【電波生活】放送30年の名物番組『世界遺産』 スタッフ日本からわずか3人…グリズリーいる森でバギー故障、野宿覚悟も
世界各地の世界遺産を美しい映像で伝え、視聴者を魅了するTBS系『世界遺産』(日曜午後6時)が番組開始30年目の節目を迎えた。チーフプロデューサー(CP)・佐野香さんと総合演出・江夏治樹氏に番組に込めた思いや知られざる取材現場の様子、なぜナレーションが俳優ばかりなのかなど舞台裏を取材した。すると次々と驚きの話が……。

放送開始から節目の30年目 スタート前にはスタジオ構成で有名歌手のMC起用案も
世界各地の世界遺産を美しい映像で伝え、視聴者を魅了するTBS系『世界遺産』(日曜午後6時)が番組開始30年目の節目を迎えた。チーフプロデューサー(CP)・佐野香さんと総合演出・江夏治樹氏に番組に込めた思いや知られざる取材現場の様子、なぜナレーションが俳優ばかりなのかなど舞台裏を取材した。すると次々と驚きの話が……。(取材・文=中野由喜)
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番組を作り上げているのは美しい映像とナレーションと音楽。素材その物の素晴らしさをシンプルに伝える。飾り気がなくシンプルなゆえに番組がどう生まれたのか企画段階が気になる。
佐野CP「残念ながら30年前の事は分からないのですが、当時のことを知る先輩プロデューサーがある雑誌の取材を受けた時の記事をひも解いてみました。それによりますと、まず30分の放送枠で世界遺産をお伝えすることが決まったあと、演出についてはいろいろな案が出たようでした。中には、スタジオ構成で有名な歌手の方をMCに起用する案もあったようでした。結論としては、世界遺産という対象物に実直に向き合い、とことん撮影にこだわって勝負する番組にする方針になったようです。番組は30年間伝え方、演出がほぼ変わっていません。あの英断をしたからこそ30年続いたと思います。素材に力があるからスタジオやMCは必要ない、それは今もこの番組を多くの方が見てくださっているということで正しい判断だったと思います。実直に対象物に向き合い、音楽とナレーションだけを添えてお届けするという軸を変えずに30年お届けしています」
取材する世界遺産をセレクトする基準も気になる。
江夏氏「放送したことがない新しい所をやりたいと心がけています。あとは国、地域が偏らないように配慮し、広大な自然遺産なら過去に放送した際は一部しか撮影していないから、もっと撮ろうなど、いろんなことを考えています。今も2年後の放送を見越して動いています」
放送の2年前から動くとは驚きだ。
江夏氏「対象となる世界遺産のベストな季節に行って撮影し、放送をふさわしい日本の季節に…たとえば夏の映像なら日本の夏まで約1年映像を寝かしていることもあります」
文化庁によると8月時点で世界遺産は1248件あるされる。年間約44本の番組を30年間続けて制作してきたという。するとほぼ網羅したと思うのだが……。
江夏氏「まだ700件程度です。できれば全部の世界遺産を撮影したいという気持ちはあるのですが、世界情勢などで困難な事もあります。紛争地域やたどり着くにはとても過酷で危険な場所も少なくありません」
ロケ先選びのポイントを尋ねた。
江夏氏「映像勝負の番組なので、絵になるかどうか、いかに驚きの映像を撮れるかを一番大事にしています。事前に写真1枚でもいいんです。写真1枚見て面白そうと思って、撮影候補地を検討することもあります」
日本から行くクルーの人数を聞いて驚いた。
江夏氏「3人です。ディレクターとカメラマンとビデオエンジニア(音声や機材管理などを担当する技術スタッフ)です。あとは現地の通訳兼撮影コーディネーターと組んでロケを行います。1回の取材は5日から1週間ほどでしょうか」
放送では分からない撮影現場の苦労など舞台裏も尋ねてみた。
江夏氏「みんなが私に大変だねと言うのは、朝日を撮影するために朝3時に起きるとか、現場まで車で12時間移動とか……。他の人には大変なようですが私はマヒしているみたいで、全然苦じゃないんです(笑い)。去年は約10日間キャンプしながら、アラスカとカナダの氷河地帯の撮影をしました。難しいのは、どこで撮影を切り上げるかの判断。粘るとその後予定していた対象が撮れなくなるので、何を優先させるかを絶えず考えています。あとは、現地に行ってみたら『事前に聞いていた話とは違う!』ということは多々あります。海外ロケでは、想定の半分撮れたらOK。あとは何を見つけて撮るかという感じで、ずっと撮影対象を探し、ずっと景色を見ています」
危険なこともあるだろうか。
江夏氏「北米のグリズリーのいる森で乗っていたバギーが故障し、野宿を覚悟してブッシュでテントを作り、魚を釣って食べました。でも深夜12時頃に技術スタッフがケーブルをいろいろ繋いでいたらエンジンがかかって何とか帰れたということもありました」
ここでナレーションについても尋ねた。初代の俳優・緒形直人から9代目となる今の鈴木亮平まで俳優が務めている。理由は?
佐野CP「30年前のことは想像になりますが…、本当にシンプルな番組なので、一般的な番組のような演出はありません。そこでナレーションを職業とする方ではなく、『世界遺産』という番組にフィットするある世界観を持つ俳優さんの力を借りようということになったのだと思います。現在ナビゲーターを務めてくださっている鈴木亮平さんは世界遺産への深い愛と知識のある方。視聴者の方に世界遺産をより魅力的に伝える力のある方だと感じています」
ナレーションはゆったりリズムで言葉少なめ。
佐野CP「撮ってきた映像をお届けする時、多くの言葉は必要ないという方針でいます。これほどゆっくり読んで原稿量が少ない番組は珍しいと思います。もっと少なくしたいと思っているぐらいです。そこがこの番組の特徴です。空白を作ることで視聴者の方が自分で解釈したり、映像をじっくり見てもらえると思います」
最後にテーマ曲について聞いた。5日の放送からリニューアルされVaundyがオーケストラ楽曲のレコーディングに挑んだ新曲『軌跡』に。
佐野CP「30年目という節目の年に新しい曲を授けていただきました。これからも未来につながる『世界遺産』という番組にピッタリの曲。ファンの方もVaundyがこんな曲を作ったんだ!と驚くと思います」
佐野CPは「私自身、制作スタッフの一人として、地球や人類が残してきた物はとてつもなくすごいと感動しながら毎週放送しています」と語った。その“リスペクト”がシンプルで飾らない番組作りを支え、番組が30年愛されている要因なのだろう。
