人気漫画『北斗の拳』誕生の裏側 読切→連載でまさかの設定変更、武論尊氏が作り上げた世界観
原作:武論尊、作画:原哲夫のタッグによって生み出された『北斗の拳』。伝説的なこの作品は、原先生による同名の読切作品が元となって誕生した。なぜ、武論尊先生が原作を担当することになったのか。そして、読切版『北斗の拳』に先生が加えたエッセンスとは。武論尊先生に聞いた。

「絶対に近未来だ」読切版『北斗の拳』に感じた可能性
原作:武論尊、作画:原哲夫のタッグによって生み出された『北斗の拳』。伝説的なこの作品は、原先生による同名の読切作品が元となって誕生した。なぜ、武論尊先生が原作を担当することになったのか。そして、読切版『北斗の拳』に先生が加えたエッセンスとは。武論尊先生に聞いた。(取材・文=関口大起)
『北斗の拳』は当初、原哲夫先生による前後編の読切作品として、1983年4月号、6月号の「フレッシュジャンプ」に掲載された。その人気を経て、連載企画が持ち上がったのだという。
しかし、原先生は週刊連載のペースで作画のクオリティーを維持するのが難しいと考えていた。そこで原作担当として白羽の矢が当たったのが、すでに『ドーベルマン刑事』をヒットさせていた武論尊先生だ。
「『北斗』の読切を読んで、秘孔を突くっていう北斗神拳の面白さと、『あんたもう死んでるよ』っていうせりふが引っかかったんです。この2つがあればいけると思ったね」
ただ、舞台設定には疑問が残った。原先生の読切版『北斗の拳』では、ケンシロウは現代を生きる高校生。そのケンシロウが、北斗神拳で悪を裁くストーリーだった。しかし武論尊先生には、“絶対に近未来だ”という確信があったという。
「編集には、設定から俺に任せてくれるなら引き受けるよって言ったんです。拳法の達人だって鉄砲には負ける。だから、その強さを引き立たせるなら現代よりも荒廃した近未来を舞台にしたほうがいい。当時はやっていた『マッドマックス』っていう映画を参考にしてね。それで『199X年、世界は核の炎に包まれた!』っていう冒頭ができたんです」
そうして生まれた連載版『北斗の拳』。武論尊先生は、ジャンプに掲載された第1話を読んでヒットを確信したという。45ページの大ボリューム。当時、新連載は31ページが基本の中、異例の待遇だ。編集部からの期待の大きさもうかがい知れる。
「お前はもう死んでいる」“歌舞伎の見栄”をヒントにした数々の名ぜりふ
『北斗の拳』には、数々の名ぜりふがある。その筆頭がケンシロウが言い放つ「お前はもう死んでいる」だろう。先述のとおりだが、読切版におけるこのせりふは「あんたもう死んでるよ」だった。
「俺が作るせりふは、パッと止まってフッと振り返り、ポンと一言残すっていう、歌舞伎とか映画の演出を参考にしています。元のはちょっと“チンピラせりふ”だと思ったから、しっかり読者の目が止まるよう、見栄が切れるせりふに変えたんです」
ほかにも、たとえば「あべし!!」「ひでぶっ!!」などといった断末魔も印象深い。しかしこれらは、原先生による“遊び”だと武論尊先生は話す。
「原作には、“雑魚が倒される”くらいしか書いてなかったからね。原先生は雑魚を倒しまくる作画を楽しんでいたと思うし、息抜きになっていたはずだから、これは俺からのサービス精神です。で、断末魔は原先生から読者へのサービス精神」
ちなみに、武論尊先生自身がもっとも印象深いせりふは、サウザーがケンシロウに敗れる間際に言った「ひ……退かぬ!! 媚びぬ、顧みぬ!!」だという。
「あれは我ながら“出たな”って感じです。サウザーとケンシロウの戦いがどう決着するかを考えていったら、あぁこいつ(サウザー)は絶対反省しねえぞと思った。あとは勢いですね。いかに強く印象的な言葉でそのキャラクターらしさを表現できるかっていう」
先生と同じく、このせりふが『北斗の拳』の中でもっとも好きだという読者は多いのではなかろうか。サウザーの後には、主人公・ケンシロウの兄で最大の敵の一人、ラオウが次なる敵として控えている。普通ならそのインパクトに埋もれてもおかしくないはずだが、サウザーが読者に残した存在感は圧倒的だ。それは、こういった“ニン”のあるせりふがあってこそだろう。
