17歳での衝撃デビューから25年、小柳ゆき「何よりも今が楽しい」 『あなたのキスを数えましょう』は「私の人生」
歌手の小柳ゆきが8日、デビュー25周年を記念しセルフカバーアルバム『Orchestra』をリリースした。ひたむきに歌と向き合ってきた25年間の集大成ともいえる作品で、数々の名曲を初めて全曲オーケストラアレンジで収録した。9月からは新作を引っ提げた全国ツアーも展開する。今回、新作に込めた思いや音楽人生の歩み、デビューから共に歩んできた大切な曲『あなたのキスを数えましょう ~You were mine~』などについて話を聞いた。

全曲オーケストラアレンジのセルフカバーAL『Orchestra』をリリース
歌手の小柳ゆきが8日、デビュー25周年を記念しセルフカバーアルバム『Orchestra』をリリースした。ひたむきに歌と向き合ってきた25年間の集大成ともいえる作品で、数々の名曲を初めて全曲オーケストラアレンジで収録した。9月からは新作を引っ提げた全国ツアーも展開する。今回、新作に込めた思いや音楽人生の歩み、デビューから共に歩んできた大切な曲『あなたのキスを数えましょう ~You were mine~』などについて話を聞いた。(取材・文=福嶋剛)
昨年9月、デビュー25周年を迎えた小柳は、パワフルな歌唱力ながらも繊細な表現が持ち味だ。そんな彼女が歌を始めるきっかけは、5歳年上の姉(アーティストのHIROMI)の存在が大きかった。幼い頃に家で歌の練習をしている姉を見て自然と自分も好きな歌を口ずさむようになった。
「永井真理子さんの『ミラクル・ガール』(1989年)を家で大きな声で歌っていたら姉が私の歌声をカセットテープに録音して聴かせてくれました。自分の声を初めて聴いてすごくショックを受けて、そこから歌の練習を始めました」
中学1年の時、新人歌手のオーディションを受けて決勝まで進んだ。優勝は逃したが、それがきっかけで芸能事務所から声がかかることに。当初は学業と剣道に励んだ。
「中学生から大好きな剣道を始めたんですが、歌の道に進んだら剣道ができなくなると思って芸能事務所からのオファーは一度はお断りしました。でも、中学を卒業するタイミングで再び同じ方からお話しをいただき、それで歌手の道に進むことを決意しました。もし歌手になっていなかったら剣道をやっていたこともあり警察官になっていたかもしれません」
高校に進学すると小柳をスカウトしたマネジャーとデビューを狙い、デモテープ作りに精を出した。そんな中、作曲家の中崎英也氏と出会い、小柳の運命を変える曲『あなたのキスを数えましょう ~You were mine~』が誕生した。作詞は高柳恋氏が務めた。
「『あなたのキスを数えましょう』は、途中何度も歌詞を変えたりレコーディングし直したりしながら、1年以上ずっと温めてきた曲でした。デビューするまでの時間はすごく長く感じて『このままデビューできなかったら……』と不安になることもありましたが、必ずデビューできるという根拠のない自信がありました」
1999年に1stシングル『あなたのキスを数えましょう ~You were mine~』でメジャーデビューすると、17歳とは思えない、日本人離れした圧倒的な歌唱力で瞬く間に注目を集め、ロングヒットを記録。その後も『愛情』『be alive』『remain~心の鍵』などヒットを連発。NHK紅白歌合戦に2000年から3年連続で出場を果たすなど、一躍スターダムにのし上がり、日本を代表するディーヴァの仲間入りを果たした。
売れっ子になった一方で、過密なスケジュールから心に余裕がなくなってしまい、2005年にロンドンに渡った。約4か月間、自分を見つめ直す機会を得て、それが今につながる大きなターニングポイントになったという。
「自分自身と自分の歌にじっくりと向き合うことができました。私はもともと人とコミュニケーションを取ることが苦手なタイプで、ずっと心の中で武装していたんです。でも大好きな歌を長く歌い続けていくためにはどういう選択をするべきかといった、今につながる大切なことを発見できました」
