「想定外すぎる」親知らず抜歯でICU搬送 いったい何があった?…専門医が語るリスク
10代後半から20代にかけて奥歯のさらに奥に生える親知らず。その抜歯手術を全身麻酔下で受けたところ、目覚めたらICU(集中治療室)にいたというSNS上の投稿が、大きな話題になっている。いったいどのような状況だったのか。投稿者の女性を取材するとともに、専門医に詳しい話を聞いた。

車で待機中の家族が想像すらしない事態に
10代後半から20代にかけて奥歯のさらに奥に生える親知らず。その抜歯手術を全身麻酔下で受けたところ、目覚めたらICU(集中治療室)にいたというSNS上の投稿が、大きな話題になっている。いったいどのような状況だったのか。投稿者の女性を取材するとともに、専門医に詳しい話を聞いた。
親知らずは抜かずに残せる場合もあるが、強い痛みや腫れを繰り返したり、虫歯や歯周病の原因となる時には抜歯が勧められる。特に横向きや斜めに生えたケースは町の歯科医院では対応が難しく、大学病院などで外科的な手術を受ける人も少なくない。
当初、女性の手術は30分程度で終わる予定だった。過去に3度の全身麻酔経験があり、今回も安心していた。しかし、麻酔から目覚めると予想もしない場所にいた。
「全身麻酔で水平埋伏智歯の抜歯 ただの親知らずなのに 目覚めたらICUにいました」
女性の投稿に、ネット上は騒然。「想定外すぎる」「目覚めてICUは怖いですね」「ビックリです」「まさに私めの親知らずもこの状態で、この投稿読んで震えました」「麻酔とか緊張で気絶したりする人も居てますしね」「5年半前、この様な状態で全身麻酔で3本親不知を抜歯して、ICUに一泊しました」「昔、彼氏が親知らず抜歯後、バイ菌が入ったかなんかで喉まで腫れて呼吸困難になり入院しました。大げさに痛がってるなと思ってたら大ごとでした」と多くの声が寄せられた。
抜歯された親知らずは右下の水平埋伏で、完全に横向きに埋まっている状態だった。以前は痛みはなかったが、虫歯治療で撮ったレントゲンで発覚。1年前くらいから親知らずの上の歯茎が広がり、食べカスが詰まりやすくなったため、かかりつけ医から抜歯を勧められた。
地域に口腔外科がなかったため、片道1時間の大学病院を紹介され、局所麻酔の日帰り手術と全身麻酔での入院手術を選択できる状況だったが、怖さから全身麻酔を選んだという。
手術前は緊張もなく手術室へ向かった。しかし、麻酔から目覚めたとき、もうろうとする中で看護師から思わぬ言葉を聞くことになる。
「全身にじんましんが出たため、念のためICUにいます」
手術中に顔から足先まで膨隆疹が出ていたが、目覚めたときにはすでに消えていたため、どの程度ひどかったかは見ていない。元々アレルギー体質で、抗生物質で合わない薬があるため、担当医からは、今回も抗生物質が原因ではないかと言われたが、他の薬も使用していたため特定は困難だった。
当初の手術説明では、準備と後片付けを含めても1時間半ほどで終わる予定だった。夫はその間、車で待機しており、まさかICUに入っているとは全く想像していなかったという。
今後手術を受ける際は、今回の経緯を医療機関に伝えると情報を共有できるとの助言を受けた。また、抗生物質を処方してもらう場合は、セファゾリンは避けるように指示された。
入院するにあたり、まだ2歳の娘と離れて過ごしたことがなかったので心配になったという女性。上の子ども2人は中学生と小学生で理解できる年齢だったが、ICUに入り連絡が取れない時間があったため、不安にさせてしまったという。幸い、夜には一般病棟に戻ることができ、家族に無事を伝えることができた。
「今回、何気なくスレッズに投稿したところ大きな反響があり、同じ水平埋伏智歯の方が多くいらっしゃることに驚きました。これから同じ手術を控える方もいらっしゃり、余計な不安を与えてしまったのではないかと少し後悔もしましたが、全身麻酔にはリスクがあることを知っていただけたなら、お役に立てたのではないかと思っています」と話した。
親知らずの抜歯手術でICUに運ばれるのは、どのような原因があるのだろうか。
歯科専門医が指摘する手術のリスク
全身麻酔による親知らずの抜歯を数多く手がけてきた大神宮デンタルクリニックの石毛俊作院長に聞くと、「全身麻酔下で親知らずの抜歯術を行った後にICUに運ばれるケースとして一番多い原因としてはアナフィラキシーショックが挙げられます。他の原因として考え得るのは出血や術後の腫れなどで気道閉塞を起こすケースですが、ごくまれです。今回のケースでは全身にじんましんが出現したことからおそらく使用した薬剤によるアナフィラキシーショックが原因であろうと考えられます。全身麻酔の手術では数多くの薬剤を使用するため、どの薬剤が原因であるかを特定することは困難でしょう。筋弛緩薬や抗生剤が原因であることが多いです」と説明。「他にも臨床症状が分かれば、もっと正確にアナフィラキシーショックであったか分かるでしょう」と続けた。
アナフィラキシーショックは、薬や食べ物、虫さされなどが原因で、全身に急に強いアレルギー反応が出現。血圧が急に下がったり、意識がもうろうとしたりして、命に関わることもある。
これから全身麻酔での手術を予定している人への注意点として、「医療行為に対する生体反応は人それぞれであり予測困難な場合もあります。術前に必ず手術に対するインフォームドコンセントがありますので、疑問点や不安なことは必ず主治医に聞いて納得されてから同意書にサインをしてください。しかしながら親知らずの抜歯でICUに運ばれることはかなりまれなケースではあると思います」と指摘した。
