元子役の24歳・前田旺志郎、堀越時代に感じた“嫉妬と焦り” 同級生の活躍を見て悔し涙も
俳優・前田旺志郎が映画『こんな事があった』(9月13日から新宿K’s cinemaほか全国順次公開、松井良彦監督)で主演を務めた。本作は、東日本大震災から10年後の福島を舞台にした17歳の少年アキラの物語。前田が、震災、原発、中断もあった撮影を振り返り、高校時代の意外な思いを明かした。

『こんな事があった』の脚本を読んで受けた衝撃
俳優・前田旺志郎が映画『こんな事があった』(9月13日から新宿K’s cinemaほか全国順次公開、松井良彦監督)で主演を務めた。本作は、東日本大震災から10年後の福島を舞台にした17歳の少年アキラの物語。前田が、震災、原発、中断もあった撮影を振り返り、高校時代の意外な思いを明かした。(取材・文=平辻哲也)
『こんな事があった』は、松井良彦監督が13年の構想をへて完成させたオリジナル作品。母親を原発事故の被曝で亡くし、父親は除染作業員として働きに出て家族が離散した青年・アキラが、心のよりどころを失いながらも人々との出会いを通じて変わっていく姿を描く。美しいモノクロームの映像で、原発事故で青春を奪われた若者たちの姿を描く。前田旺志郎と窪塚愛流をはじめ、井浦新、柏原収史、波岡一喜、近藤芳正ら実力派が集結した。
2011年の震災当時は大阪で小学生。遠い出来事のように感じていたが、脚本を読んだ時には強い衝撃を受けたという。
「震災からここまでの期間、東日本に目を向けていたかと言えば正直そうではありませんでした。でも脚本を読んで、自分が知らなかった現実があることを知って、もっと目を向けるべきだったと感じました。この映画をきっかけに多くの人に知ってほしいと思いました」
脚本に衝撃を受けた前田は撮影に先駆けて、福島第一原発近くも訪れた。そこでの体験は忘れられないものだったという。
「風景一つひとつが衝撃的で息苦しいほどでした。福島第一原発の近くにも行きましたが、町がゴーストタウンのようで、チェーン店に草が生い茂っていたり、比較的新しい建物がそのまま残されていたり。本当に衝撃でした」と語る。
撮影は主にいわき市内で行われた。比較的復興が進んでいる地域だったが、それでも現地の空気を感じることは大きかったという。役作りについては「景色や原発の捉え方を意識すると同時に、家族との関わり方に重点を置きました。この映画は震災の話であると同時に家族の物語でもあるので」と明かした。
演出は松井監督との現場でのやりとりが中心だった。
「事前に細かい指示というより、現場で逐一『ここはこうしてほしい』と伝えられる形でした。任せていただきながら調整していく感じでしたね」と前田。撮影は猛暑の中で進められたが、監督が熱中症になり中断し、翌年に再開することになった。
「撮影中断は残り3~4日の時でした。初めての経験だったので、戸惑いはありました。『このまま走り切りたかった』と思いましたが、仕方なかったと思います。再開時は自分のノートやメモを読み返し、役を取り戻す作業が大変でした」と振り返る。

「事実を伝えること」が役割と自負
共演者との出会いも大きな財産になった。同年代の友人役を演じた窪塚愛流については「とにかくピュアで真っすぐ。真摯に役と向き合う姿が印象的でした」と評し、アキラの親代わりとなる夫婦役の柏原収史と金定和沙については「本当に優しく温かく接してくださり、現場で大きな支えになりました」と感謝を口にした。
作品は全編モノクロで撮影された。
「実際の福島は場所によって本当に色のないように見えましたが、映画の中でアキラが前を向き出すと、白黒なのに鮮やかに見える場面がありました。白黒の中に多様な色を感じられる作品になったと思います」と語る。
原発を扱う作品に出演することへの迷いはなかったのか。
「僕の役割は『こういうことがあった』という事実を伝えること。誰かを批判するのではなく、知ってもらうきっかけを作ることに意義があると思いました」ときっぱり。
また、役柄が17歳ということから自身の高校時代も聞くと、意外な答えも。
「高校時代は堀越学園に通っていて、芸能界で活躍している同級生もたくさんいました。思春期ということもあって、いろんな感情が入り混じっていた時代ですね。仕事が少なく、『自分は学校ばかり行っているな』という焦りや嫉妬もありました。同級生の活躍を見て悔しい思いもしました(笑)。でも今となってはその経験が生きています」と前向きに語る。
その後は大学に進学し、無事に卒業。以前のインタビューでは、「俳優を生涯の仕事とは決めていない」と話していたが、20代半ばに入った今は仕事も増え、「俳優としてやっていく」と覚悟を固めている。「以前より不安や責任を強く感じますが、その中でしっかり向き合っています。柔軟でありながらも、自分の核をしっかり持ち続けたいです」と力強く語った。
□前田旺志郎(まえだ・おうしろう)2000年12月7日生まれ、大阪府出身。05年、子役としてキャリアをスタート。07年からは、実兄の航基とともにお笑いコンビ「まえだまえだ」として活躍。11年には、是枝裕和監督の映画『奇跡』でスクリーンデビューにして初主演を務め、その後、俳優として数多くの映画・ドラマ・舞台に出演。最近の出演作に、ドラマ「舟を編む~私、辞書つくります~」(NHK)、映画『リライト』(松居大悟監督)、『ベートーヴェン捏造』(関和亮監督)、『代々木ジョニーの憂鬱な放課後』(木村聡志監督)など。
