地元の駅員も「こうなるなんて思わなかった」 旅費総額に絶句…オアシス再結成、会社員が無理して渡英
兄弟が手を取り合って拳を上げた姿を目の当たりにし、涙がこぼれた。英国の伝説的ロックバンド・オアシスの再結成ツアーが、7月から母国・英国で開幕した。兄ノエル・ギャラガーと弟リアム・ギャラガーの“ギャラガー兄弟”が中心的存在でありながら、兄弟げんかによって解散となり、ファンの中では「もう無理だろう」と言われてきた。約16年ぶりのライブは、世界中から1000万人以上の応募が殺到するチケット争奪戦に。奇跡的に、7月5日の2日目の公演チケットを手に入れることができた、ファン歴26年以上のENCOUNT編集部記者が、金銭的・日程的な面で葛藤しながらも、覚悟の渡英。“史上最高の仲直り”を目撃したオアシス体験記を報告する。

再結成2日目カーディフ公演 チケット代「9万8000円」にめまい
兄弟が手を取り合って拳を上げた姿を目の当たりにし、涙がこぼれた。英国の伝説的ロックバンド・オアシスの再結成ツアーが、7月から母国・英国で開幕した。兄ノエル・ギャラガーと弟リアム・ギャラガーの“ギャラガー兄弟”が中心的存在でありながら、兄弟げんかによって解散となり、ファンの中では「もう無理だろう」と言われてきた。約16年ぶりのライブは、世界中から1000万人以上の応募が殺到するチケット争奪戦に。奇跡的に、7月5日の2日目の公演チケットを手に入れることができた、ファン歴26年以上のENCOUNT編集部記者が、金銭的・日程的な面で葛藤しながらも、覚悟の渡英。“史上最高の仲直り”を目撃したオアシス体験記を報告する。(文=吉原知也)
「1000人の中の1人に選ばれた」 成金イメージが先行する有名社長の“本当の顔”
オアシスは1991年に英国中部マンチェスターで結成され、作詞作曲を手がけるリードギターでボーカルの兄ノエルと、個性派ボーカルが強烈な弟リアムの“ギャラガー兄弟”に加え、キャッチーなメロディーと重厚なロックサウンドで、世界の音楽シーンを席巻した。2009年8月に解散したが、昨年8月に再結成を電撃発表した。
記者はもともと洋楽好きで、中学1年の頃からギターを弾き始め、兄の影響で聴き始めたオアシスに夢中に。「自由に生きること」「自分自身で人生をつかみとること」。歌のメッセージに、思春期から社会人になっても何度も励まされてきた。
さて、昨年8月のチケット発売日(先着順)。内心は「取れるわけないだろう」と思いつつ、ネット登録を進めた。ソールドアウトになる中で、1枚ゲットできたことが表示された。英ウェールズの首都カーディフでの2025年7月5日の公演だ。総計498ポンド。日本円で約9万8000円の値段に衝撃を受けた。
「うそでしょ」。公演は10か月も先だ。職場の異動があるかもしれないし、病気をするかもしれないし、生活環境が大きく変わっている可能性もある。それに、海外プラットフォームの電子チケットのため、当日のネット通信環境やチケット表示などに不安な点もあった。現実感があるようなないような。そんな半信半疑の思いは、カーディフ当日での会場入りまで続いた。

