【あんぱん】脚本・中園ミホさん脱稿後の思い「出し切ったとは思っていません」
俳優・今田美桜が主人公・のぶを、北村匠海が柳井嵩を演じるNHK連続テレビ小説『あんぱん』(月~土曜午前8時)の脚本家・中園ミホさんが、同作の取材会に出席し、130回分の脚本を書き終えた心境や執筆の舞台裏などを語った。作品は漫画家・やなせたかしさんと妻・暢さんをモデルに戦前から戦後の激動の時代を生き抜く夫婦を描く物語。

八木のモデルとささやかれる人物や蘭子との関係にも言及
俳優・今田美桜が主人公・のぶを、北村匠海が柳井嵩を演じるNHK連続テレビ小説『あんぱん』(月~土曜午前8時)の脚本家・中園ミホさんが、同作の取材会に出席し、130回分の脚本を書き終えた心境や執筆の舞台裏などを語った。作品は漫画家・やなせたかしさんと妻・暢さんをモデルに戦前から戦後の激動の時代を生き抜く夫婦を描く物語。
放送スタート当初の4月の取材会では脚本執筆中はお酒を飲み過ぎないようにすると話をしていた。脱稿後のお酒の味はどうだったのか。
「脱稿してすぐ、くらばあ(浅田美代子)と飲みました。ちゃんと二日酔いしました(笑)。朝ドラの脚本執筆中は絶対に二日酔いしないようにと控えていたので、くらばあも私も全開で飲んで大変楽しく過ごしました。後半はよく覚えていないですけど、おいしかったです」
書き終えた感想はどうだろう。
「ほっとしました。遅筆なので、予定通りにちゃんと書けるのか不安でしたが何とか無事に終えたという感じです」
物語も終盤に近づき、放送もあと1か月ほど。終わってほしくないという声が聞こえてくる。特別編やスピンオフへの気持ちはどうだろう。NHKは「視聴者の皆さんの応援の声があればそういう話が出てくるかもしれませんが」としているが……。
「朝ドラを書いているとキャラクターが育っていくので、もっと書きたい気持ちもあります。時間の都合で描き足りなかったエピソードはありますし。短い期間で出なくなった人物の中にはもっと書きたいなというキャラクターはたくさんいます」
嵩の戦友・八木(妻夫木聡)のモデルの一部では、とささやかれる人物もいる。実際はどうなのだろう。
「やなせさんと深い関わりのあるサンリオの創業者・辻信太郎さんです。辻さんは当時やなせさんをずっと支えてこられた方ですが、2人がつながっていたのは反戦の気持ち。もし戦地で出会っていたらより関係が深まるんじゃないかと、嵩が所属していた小倉連隊帯の上等兵として登場させました。サンリオに妻夫木さんと一緒に伺って、ご本人からお話を伺い、許可も頂きました。『僕よりカッコイイね』とおっしゃっていました」
婚約者の豪(細田佳央太)を戦争で亡くしたのぶの妹・蘭子(河合優実)と八木の関係にも言及した。第21週では八木から映画評について鋭い指摘をされる蘭子の姿などが描かれた。
「蘭子が豪と悲恋に終わった後、周りの人から『何で戦死させるんだ』とすごく怒られたんです。複数の人に生きて帰って来てくれと言われました。そういう声は2人の俳優さんの熱演のおかげだと思いますけど、何とか蘭子を幸せにしたくなりました。ただ、それだけ豪ちゃんと蘭子を応援してくださっていると、新しい男性が現れたら誰も許してくれないだろうという気持ちもありました。八木さんは孤児を抱きしめたりして心優しい人ですが、孤独で、この人にも幸せになってほしいなという脚本家の親心みたいなものがあります」
今、26週130回分を書き終え、すべて出し切ったという思いでいるのだろうか。
「実は出し切ったとは思っていません。あれも書きたかったな、このエピソードも書きたかったなということは実はあります」
あと1年ぐらいほしかったとか?
「そうですね。朝ドラ執筆は時間との闘いなので。でも、お酒を思い切り楽しめる時期が先延ばしになってしまうので、これぐらいで良かったかもしれません(笑)」
戦後、戦争が人に残したものをしっかり描いた。その思いをあらためて聞いた。
「私たちは親から戦争の話を聞ける最後の世代だと思うんですが、『あんぱん』を見たことが、親と戦争について話すきっかけになった同級生もいました。これまでずっと口を閉ざしてきたことを思うと、それだけ心に刺さっているトゲが深いんだと思います。子どもには明るく楽しい希望のある話をして、戦争のことは閉じ込めてきたんだと思います。ぜひ、今のうちに戦争の話を聞いてほしいです。そのきっかけになればいいなと思います」
