあいつってなるんですけど、そこまでの熱はここ何年のプロレス界で起きたかっていうと、それはすごいこと」と岡田社長は自信を持っている。
ちなみにこの現象の行方だが、岡田社長は「自分でコントロールできるわけもなく、なるようになってくれ」と動向を注視している。
なお、次回は噂されるSTARDOMの東京ドーム進出を含めた気になる話題について触れる。
(一部敬称略)
