「墓じまい」時代に異例の大ヒット 明治天皇の玄孫が仕掛ける“古墳墓”「当初は何を言ってるんだと」

少子化と核家族化の波が押し寄せ、日本の「お墓文化」は大きな転換点を迎えている。かつては家族や親族が代々守り続けることを前提としていたお墓も、継承者不在により「墓じまい」が全国で急増。樹木の下に眠る自然志向の樹木葬といった新しいスタイルが登場する一方で、従来型の石の墓は次々と閉じられている。そんな逆風の時代に大ヒットを記録したのが「古墳墓」だ。仕掛け人は、明治天皇の玄孫で作家、政治評論家として知られる竹田恒泰氏。なぜ令和に古墳なのか。その背景と仕掛け人の思いを探った。

明治天皇の玄孫で「古墳墓」を手掛ける竹田恒泰氏
明治天皇の玄孫で「古墳墓」を手掛ける竹田恒泰氏

海外展開も視野に

 少子化と核家族化の波が押し寄せ、日本の「お墓文化」は大きな転換点を迎えている。かつては家族や親族が代々守り続けることを前提としていたお墓も、継承者不在により「墓じまい」が全国で急増。樹木の下に眠る自然志向の樹木葬といった新しいスタイルが登場する一方で、従来型の石の墓は次々と閉じられている。そんな逆風の時代に大ヒットを記録したのが「古墳墓」だ。仕掛け人は、明治天皇の玄孫で作家、政治評論家として知られる竹田恒泰氏。なぜ令和に古墳なのか。その背景と仕掛け人の思いを探った。(取材・文=幸田彩華)

 竹田氏の父方のお墓は、宮内庁管理の古墳だった。幼少期から「お墓参りといえば古墳」という体験を重ねてきたことが着想の源だという。

「最初は父の墓を古墳で作れないかと思ったのですが、売っているはずもなく。石材店や霊園といろいろと計画を練っているという話を友人にしたら『古墳、面白い』という反応が多かったんです。いろんな人の話を聞いてみたら『古墳に入りたい!』という人が多いということが分かりました。古墳きっかけで、古墳時代に興味を持ってくれる人がいたらうれしいなという思いです」

 現在、千葉・野田ほたるローズガーデン、香川・高松ほたるローズガーデン、大阪・大阪メモリアルパークで販売中。宮城・大崎市、群馬・川場村、京都・亀岡市、広島・東広島市、広島市、愛媛・松山市で計画が進む。さらに、鹿児島・鹿児島市やイギリス・フォードハムも開発候補地に挙がっている。

 大阪メモリアルパークでのプレオープン販売では、280区画が24時間以内に完売。名門霊園という立地条件もさることながら、「古墳に入れる」という新鮮な響きが多くの人々を惹きつけた。

 事業は国内にとどまらない。イギリスではすでに計画地が決まり、法的手続きを進めている段階だ。日本人居住者が多いにもかかわらず仏教墓地が存在しない同国にとって、日本式の古墳墓は画期的な存在となるだろう。

 南アフリカの霊園経営者が「これは何だ」と驚いたように、古墳墓は世界にとっても未知の文化。「1800年前からある天皇の墓と知るとびっくりしていました。建国の象徴ともいえるものですので、古代の日本や古墳時代、建国に意識を向けていただけるきっかけになればありがたいなと思います」と竹田氏は語る。

 説明会には好奇心旺盛な参加者が訪れ、真剣に耳を傾ける。質疑応答では「少子化で墓を守れない」「子どもは地方に散らばり、どこに墓を建てればよいか」「自分が認知症になったらどうやって納骨できるのか」など切実な声が寄せられる。

 購入者の多くは50~70代。次男で自分たち用の墓を考える人、継承者のいない長男、あるいは「自分の代で墓を閉じる」と決断した人たち。「最後ここに自分が入るんだって思えると、大きな課題がクリアになったと言いますか、ホッとするとおっしゃる方が多いです」――そんな安堵(あんど)の声が印象的だった。

 一基の建設には約半年を要する。最初はやり直しの連続だったが、経験を積むことで工期は短縮できる見通しだ。

 それでも古墳の建設は想像以上に難しかった。「古墳自体、建設する会社も作ったことがないので、構造計算をどうするのか課題がありました。土を盛ってるだけのように見えて、簡単なものではない。地震も台風も来る。それに耐える構造を現代工法でどう確保するか、設計士がいろいろ頭を悩ませながら考えました」。

 加えて、墓地埋葬法により古墳墓は霊園内にしか設置できない。霊園の経営母体は宗教法人や公益法人、自治体に限られるため、新設のハードルは高い。鳥居を建てて神主が祭祀を行う形式を敬遠する寺院もあったが、神仏習合の歴史に理解を示す霊園と出会い、ようやく形となった。

「今でこそ『知ってます』『すごく人気のようですね』と知ってくださる方は多いですが、当初は何を言ってるんだということで、話を聞いてもらえないところが多かったです。霊園業界が閉鎖的な業界ですので、知らない人から提案があってもまともに聞いてくれない感じはありました。だからこそ、エンディング産業展に出店して、それを見た霊園さんの方から声をかけていただくということで話が進みました」

埴輪、三種の神器の再現にもこだわった

 歴史的再現へのこだわりも随所に込められている。“なんちゃって古墳”ではなく、教育委員会から古墳の図面を取り寄せ、本格的な復元に挑んだ。古墳本体はもちろん、埴輪(はにわ)、三種の神器まで――。考古学者と緻密に打ち合わせを重ね、3世紀の大和の古墳をモデルに忠実な再現を行った。

