水上恒司が芸名を捨てたワケ 3年前の決断…主演ドラマで共感「何者でもない自分と重なる」

10月6日からスタートするテレビ東京系連続ドラマ『シナントロープ』(月曜午後11時6分)で主演を務めた俳優の水上恒司。ドラマでは「まだ何者でもない」主人公を演じる26歳が、自身のキャリアの転機や役者としての挑戦、そして本名で活動することを選んだ理由について語ってくれた。

インタビューに応じた水上恒司【写真:増田美咲】
インタビューに応じた水上恒司【写真:増田美咲】

2022年に前所属事務所を退所して本名で活動開始

 10月6日からスタートするテレビ東京系連続ドラマ『シナントロープ』(月曜午後11時6分)で主演を務めた俳優の水上恒司。ドラマでは「まだ何者でもない」主人公を演じる26歳が、自身のキャリアの転機や役者としての挑戦、そして本名で活動することを選んだ理由について語ってくれた。(取材・文=平辻哲也)

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 元は甲子園を目指す野球少年だったが、その後、演劇に目覚め、2018年の連続ドラマ『中学聖日記』で鮮烈なデビューを飾り、その後も順調にキャリアを重ねてきた。本人はその歩みを冷静に振り返る。

「前の事務所に入ったこともそうですし、その事務所でやってきた役や作品も転機の1つです。入ったこともやめたこともそうですし、その中で出会ってきた人たちの存在も大きかったです」と語る。人生の節目は1つではなく、点が線になって現在の姿につながっているという。

 大きな節目となったのが、2022年に前所属事務所を退所し、芸名「岡田健史」から本名で活動を始めたことだ。退所の際に「何者でもなかったただの少年だった私を上へ上へ引き上げてくださった全ての皆様に心から感謝申し上げます」と感謝を伝えた言葉は、主演ドラマ『シナントロープ』のまだ何者でもない男、都成剣之介の姿とも重なる。

「僕自身は飾った言葉を使うタイプではありませんが、おっしゃるようにそれは都成剣之介そのものでもあると思います。でも都成も決して『何もない』わけではないんです。周りから見れば絶対に何かを持っているはずだと言われる。でも自分のことになると冷静に見られない。人はそういうものだと思います」と共鳴をにじませる。

 本名である「水上恒司」で活動する選択も、そのタイミングで下した。

「スターになりたいとか有名になりたい気持ちは全くありません。ただ、やりたい芝居をやるために必要なことを身につけていけば、自ずとそうなっていくと思いました。悪いことをしているわけではないので隠す必要はないですし、『水上恒司』でやるのが自然だと思ったんです」と明かす。

 芸名を使い始めた時には直感的な違和感があったといい、「人間は慣れてしまいますが、その違和感を払拭するためにも本名で勝負しようと思いました。海外では芸名を使わないのが普通ですし、そう考えると日本が独特なのかもしれません」と率直に語った。

テレビ東京系連続ドラマ『シナントロープ』で主演を務める【写真:増田美咲】
テレビ東京系連続ドラマ『シナントロープ』で主演を務める【写真:増田美咲】

際立つ役柄の振り幅

 今年の出演作を振り返れば、その振り幅の大きさが際立つ。『九龍ジェネリックロマンス』(公開中)では34歳の大人の男を、『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』(12月5日公開)では15歳の高校生を演じ、さらに『シナントロープ』では21歳の大学生を演じている。

「ひと回り以上違う役を演じるのは本当に大変でした。でも役者って経験がなくても“やった風に”見せなくてはいけない。不思議な職業だとつくづく思います」と話す。特に大学生役については「僕自身、大学には1か月しか行ったことがないので、容易ではありませんでした」と率直に明かすが、それをどう演じるかが俳優としての醍醐味になっている。

 無精ひげを蓄え、大人の色気をまとった『九龍ジェネリックロマンス』についても、本人は新しい発見を得ている。

「男性の方に大人っぽいとかかっこいいと言っていただけるのがうれしいですね。日本人の女性はヒゲに厳しめの審美眼の方も多いですが、かっこいいと言ってもらえるのはありがたいです。本当はもっと生えるんですが、オファーをくださる方々からはヒゲのイメージはあまり持たれていないと思います」と笑った。

 そんな日々は多忙を極めるが、本人は「生き抜けている感覚はあまりありません。失敗と成功を繰り返しながら、何もつかめない霧の中を進んでいるような感覚です」と心境を吐露する。だが同時に「そうした中でしか得られないものがある」とも語り、前向きに歩みを続ける姿勢を崩さない。「こうしたインタビューの場で刺激をいただけるのはありがたいことです」と笑顔を見せた。

 数々の転機を経て本名での勝負を選んだ水上。26歳となった今、役の幅を広げながら真摯に芝居に向き合うその姿は、これからの俳優人生をさらに豊かなものにしていきそうだ。

□水上恒司(みずかみ・こうし)1999年5月12日生まれ、福岡県出身。2018年『中学聖日記』で俳優デビューし、ドラマアカデミー賞助演男優賞を受賞。19年に『博多弁の女の子はかわいいと思いませんか?』でドラマ初主演。20年には映画『望み』『弥生、三月-君を愛した30年-』『ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-』に出演し、日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞した。21年『青天を衝け』、22年には阿部サダヲと共演した映画『死刑にいたる病』でW主演。23年『ブギウギ』に出演し、映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。24年は『熱のあとに』『八犬伝』『本心』などに出演し、25年は『九龍ジェネリックロマンス』『火喰鳥を、喰う』が公開。12月には主演映画『WIND BREAKER』の公開を控える。

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