山田裕貴が“本物の蛆虫”を食べたワケ 実在兵士役で極限の食事制限「何キロ痩せたかは言わない」
俳優の山田裕貴が、堤真一とともにW主演した映画『木の上の軍隊』(公開中、平一紘監督)は、1945年、戦火の激しい沖縄県伊江島で、木の上に身を潜め、終戦を知らずに2年間生き延びた二人の日本兵の物語だ。山田は、演じるにあたり、過酷な減量とリアルな表現に挑んだ。だが、本人は「何キロ痩せたか」という問いに一切触れようとしなかった。その理由とは──。

撮影前から豆腐、納豆、キムチだけの食生活を1か月間
俳優の山田裕貴が、堤真一とともにW主演した映画『木の上の軍隊』(公開中、平一紘監督)は、1945年、戦火の激しい沖縄県伊江島で、木の上に身を潜め、終戦を知らずに2年間生き延びた二人の日本兵の物語だ。山田は、演じるにあたり、過酷な減量とリアルな表現に挑んだ。だが、本人は「何キロ痩せたか」という問いに一切触れようとしなかった。その理由とは──。(取材・文=平辻哲也)
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『木の上の軍隊』は実話から着想した作家・井上ひさしさん(1934~2010年)が残した原案となるメモを基に、こまつ座として戯曲化したものが原作。舞台版は井上氏没後の2013年に藤原竜也&山西惇出演で上演され、『父と暮せば』『母と暮せば』と並ぶこまつ座「戦後“命”の三部作」と位置づけられている。これを沖縄県出身の平監督が映画化した。
山田が演じたのは、沖縄県出身の新兵・安慶名(あげな)セイジュン。宮崎県から派兵された厳格な少尉・山下一雄(堤)とともに生き延びようとする。劇中の山田が体重を落としていることは画面からもはっきりと伝わってくる。
「何キロ落としたのか?」と質問すると、山田は「計ってないです」とはぐらかした後にこう言った。
「……いや、もちろん自分では把握していますよ。体調管理は必要なので。ただ、数字は出したくないんです。ネットニュースで“◯kg減量”みたいなキャッチーなタイトルだけが残って、映画の話が伝わらなくなるのがイヤです。だから取材でも、絶対に言わないと決めています」
映像に映るものがすべて。数字ではなく、“生き様”が画面から伝わることの方が大切だと山田は考えている。撮影前から豆腐、納豆、キムチだけの食生活を1か月間続け、撮影中も食を極限まで制限した。たまに身体が悲鳴をあげる時には少量の肉を口にするなど、体調と向き合いながら自分を追い込んだ。
「極限に追い込むというよりは、役に対して嘘がないように、ちゃんと自分の体と心をチューニングする感覚でした。家に帰ればベッドがあって、風呂も入れるし、ご飯も食べようと思えば食べられる。モデルになった2人のことを思えば、自分の苦労なんて苦労のうちに入らないと思うんです」
劇中には、蛆虫(うじむし)を食べるという衝撃的なシーンもある。そこで山田が選んだのは“本物を食べる”という選択だった。
記者が「あれは本物だったんですか」と驚くと、山田は「やっぱり伝わってないですか」と少し残念そうにつぶやいた。
「僕、虫はほんとにダメなんです。でも、木の上にいると段々気にならなくなってきて……。実際に過ごされたお二人のことを考えると嘘はつきたくないなと。“本物でやります”と自分から言いました。そしたら監督と助監督が“じゃあ俺らも一緒に食べるよ”って言ってくれて」
その味は「アサリを極限まで薄くした感じ」だったという。食事制限していた影響で、逆に味を強く感じたという。
山田にとって、今回の撮影は「演じたというより、生きた」と語るほどの密度だった。特に木の上のシーンは、本物のガジュマルの木の上で時間経過に合わせて変化させながら、できる限り順撮りで進められた。幻想の中で家に帰るシーンのみ最初のほうに撮影され、それ以外は物語の流れに沿うような順序で演じていたという。
そして、何より山田が大切にしていたのは“戦争を語ることの重さ”だった。
「絶対“知ったかぶり”はしたくないって思っています。体験してない人間が戦争について語るのは、やっぱり違うと思う。銃弾が飛び交っている場所で生きたわけじゃないし、それを語る資格はない。でも、それでも考え続けることはできる。安慶名(演じた兵士)がどういう人だったのか、ずっと想像していました」

山田は、広島に住んでいた幼少期に原爆ドームを訪れた経験が忘れられない。
「たぶん小学生にもなってないくらいの時期に、資料館で泣いたんです。親もびっくりしていました。自分でも、そのときのことは今でもよく覚えています」
その後、長崎の爆心地にも訪れ、今回の沖縄での撮影。戦争の記憶に触れる機会が偶然にも重なっていた。
「自分の人生のタイミングで、そういう場所に“訪れている”んですよね。広島、長崎、沖縄……不思議と、今回の役はどこか他人事じゃなかった」
現在の社会にも、“戦争”に似た空気を感じると山田は言う。
「今の日本では銃や爆弾は使ってないけど、言葉で戦っているじゃないですか。SNSとかで誰かを攻撃したり、ストレスをぶつけ合ったり。そういうのもある意味“戦争”だと思っています」
それでもこの作品は、決して絶望を描いたわけではない。年齢制限のない映画として、「子どもたちに見てほしい」と語る。
「つらいときでも、“ご飯があるだけでうれしい”とか、“おもちゃが目の前にあるだけで幸せ”とか、そういうふうに思ってもらえたらって思います」
体を削り、心をさらけ出した1か月。その時間を経て、山田裕貴は確かに“生きた”感覚を手に入れた。「演じたというより、生きた」。その言葉が嘘ではないことは、画面から確かに伝わってくる。
□山田裕貴(やまだ・ゆうき)1990年9月18日、愛知県出身。11年、テレビ朝日系『海賊戦隊ゴーカイジャー』で俳優デビュー。22年エランドール賞新人賞、24年には『東京リベンジャーズ 2 血のハロウィン編 -運命- / -決戦-』『キングダム 運命の炎』『ゴジラ-1.0』『BLUE GIANT』での演技が評価され、第47回日本アカデミー賞話題賞を受賞。近年の主な映画出演作に『HiGH&LOW』シリーズ(16~19)、『あゝ、荒野 前篇・後篇』(17)、『あの頃、君を追いかけた』(18)、『東京リベンジャーズ』(21)、『燃えよ剣』(21)、『余命10年』(22)、『夜、鳥たちが啼く』(24)、『キングダム 大将軍の帰還』(24)ほか、『ベートヴェン捏造』が9月12日、『爆弾』が10月31日と主演作の公開が控えている。
ヘアメイク:小林純子
スタイリスト:森田晃嘉