「1800年前の人々が考え悩んで作ってきたものを、自分たちが同じような気持ちを持ってつくる作業を通じて、古墳時代の人たちの気持ちを追体験するということを心がけています。国のリーダーをしっかりと葬ることによって、国がこれからも栄え、人々が幸せになれると。亡くなった方のためであると同時に、残された自分たちが幸せになる術でもあったわけですよね。お墓を整えて、お墓参りをすると気持ちがいいですし、先祖に守られてるっていう気持ちにもなれる。なので、そういう人々の思いがのっかるものになりますので、形だけまねをしたということだと買ってくださる方に失礼。とにかく古墳時代の人の気持ちに、身を置きながらお墓を作りました」

 剣や鏡、勾玉(まがたま)も当時の工法を研究し、職人に依頼して寸分違わぬ復元を目指した。「埋めてしまうものに、そこまで労力をかける。それは御霊の安寧を祈るために、惜しみなく力を注いだ証拠ですから」と竹田氏。

 職人から予算を尋ねられた際も「いくらでも結構です。とにかく良いものを作ってください」と答えたという。妥協を許さぬ姿勢は、単なる商品づくりを超え、失われつつある伝統技術の継承にもつながっている。

 樹木葬の費用は埋葬方法などによって変わり、価格帯も約5万円~150万円と非常に幅広くなっている。納骨人数やお墓の立地、運営主体によっても変動するが、平均的には60万円前後で契約する人が多いとされる。

 古墳墓の価格帯は場所によって異なるが、55万円程度から購入でき、これは樹木葬とほぼ同水準だ。「安価でありながら荘厳な作りで、年2回の丁寧な祭祀が行われる」のが特徴で、竹田氏は「安いけれども満足度の高いお墓に仕上がっていると思います」と胸を張る。

 さらに、認知症や無縁仏化のリスクに備え、死後事務委任による納骨代行サービスの導入も検討している。購入したのに納骨されない、という不安を解消する仕組みだ。

 古墳墓の魅力は死後にとどまらない。購入者同士の交流会「古墳同窓会」が年1度開催され、第1回(千葉)は大盛況。「同じ古墳に入る人を知って安心した」「今後も仲良くできると思うとワクワクする」と好評を博した。

 竹田氏は「私たちは、ただお墓を販売するのではなくて、死ぬまで少しでも有意義に生きられる、そんなお手伝いをできたらいいなと思っております」と語る。お墓を媒介に新しいコミュニティーが生まれるのは、従来の墓文化にはなかった発展形だ。

 埋葬スタイルの比較でも古墳墓は独自の存在感を放つ。一般墓は継承者を前提とするため少子化時代には維持が困難。納骨堂は建物の寿命が限られ、百年後には存在しない可能性がある。樹木葬は人気だが質の差が大きく、粗末なものも少なくない。竹田氏は散骨についてこう語る。

「散骨はあまりおすすめしていません。散骨してしまうと2度と再び元に戻すことができないので、後戻りが全くできない。ここじゃなかったと後悔しても、戻すことはできない。海や宇宙にまいたら供養の場がなくなる。海にまいたら土に還ることもできず、人間が海の中で生きてる生物だったらいいんですけども、波に揺られて落ち着かないだろうと思います。海の中って30分とか入ってると疲れますよね。土に帰りたいと言いながら、なぜ海なのかと突っ込みたくなりますね」

事業計画は全国で100基の古墳墓を建設

 事業計画は、全国で100基の古墳墓を建設するという壮大なものだ。年間20基のペースで各都道府県に広げていく構想を描く。さらに業界の常識を覆すIT化にも挑戦。インターネット販売やクレジット決済、霊園管理システムの導入など、霊園業界として次々と「日本初」の取り組みを打ち出している。

「インターネットでお墓を販売しているのは全国でも私たちだけです。従来はサイトがあっても、問い合わせや見学申し込みは電話。実際にネットで買える状態にはなっていません。霊園管理にしても、書類はすべて手書きや郵送で、ここまで遅れてたのかとびっくりするぐらい。だから事務作業も大変だと思います。私たちは古墳管理システムを作っていますので、樹木葬も管理できるように開発しているところです。新参者だからこそ、他の業界とのギャップとかもわかりますから、面白いことができているんだと思います」

 最後に竹田氏は「お墓と日本人らしさ」の関係に言及した。

「日本人は先祖を大切にしてきた民族です。親孝行をするということは、親を丁寧に送る、祖父母の御霊の安寧を祈るということにつながります。先祖の先祖の先祖は神代の世界に行きますから、神社仏閣を重んじること。先祖どうでもいいけど神様だけはっていうのもおかしな話になってくるんですよね。この日本人らしさってすごくそういうところに詰まっているなと思います。墓が保てない、衰退していくっていうのをただ放置して日本人の精神性が揺らぐのではなく、形は変わるけれど先祖を大切にする、親を大切にするという気持ちが、次世代、その次の世代まで受け継がれていくようになったらいいなと思っています」

 令和の世に突如として姿を現した前方後円墳。1800年前の祈りと現代を結び、新たな「シン古墳時代」の幕開けを告げている。

次のページへ (2/2) 【写真】“妥協なし”で作られた剣や勾玉、古墳墓
1 2
あなたの“気になる”を教えてください