K-1批判の武尊に「それはグチだろ?」 小川直也が貫いた試合契約への考え「自分の価値は自分で出す」

“暴走王”小川直也が自身のYouTubeチャンネル「小川直也の暴走王チャンネル」が17日、更新された。内容は、ひと月前に物議を醸した、K-1の元3階級制覇王者・武尊によるK-1への怒りの告白に関するもの。今回はこれを考える。

契約に関するそもそも論を口にする小川直也
契約に関するそもそも論を口にする小川直也

ボブ・サップも頭を抱えた契約

“暴走王”小川直也が自身のYouTubeチャンネル「小川直也の暴走王チャンネル」が17日、更新された。内容は、ひと月前に物議を醸した、K-1の元3階級制覇王者・武尊によるK-1への怒りの告白に関するもの。今回はこれを考える。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

 題材的には旬を過ぎた感は否めないものの、公開された動画によると、収録されたのは武尊のXでのポストが物議を醸していた段階(7月11日)になっている。それでも時間がたってもなおこれを公開したのは、おそらく内容的に格闘技界にとって普遍的とも思えるテーマだったからだろう。

 そもそも武尊がSNSでK-1時代の契約内容を告白したのは、7月6日のこと。元K-1プロデューサーのカルロス菊田氏が、現在、武尊が主戦場としているONEの経営事情や手法に対し、X上に警鐘を唱えるようなポストをしたことに対する物言いだった。

 ちなみに武尊は菊田氏とのやりとりのなかで、K-1時代の契約内容を告白し、以下のように痛烈に批判した。確認したところ、17日の段階で988.4万件のインプレッション(表示回数を表す指標)を弾き出していた。

「トーナメントで一日3試合して身体ボロボロになって戦ってもファイトマネーは1試合分。それで大怪我して入院したり手術をしても治療費は自腹。地方での試合以外は試合前のホテル代も自腹。選手を契約で固めて自動更新され続けて契約期間中に辞める時には今までもらった全てのファイトマネーの何倍もの金額の違約金。契約満了で辞めても契約終了してからの半年間優先交渉期間として他のどこの団体とも契約できない干される期間も付いてくる」

 これを受けて小川が素朴な疑問を口にした。

「なぜ物議を醸す必要があるの? だってそれでいいって契約したんでしょ? それで何? 契約の内容が悪いって、悪いんだったら契約しなきゃいいじゃん。なんで?」

 さらに小川は、「武尊選手がそう言っているの? だったらそれはグチだろ? 違うの?」と指摘し、「以前さ、ボブ・サップも同じようなことを言ってたよ」と続けた。

「(サップはK-1と)複数試合を契約しちゃって、それを消化しないと次に進めないとかって。ボブには頑張れよって言ったけど、しょうがねえじゃん、契約して(しまったんだから)」

「自分の価値はある程度は自分で出す」

 そこまで話した小川は、自身の体験談と照らし合わせながら独自の見解を口にした。

「俺もよく言われたじゃん。『銭ゲバ』とかさ。俺もそういう複雑な契約みたいな感じであったんだよ。だけどそんなのバカらしくて契約できねえよって話でさ。そうすると今度は周りから『あいつは逃げてる』とかさ。よう言われたで、俺なんかさ」

「だから(納得がいかない場合は)俺は出なかったよ。ファンには申し訳なかったけど、自分の価値はある程度は自分で出す」

 どれだけ誹謗中傷されようと、こうしたスタンスを保ちながら、小川は世間にある例を持ち出した。

「たとえばこの携帯端末、いま値上がりしてるじゃん。高い高いって言ってもみんな買うじゃん。(それでも)高いっていうなら買わなきゃいいって話じゃん。一緒だよ。だからそれは武尊選手がグチを言っただけでしょ。それに対して皆さんがとやかく言うのは勝手だよ。でもやるのは本人だし」

 そう言いながら小川は、選手と契約する団体側の立場も推測する。

「大リーガーはすごいじゃない。契約金って。何千億って契約をした選手が活躍しないって、この前もニュースで見たよ。ヤンキースの選手とかね。クビにしたみたいなニュースが飛ぶじゃん。それと一緒じゃん。それは球団が損した話でしょ」

「大谷(翔平)選手みたいになれば、引く手あまたじゃん。選手もそうなわけでしょ。誰かが欲しいから成立するわけじゃん。それでも『過酷な労働条件だ』っていうなら(契約を)しなきゃいいじゃんって話。だって望んでしたことでしょ、選手が。だから初心忘れるべからずじゃないけど、その時の気持ちが薄れちゃうのかな。それ以外は考えられない」

 要は、選手からすれば納得した上で契約をしたつもりでも、時間がたつと、こんなはずではなかった、という気持ちが出てくる。選手の活躍によって株価が上がれば、余計にそう思えるのかもしれない。それを含めた上での「契約」のはずなのに、と頭で分かってはいても……という雰囲気なのだろう。

吉田秀彦戦のファイトマネーは両者合わせて5億円の文字が踊った

「嫌なら契約しなければいい。それでもしてしまったなら、それに則って進むしかない」という主張は“暴走王”と呼ばれる小川にしては非常にまっとうに思える。

 そして小川は、1997年3月に新日本プロレスへの入団会見をした際には、「1試合1億円が取れる選手になりたい」と発言したと話す。

「要はそこでしょ、目標っていうのは。それに見合うくらいの、自分が努力すればいい話」

 ここまで話した小川は、自身がかつてPRIDEに参戦していた頃の話を引き合いに出した。とくに2005年大みそかに実現した吉田秀彦戦は、両者のファイトマネーを合わせると5億円という文字が一部スポーツ新聞の一面になった。

「だからバラさん(元PRIDEの代表で、現在はRIZINの榊原信行CEO)なんかと使っていただいて、今でも『小川を使って損した』って言われることはないから、よかったなと思って。お互い、ウィンウィンであればいいわけじゃん」

 最後に小川は今回の件を総括し、以下の見解を述べた。

「全部片付けちゃうと時代の流れですよ。武尊選手がその契約をした当時の背景と、今の流れは全然違うわけじゃん。だから笑い話として言っているんじゃないの? っていうふうに受け止めてあげればいいんじゃないの? だから改善していきましょうね、という話なんじゃないの?」

 雇用の問題はジャンルを問わず、雇う側と雇われる側の間にはどこまで行っても埋まらない溝が存在する。それを踏まえながら、「プロとは何か?」を模索するしかない。おそらくこの問題は、今後も思い出したように取り沙汰される。それだけに、あえて耳障りのいい言葉で締めるなら、誰もが「足るを知る」と「感謝」を忘れてはならない。

(一部敬称略)

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