プロレス王・鈴木みのるが考える「プロとは何か?」 師匠・猪木の考えも「今は理解している」
ある時は“聖地”後楽園ホールで、またある時は東京ドームや米国のスタジアムで、またある時は新幹線内や街の商店街で……と、場所を問わずに己のスタイルを貫き通すのが“プロレス王”と呼ばれる鈴木みのるである。「世界一性格の悪い男」とも呼ばれる鈴木がデビューしたのが1988年。そこからさまざまなスタイルを試行錯誤しながら現在の姿がある。そんな鈴木に独自のプロ論を聞いた。

C.A.C.C.スネークピットジャパンで「最終章」開幕
ある時は“聖地”後楽園ホールで、またある時は東京ドームや米国のスタジアムで、またある時は新幹線内や街の商店街で……と、場所を問わずに己のスタイルを貫き通すのが“プロレス王”と呼ばれる鈴木みのるである。「世界一性格の悪い男」とも呼ばれる鈴木がデビューしたのが1988年。そこからさまざまなスタイルを試行錯誤しながら現在の姿がある。そんな鈴木に独自のプロ論を聞いた。(取材・文=“Show”大谷泰顕)
先月29日、東京・高円寺にあるC.A.C.C.スネークピットジャパンで「最終章」と銘打った大会が初開催された。C.A.C.C.(キャッチ・アズ・キャッチ・キャン)といえば、現在のプロレスにおける主要な源流のひとつで、日本においては1999年5月に、かつてはUWF戦士だった宮戸優光氏が“人間風車”の異名をとったビル・ロビンソンを招聘し、日本に設立したものになる。
現在は主にC.A.C.C.を教える道場として会員を相手に活用されているが、この日は100人ほどの観客を入れた大会を開催。メインでは鈴木が登場し、この日、3試合目となるダニー・ドゥガンと一騎打ちを戦った。
最後はC.A.C.C.のテクニックのひとつ、ローリングアームフックがドゥガンを仕留めた鈴木が口を開く。
「あんなところでやるのとか、どんなルールでやるのかとか。俺には関係ないんだよ。俺は決まったカネ(報酬)をもらって、今日入場料を払ったお客さんが『ああ、面白かった』って帰ってくれた。これが俺の仕事。(「見る側」を)楽しませることが」
場所は関係ない――たしかに鈴木は、過去に世界中のあらゆる場所で試合を行っている。リング上はもちろん、商店街や新幹線内でも。ついた異名は「プロレス王」。
「だからどこも一緒だよ。そんな変わらないよ。商店街の路上でも新幹線のなかでも無人の東京ドームでやることもあれば。アメリカのアーサーアッシュスタジアムって知ってる? テニスの全米オープンをやる2万人くらい入る、すごいデカいところ。そういうところでやることもあるし。どこでも俺は俺。そして、俺が一番面白い。面白いから鈴木が出るならまた行こうかっていう人がいっぱい出てくるだろ」
実際、鈴木が登場すると、その場の空気が変わる。
「世界中、回っていると、ホントいるんだよ。俺こそが真のプロフェッショナル! みたいなヤツ。全然いるけど、お前が何を言おうが、目の前の人が『あなたはプロフェッショナルだ』って思わなければ、お前はプロフェッショナルですらないんだぜって。答えはすべてお客さんが決める」

デビュー7か月でアントニオ猪木と一騎討ち
ちなみに、今大会は通常のリングに比べると硬いことから、パイルドライバーやバックドロップといった頭からの投げ技は禁止されたが、鈴木は得意のゴッチ式パイルドライバーを2回試みようとした。結局、宮戸レフェリーに制止され、2回とも不発に終わったが、そこが見せ場のひとつになった。
「面白かったろ? じゃ、それでいいじゃん。結局、ダメっていったって反則負けになってないし、壁を壊したわけでもない。俺ができるできないとか、面白い面白くないとか……。決めるのは客。それがプロとアマチュアの一番の違いだよ。アマチュアはどんなスポーツでも勝つことがメインだし、もちろんプロも勝たなきゃいけないけど、それ以外のことが大事。それくらいかな……」
また、今大会は、2029年に設立30周年を迎えるにあたって、それに向けた「最終章」として宮戸代表が開催したものになる。
「ここにいっぱい写真だポスターだって貼ってある。猪木さん、藤原(喜明)さん、ゴッチさん、ロビンソンさん……。俺の知っている人たちの気持ちは受け継いでいるとは思うんだけど、俺は彼らの、みんなが知らない部分を受け継いでいると思う。なぜカール・ゴッチが……? なぜ猪木が……? そういうところだね。そりゃあそうだよ。自信あるよ。『いただきまーす』ってチョロっとくすねて、まとめて自分のスタイルにしたんだもん。今、(そうした偉人たちに)会ったら、『お前よ』って言われるはず。猪木さんにもゴッチさんにもロビンソンさんにも。必ず『お前さあ、こんなのさあ』って言われるけど、間違いなく『面白かった』って言わせる自信はある。あるよ」
そんな鈴木は、師匠であり、デビュー7か月で一騎打ちを行ったアントニオ猪木に関する独自の見解を口にする。
「昔、トンチンカンなこと言ってたじゃん、猪木さんが。『お客をこうやって手の平の上で転がす』とか『環状何号線がどう』とか。何を言っているんだ、この人は。ボケじいさんだなってずっと思ってた。でも今は理解はしているんだよ。なるほどな。こういうことが言いたいんだろうなって」
「俺は誰からも教わっていないんでね、誰からも。誰からも教わっていない。全部自分の足で、ずーっと若い時からいろんな団体に出てきて。今、世界中をグルグル回って、いろんな会場で、いろんな国で、いろんな言語のところでプロレスをやって……自信あるね」
最後まで自身の経験に裏打ちされた自信を漂わせながら、あくまで自身のペースで答える「プロレス王」。明日はドームか商店街か。鈴木みのるは自身のテーマ曲『風になれ』のごとく、世界中に己の風を吹き続けていく。
(一部敬称略)