その後、2018年に事務所を独立した。ここ数年は、地道な音楽活動とライブを重ね、今も歌手としての理想を追い続けている。そんな歌に対する真摯な姿勢は、アーティスト仲間ら周囲からも評判で、デビュー当初から小柳を見てきた、ある番組プロデューサーは「『あなたのキスを数えましょう』は、歌うたびにすごさを増している。それだけ彼女が大切に歌ってきた証拠」と称賛した。

いろんな感情が押し寄せてきた
今回リリースした25周年記念『Orchestra』は、全8曲収録した。演奏前のオーケストラのチューニング音から始まる1曲目の『愛情』は、アップテンポのオリジナルとは違った壮大な世界観に。2曲目はリズミカルなテイストから一転したイメージの『DEEP DEEP』、3曲目の『be alive』はピアノの優しさと切なさが響き、小柳は「青春時代の甘酸っぱさや夏の景色が浮かびました。そのアレンジに寄り添えるように歌いたかった」と説明した。5曲目の『サイドウェイ-並行世界-』は、「絶望を背負いながら生きていく姿」をミュージカル風のドラマチックな演奏に合わせて妖艶に歌い上げるなど、どの曲もアレンジが効き、新たに生まれ変わった印象だ。
自分を育ててくれた曲をオーケストラのアレンジで歌い直すことを決めた理由について尋ねると、次のように答えた。
「25年間、私と一緒に歩いてくれた楽曲たちの足跡を何か形として残したい、長年ライブを重ねてお客様と作ってきた彩が加わった楽曲をきちんと形にしたいと思いました。近年オーケストラと共演させていただく機会が増え、オーケストラの音の波や響きの中で歌が引き出される感覚がとても心地よく、生音の響きに合わせて今の私を表現しようと考えました。それを、お客様にいつでも聴いて頂けるように今回のアルバムを製作しました。オーケストラを前に歌うって、とても難しい挑戦ですが、出来上がったアレンジを聴かせていただき、どの曲にも驚きや感動、発見、涙があって……。いろんな感情が押し寄せてくる素晴らしいアルバムになりました」
代表曲『あなたのキスを数えましょう ~You were mine~』は、新作の最後に収録されており、まるで映画のエンドロールのような感動的な仕上がりになった。小柳自身、思い入れもひとしおだったようだ。
「聴いた瞬間、涙が止まりませんでした。『あなたのキスを数えましょう』は、今や私の人生です。この曲と25年もの間、一緒に旅をしてきました。今回、藤澤慶昌さんのアレンジにより、これまでの歴史を振り返りつつ、新たなストーリーが展開されていくんだと感激しました。この曲は感情表現の自由度が高い分、歌うたびに表現が変わるんです。だからこそ、この曲と共に歳を重ねていく面白さを感じています。この先もその変化を味わっていこうと思っています」
そして、このアルバムを引っ提げて9月13日の東京・北とぴあさくらホールから来年4月11日のNHK大阪ホール公演まで全国6都市で、オーケストラ編成による25周年ツアーを開催する。
「オーケストラとのツアーは初めてなのでドキドキしています。通常のライブとは違った今までにない体験をしていただけるんじゃないかなって思っているので、ぜひみなさん遊びにいらしてください」
最後に「デビュー当時の自分に言葉を掛けるとしたら?」と聞いてみた。
「あの時の自分は正直なところ何にも考えてなかったですね(笑)。人とのコミュニケーションが苦手で……それは今でも変わりませんけど。そんな私でも、ステージに立つことでお客様と思いを共有することができ、何よりも今が楽しいんです。だから『そのままの私でいいよ!』って言ってあげます」
□小柳ゆき 1982年1月26日、埼玉県出身。99年に現役高校生のシンガーとして『あなたのキスを数えましょう~You were mine~』でデビュー。NHK紅白歌合戦に過去3度の出場を果たす。『2002 FIFAワールドカップ 決勝戦前夜祭イベント』で世界的アーティストのBOYZ II MENと共演を果たす。24年9月にデビュー25周年を迎えた。今も精力的に動き、パワフルな歌唱力を生かしたオリジナル作品、圧倒的な存在感で独自の世界を作り続けている。
