「減量しなくてもいいのにな」堤真一のひと言に救われた 山田裕貴が語る“親子のような現場”の空気感

山田裕貴は映画『木の上の軍隊』(全国公開中、平一紘監督)で堤真一と競演した。異なる世代を代表する2人の俳優が、沖縄・伊江島のガジュマルの木の上で繰り広げた“2年間の物語”は、現実の撮影でも濃密な1か月を共有することで、リアルな関係性へと昇華していった。山田が、堤との共演を語った。

堤真一との共演について語った【写真:Jumpei Yamada】
堤真一との共演について語った【写真:Jumpei Yamada】

堤が60歳、山田が34歳と親子ほどの年齢差

 山田裕貴は映画『木の上の軍隊』(全国公開中、平一紘監督)で堤真一と競演した。異なる世代を代表する2人の俳優が、沖縄・伊江島のガジュマルの木の上で繰り広げた“2年間の物語”は、現実の撮影でも濃密な1か月を共有することで、リアルな関係性へと昇華していった。山田が、堤との共演を語った。(取材・文=平辻哲也)

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「やっぱり、すごく優しい方でしたね」

 山田がまず口にしたのは、堤の人柄への素直な敬意だった。

「昔話を懐かしむという感じではなくて、『このドラマの時はこう思ってた』『この映画ではこうしてたんだよ』と、今の僕にちゃんと届くように話してくれるんです。自然とこっちも聞きたくなるような語り方で、本当にすてきでした」

『木の上の軍隊』は実話から着想した作家・井上ひさしさん(1934~2010年)が残した原案となるメモを基に、こまつ座が戯曲化。没後の2013年に藤原竜也&山西惇出演で上演され、『父と暮せば』『母と暮せば』と並ぶこまつ座「戦後“命”の三部作」と位置づけられている。これを沖縄県出身の平監督が映画化した。

 宮崎県から派兵され、国家を背負う厳格な少尉・山下一雄(堤)と沖縄県出身で、少し楽天的な面もある新兵・安慶名(あげな)セイジュンが、世代、出自、考え方の違いを感じながらも、ともに生き延びようとする姿を描く。

 堤が60歳、山田が34歳と親子ほどの年齢差があるが、堤は撮影終わりの雑談や、伊江島に2軒しかないコンビニの話題、制限中の食事のことなど、現場では実に細やかに気を配ってくれたという。

「食事に行っても僕が全然食べなかったので、『だんだん食べてるシーンもあるから、今日はもういいだろ』と気にかけてくれました」

 そんなある日の食事中、堤がふと語った、パントマイムの巨匠・マルセル・マルソー(1923~2007年)の話が印象に残っている。舞台上で何の道具も使わず、動きや身体の表現だけで男性にも女性にも見せる──その芸に「最強だよな」と堤は言った。

「『だったら、こんな減量とかもしなくていいのにな』って、さらっと言ってくれて。“めんどくさいことをめんどくさいって言える”先輩って、本当にかっこいいなと思いました」

 実は山田にとって、堤との本格共演はかねてからの願いだった。過去にプライベートで堤の自宅を訪れたこともある。今回はそれが“ダブル主演”という形で実現し、長年積み重ねてきた信頼が、現場の自然な空気感を作っていた。

「“親子みたい”って言われることもあったけど、それは自然にそうなっていった感じです。僕も心を開いていましたし、堤さんもずっと気にかけてくださってましたから」

平一紘監督との関係とは【写真:Jumpei Yamada】
平一紘監督との関係とは【写真:Jumpei Yamada】

 その自然さは、平一紘監督との関係にも通じる。平監督は沖縄県出身の35歳。2021年に脚本・監督を務めた『ミラクルシティコザ』では、クリエイターの発掘・育成を目的とする映像コンテスト「未完成映画予告編大賞(MI-CAN)」を受賞。その審査員を務めた堤幸彦氏とは、仲間由紀恵主演の『STEP OUT にーにーのニライカナイ』(25)で共同監督を務めた。

「平監督、酔うと『裕貴さん、ハリウッド行きましょう!』って真顔で言ってくるんです(笑)」

 そう語りながら、山田の目は真剣だった。

「でも僕は、あれを冗談だと思ってない。本気で言ってくれてると感じたんですよね」

 作品が終わると「また会いましょうね」と軽く言いがちな業界において、平監督は「また裕貴さんを撮りたい」「もう一度一緒にやりたい」と強く語ってくれた。その熱量は、山田の心に確かに届いていた。

「『正直、思ってたよりすごい俳優でびっくりしました』と言われたんですよ(笑)。ストレートにそう言ってくれて、逆にうれしかったです」

 撮影自体はおよそ1か月。だがその濃度は異様に高かった。

「段取りやったらすぐ本番。何回も撮るわけじゃないんです。だから毎回、一発勝負。『演じている』って感覚じゃなくて、『この時間を生きた』という感じでした」

 本物の場所、本物の木、本物の風。その中で、自分の存在ごと役に委ねることで、山田裕貴は“生きる芝居”に近づいていった。そしてそれは、堤や平監督という信頼する人たちがそばにいたからこそ、実現できたことだった。

□山田裕貴(やまだ・ゆうき)1990年9月18日、愛知県出身。11年、テレビ朝日系『海賊戦隊ゴーカイジャー』で俳優デビュー。22年エランドール賞新人賞、24年には『東京リベンジャーズ 2 血のハロウィン編 -運命- / -決戦-』『キングダム 運命の炎』『ゴジラ-1.0』『BLUE GIANT』での演技が評価され、第47回日本アカデミー賞話題賞を受賞。近年の主な映画出演作に『HiGH&LOW』シリーズ(16~19)、『あゝ、荒野 前篇・後篇』(17)、『あの頃、君を追いかけた』(18)、『東京リベンジャーズ』(21)、『燃えよ剣』(21)、『余命10年』(22)、『夜、鳥たちが啼く』(24)、『キングダム 大将軍の帰還』(24)ほか、『ベートヴェン捏造』が9月12日、『爆弾』が10月31日と主演作の公開が控えている。

ヘアメイク:小林純子
スタイリスト:森田晃嘉

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