SMAPファン激怒 斎藤元彦知事の元ボランティア多田ひとみ氏「ビストロSMAPの料理はシェフが」発信に感じるもの

7月の参院選兵庫選挙区で国民民主党公認候補だった多田ひとみ氏(現在は同党を離党)が突然、人気番組だったフジテレビ系『SMAP×SMAP』(2016年12月26日終了)についてSNSに投稿し、炎上した。「番組コーナーで本物の料理を作っていたのはSMAPメンバーではない」という投稿内容に批判が殺到。当初の投稿は削除されたが、多田氏側の発信は止まらなかった。この事態に元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士は「炎上の選挙利用」の可能性を指摘した。

西脇亨輔弁護士
西脇亨輔弁護士

元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士が指摘

 7月の参院選兵庫選挙区で国民民主党公認候補だった多田ひとみ氏(現在は同党を離党)が突然、人気番組だったフジテレビ系『SMAP×SMAP』(2016年12月26日終了)についてSNSに投稿し、炎上した。「番組コーナーで本物の料理を作っていたのはSMAPメンバーではない」という投稿内容に批判が殺到。当初の投稿は削除されたが、多田氏側の発信は止まらなかった。この事態に元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士は「炎上の選挙利用」の可能性を指摘した。

 悪名は無名に勝る。この言葉が人命を預かることもある政治の場に押し寄せているように感じる。だが、それでいいのか。

 9月9日。SMAPのデビュー記念日として毎年ファンが祝うこの日に、参院選兵庫選挙区の候補者だった多田ひとみ氏が、Xに次のような投稿をした。

「テレビ局の知り合いから聞いてびっくり。『ビストロSMAPの料理、実は裏でシェフが作ってたんだよ』って」

 多田氏が言及したのは、『SMAP×SMAP』内でメンバーが料理の腕を競った名物コーナー『ビストロSMAP』。多田氏は「SMAPが料理しているシーンは撮影用で本物の料理はプロの手によるものだったらしい」とした上でこう続けた。

「言われてみれば…超売れっ子の彼らがいきなり渡された食材で一流料理を作るのは難しいですよね」

 多田氏と言えば、先の参院選中に「日本中学生新聞」の中学生記者に、昨年の兵庫県知事選で斎藤元彦陣営のボランティアをしていたことを暴露され、国民民主党候補としての訴えとの整合性を問われるなどした。落選後は同党を離党し次回の兵庫県議選に向けて活動中といい、最近では「石丸伸二氏を兵庫県副知事に」などと訴えている。

 多田氏は「テレビって、必ずしも真実をそのまま映しているわけじゃないんだなあと改めて実感」とも投稿したが、これに対して「番組を観覧したがメンバーがきちんと作っていた」という証言が続々寄せられるなどSMAPファンに限らず怒りの声が集まり大炎上した。これに対し、多田氏はテレビ局関係者に話を聞いたとし、SMAPの料理には「プロ担当という噂があるが一次証言なし」の部分もあるなどと説明してさらに炎上、今月13日未明に「謝罪」動画が公開されることになった。

 ところが、その動画も開始わずか十数秒で「謝罪」ではなくなっていたのだ。多田氏は冒頭こそSMAPメンバーらに「不愉快な気持ちにさせてしまい誠に申し訳ございませんでした」と述べたが、続けてこう語り始めた。

「私が参議院選挙に当選しなくて良かったと多くの方が思われたことと思います。しかし、党のトラブル、私の失敗などがなければ『当選した可能性が高い』と言われています。つまり、少し派手であったり、党の人気があったりすれば、私のような者でも議員になることができるんです。嫌ではないでしょうか」

 そして、こう呼びかけた。

「SMAPとともに政治に興味をもって頂けないでしょうか」

 動画では肝心の「ビストロSMAPの料理はプロが作った」という発信の根拠の説明や、内容の訂正などはされていない。一方で、SMAPファンが政治に興味がないことを前提にするかのような「政治に興味を持って」という発言がなされている。一体、この動画は何を狙いに作られたものなのか。そんな疑問への答えは多田氏のもう一つのX投稿にあると私は思う。その内容は次の通りだ。

「私が今回のSMAPの件で売名行為と言われてますが、それでもいい。皆さまがしっかりと本当に働く市議を見極め政治に興味を持たれ地元の市議会区議会を見てもらえますように」

 そして、この投稿には1人の大阪・摂津市議のXへのリンクが貼られていた。多田氏はこの市議の応援を公言している。摂津市議選は今月14日告示だ。すると一連の多田氏の行動には、次のような可能性が浮上する。

 まず、9月9日のSMAPデビュー記念日にSMAPファンを怒らせる投稿をする。投稿が炎上すれば、多くの閲覧者が集まる。そのタイミングで謝罪しつつ、同時に市議選候補者の宣伝をする。そうすれば、候補者の知名度が上がり選挙結果につながりうる。炎上の基になった投稿は利用後に削除することで幕引きできれば、誹謗中傷の「やり逃げ」ともいうべき状態が生まれる。

 だが、それでいいのか。

 もちろん、この多田氏の行動は「応援」対象の市議とは全く関係なく、その市議にとってただの迷惑である可能性もある。その場合は市議側がはっきりと多田氏との関係を否定し、風説の流布に与しないという声明を出すべきだろう。

 一方で仮に今回のSMAP投稿が選挙運動の「手口」なのだとしたら、SNS選挙の弊害は危険水域に達しつあるように感じる。とにかく目立つターゲットを探し、誹謗中傷して炎上し、炎上による「悪名」を「知名度」として利用する。このやり方が横行したら誰もが誹謗中傷のターゲットとされ、炎上の「燃料」にされかねない。市議選告示直前の「SMAP投稿」の狙いは何なのか、多田氏には説明責任があるのではないだろうか。

 立花孝志氏による「2馬力選挙」が注目され、斎藤氏が再選された昨年の兵庫県知事選をはじめ、選挙をめぐって虚偽や真偽不明の情報が流布される問題は深刻になるばかりだ。この国の選挙のあり方を歪めないためにも、多田氏の「SMAP投稿」問題は削除だけで幕引きさせるのではなく、市議選との関係の有無を徹底して検証し、真相と責任を白日の下にさらされなければならないと思う。そうしないと、選挙のたびに誰かが傷つけられる事態が今後繰り返されかねない。その瀬戸際に今、我々はいるのだと思う。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ)1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。

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