乙武洋匡氏がマラソンの札幌開催を評価「魅力ある都市に目が向けられることはプラス」
作家の乙武洋匡氏(43)が6日、都内で新著「四肢奮迅」(講談社)刊行記念として義足歩行公開練習を行った。
新著「四肢奮迅」刊行記念 5年がかりの国家プロジェクト
作家の乙武洋匡氏(43)が6日、都内で新著「四肢奮迅」(講談社)刊行記念として義足歩行公開練習を行った。
日頃、電動車いすで生活している乙武氏は昨年4月から「乙武義足プロジェクト」に挑戦。車いすを降りて、義足を履き、歩行する訓練に取り組んできた。補助金の出る国家プロジェクトで、乙武氏は5年がかりで、研究者のフィードバックに貢献していく。
通常の障がい者が義足を装着するのとは違い、乙武氏は「三重苦」を乗り越えた。(1)ヒザがない、(2)手がない、(3)歩いていた経験がないの3つで、専門チームを組んで一歩一歩、前に進んだ。
「正直な話をすると、私自身、そんなに義足歩行にはこだわっていませんでした。生活のベースは電動車いすのままです」と振り返った乙武氏が、それでもプロジェクトに協力したのは、電動車いすで暮らす他の障がい者に希望を与えたかったからだ。
「やっぱりもう一度、歩きたいと思っている方が多くいらっしゃる。新しい技術ができて、その可能性が出てきたということを届けたい。いろんな研究者が私の体を使って技術を進歩させる材料にしていただけたら」と使命感に燃えた。
この日は、10メートル歩行で練習の成果を披露した。股関節や体幹のストレッチの後、義足と、バランスを取るための義手を装着した乙武氏は、周囲に支えられながら立ち上がると、ゆっくりと歩き出した。曲がったり、Uターンという応用技もこなし、額に大粒の汗を流しながら、最後まで歩き切った。
最高で20メートル歩いたという乙武氏は、最初に歩いた時のエピソードを紹介。「うれしかったというより、怖さが先に立っていた。実感がわいたのはスマホで映像を見た時。『わあ、歩いてる!』と驚いた」と喜びは半分。一方で「初めて歩いた時の映像をスマホで母に送ったところ、『実は私、あれ見て泣いたんだ』と言ってもらって、感慨深いものがあった」と、表情をなごませた。
歩行には体力が必要と実感し「夜な夜なマンションの内階段を1階から30階まで上がるトレーニングをやったりします」。地道な筋力トレーニングにも励み、義足のソケットはサイズが合わず、1回作り直すほど筋肉がついた。「本当に苦しくて苦しくて楽しい。超えなければいけない壁があまりのも大き過ぎて。3歩進んでは2歩戻るの繰り返し」と回顧しながらも、誇らしげに胸を張った。
今後の目標について、「講演会の機会があると、普段は車いすで袖から出てくる。それを、舞台のすそから義足で登場して講演を始めるなんてことになったら」と告白。「山登りも可能になってくるかもしれない。そういう道筋をつけられたら」と夢を膨らませた。
また、スポーツライター、キャスターとしても活躍する乙武氏は、東京五輪のマラソン、競歩が札幌開催になったことについて「札幌という魅力ある都市に目が向けられることはプラスに捉えたい。決まったことに対してはどうプラスを生み出せるのか、建設的に考えていきたい」と語った。