【あんぱん】松嶋菜々子から「死ぬまでこのままで…」 脚本家が明かす強烈キャラ・登美子の舞台裏
俳優・今田美桜が主人公・のぶを、北村匠海が柳井嵩を演じるNHK連続テレビ小説『あんぱん』(月~土曜午前8時)の脚本家・中園ミホさんが同作の取材会に出席し、キャストへの感謝や感じた魅力、また130回分の脚本を書く上で調べたことなど舞台裏も語った。作品は漫画家・やなせたかしさんと妻・暢さんをモデルに戦前から戦後の激動の時代を生き抜く夫婦を描く物語。

脚本家・中園ミホさん忠信愛国に走ったのぶ演じた今田美桜に「すごく頑張った」
俳優・今田美桜が主人公・のぶを、北村匠海が柳井嵩を演じるNHK連続テレビ小説『あんぱん』(月~土曜午前8時)の脚本家・中園ミホさんが同作の取材会に出席し、キャストへの感謝や感じた魅力、また130回分の脚本を書く上で調べたことなど舞台裏も語った。作品は漫画家・やなせたかしさんと妻・暢さんをモデルに戦前から戦後の激動の時代を生き抜く夫婦を描く物語。
主人公・のぶのモデルとなったやなせたかしさんの妻・暢さんは戦争経験者。当時の女性の手記などを調べると、きちんと教育を受けたほとんどの女性が軍国主義に染まっていたという。だが戦後その人たちは自分を全部塗りつぶすような体験をすることに……。
「そんなヒロイン・のぶの人生はどういうことなのか、そこは本当に苦労しました。調べれば調べるほどそういう気持ちになりました。これまでの朝ドラは、ヒロインの視点から銃後の守りを描いた作品が多かったので、ヒロインはみんな反戦を唱えていましたが、当時、反戦主義を貫く蘭子のような人はごくわずかで、忠信愛国に走った、のぶの方が普通の女の子の姿でした」
愛国の鑑と言われた後、終戦を迎えたヒロイン・のぶを今田が演じた。
「正直に書かねばと思いましたが、実際に書いてみると、たとえば出征した妹・蘭子(河合優実)の婚約者・豪(細田佳央太)が戦死した時、のぶが蘭子に向かって言う“立派やと言うちゃりなさい”というセリフを書きながら『美桜ちゃん、大丈夫かな……』とか、見ている人も『何だこのヒロイン』と思うだろうなと思いました。私も書いていて苦しくなり、ものすごく辛かったです。ヒロインについていけないなど、否定的な意見もありましたが、今田さんは健気に演じてくれて、すごく頑張ったと思います。あそこだけ見るとヒロインはヒールですよね。でも、私は当時は、のぶのような女性が大半だったということを皆に知ってほしい。だから戦争は恐ろしいんです」
北村が演じた嵩の戦地のシーンの描写も見ごたえがあった。耐え難い空腹の中、恵んでもらったゆで卵を殻ごと食べていた。
「北村匠海さんが本当にすばらしく、自分の肉体ギリギリで演じてくださいました。俳優さんたちは絶食してあのシーンに臨み、空腹がどんなにつらいか、空腹が人を変えることもあるということを自分の肉体で演じてくださったのです。映像を見た時は、『殻ごと食べるんだ』とビックリしました。脚本には『かぶりつく』としか書いてないんです。驚きましたし、衝撃を受けました。本当に頭が下がる思いでした。見ている方たちに伝わったと思います」
他にも驚いた人物がいたという。幼い息子の嵩を捨てて再婚した登美子役の俳優・松嶋菜々子だ。
「松嶋さんが演じた登美子は強烈なキャラですよね。映像を見ているうちにさすがにお茶の間の皆さんは引いてしまうかなと思い、途中でいい母親にしようとしたんです。そしたら監督を通して、松嶋さんから『いえ、私は(登美子が)死ぬまでこのままでいきたいです』と言ってくださったので、思い切り書けました。大好きな女優さんで、ますます尊敬しました。視聴者の反応が怖かったですけど女性からは『登美子好き』という声があがって良かったです」
松嶋菜々子と一緒に仕事をした感想をあらためて語った。
「やはり大好きな人と思いました。忖度しない女性をあんなにチャーミングに演じることができ、しかも品があって美しくて、セリフを書けてうれしかったです。私は遅筆なのですが、登美子のセリフだけはよどみなく書けるんです。ずっと書いていたい好きなキャラクターです。多分、やなせさんのお母さんが見ても怒ってないかなと思っています」
若手俳優についても印象を語った。
「千尋を演じた中沢元紀さんもオーディションに呼んでほしいと私がリクエストしたので、親心のような気持ちで見ていましたが、本当に立派に成長しました。これからもっと大きい俳優さんになると思います。高橋文哉さんはいつもカッコよく、シュッとした感じだったので、そうじゃない面を見たいと思って書きました。ケンちゃんは出てきただけでその場が明るくなるような存在で、素晴らしい演技でした。コメディーのセンスもあるし、これからもっと活躍する俳優さんだと思います」
脚本を書く中で思わぬ方向に育ったり、当初と大きく違う方向に進んだキャラクターを問うと北村の名前が挙がった。
「北村匠海さんの嵩は、今や嵩のような人が、やなせたかしさんだったんだろうなと思わせてくれます。私の知っているやなせさんは、ひょうきんな部分があり、もう少し社交的で明るい感じでしたが、それはよそ行きの顔であって、本当のやなせさんは、北村さんが演じる嵩みたいな感じなんじゃないかなと、今は思っています。それが自分の思ったキャラクターと一番違う方向に育っていったかなと感じます。ものを描く方ですのでナイーブでナーバスな瞬間はあったと思うので、その繊細な感じは北村さんが体現してくださっていると思います」