ライブ後の街中はお祭り騒ぎ
サラリーマンが大型連休でもない夏場の月初めに、平日を含めて休暇を取る。仕事・金銭・体調面……。調整はなかなか大変だった。先に飛行機とホテルを押さえるべきだったが、仕事が忙しかったり、一時期体調不良に陥るなど、ずるずると過ごしてしまった。GW期間中にようやく本格的に準備を開始した。大人の旅行でもあるので、「確実性」を重視。深夜早朝の乗り継ぎは安価でもリスクを感じて、飛行機は直行便。ホテルはライブ会場近く。折からの物価高騰も相まって、旅費はめまいがするぐらいに膨らんでいった。
5日間の夏休み、上司たちにもオアシス旅に行くことを報告し、残務処理を終えた。だいぶ無理をしながらも、いよいよ出発だ。日本から旅立つファンはSNSを見ると少なからずいるようで、空港ではオアシスのTシャツを着ている人を見た。
前日入りの日程。行きは16時間超のフライトで、ロンドン・ヒースロー空港に到着した。チキンサラダのサンドイッチとコーラのペットボトルを買ったら1400円で、いきなり英国の物価の洗礼を受けた。ヒースローからカーディフまでは約2時間の長距離列車だ。目的地のカーディフ中央駅に着いたのは、初日のライブ開始から1時間が過ぎたころ。そわそわしながら改札を出ると、仰天した。駅前広場には無数の柵が設置され、警官・警備員がズラリ。遠くから地鳴りのような音が聞こえてくる。とりあえず、会場のプリンシパリティ・スタジアムの屋外グッズ売り場に向かってみた、駅から徒歩数分の近さ。スタジアムが近付くにつれ、音漏れがガンガン聞こえてきた。「あっ、この曲をやるんだ!」。バンドがこれまであまり演奏してこなかった名曲が聞こえてきて、うれしいネタバレになった。
徒歩圏内のホテルにチェックイン。ライブ後のカーディフ中心街に繰り出してみることにした。そうしたらもう、お祭り騒ぎ。目抜き通りの飲み屋街は多くの地元ファン、海外から駆け付けたファンであふれ、ちょっと路地に入ると、おしくらまんじゅう状態。みんなオアシスの歌を大合唱。特に『スタンド・バイ・ミー』を歌っている姿が印象的だった。スマホで様子を撮影していると、スコットランドから来たという女性が笑顔で話しかけてくれた。暴力沙汰(ざた)はないが、みんな泥酔して大声で話しまくっている。いいのかどうか分からないが、路上でたばこを吸っている。まさに、初期の代表曲『シガレッツ・アンド・アルコール』の世界観が現実に繰り広げられていた。

愛されキャラ・ボーンヘッドの存在が再結成のカギに
7月5日、いよいよ本番だ。オアシスの出番は午後8時15分とアナウンスされていた。すでにファンで埋め尽くされている街中のパブでビールをあおり、午後5時の開場に合わせてスタジアムへ。一番不安だった電子チケットは、入り口ゲートで「ピピッ」と反応した。自分がそのあとすぐに動かなかったため、バーが止まってしまったが、係員が助けてくれた。「入れた」。ようやく肩の力が抜けた。心優しいドイツ人夫婦にスタジアム前で記念写真を撮ってもらった。階段を上がって席に行ってみると、前方寄りのステージを見下ろす好位置だ。ビールも売っており、何杯かおかわりして、“本番”に備えた。
ライブは、感動の一言だった。名曲が詰め込まれたベスト盤のようなセットリスト。バンドの演奏は魂を揺さぶった。ある曲が始まる前にリアムが、“恥ずかしがらずにみんなで後ろを向いて肩を組んで”と一風変わった呼びかけ。すると、イントロが始まり、観客同士は顔を見合わせてびっくり。リアムのいたずらっぽい計らいによって、お隣さんたちとも打ち解けることができた。オアシスのライブは「アンセム(定番曲)のシングアロング(大合唱)」が象徴的なのだが、最初から最後まで、観客も歌いまくった。「やっぱり、みんなのオアシスなんだな」。自然と涙があふれた。
再結成バンドは、おなじみのメンバーがそろった。もともとオアシスメンバーでギャラガー兄弟と親交の深いギターのゲム・アーチャー、ベースのアンディ・ベル。新たに名うてのドラマー、ジョーイ・ワロンカーが参加した。そして、何より、オアシス創設メンバーのギター、ポール・“ボーンヘッド”・アーサーズだ。愛されキャラのボーンヘッドの存在が、再結成の鍵を握ったと言えるだろう。気心知れた仲間たちが奏でる音は、とびきりだった。
地元の人たちとの交流も印象的だった。ライブ終わり、興奮と大混雑の街をぶらぶら。気軽に入れそうなクラフトビール店に入って席に座ると、カップルから声をかけられた。31歳と25歳のカーディフの地元男女。「どこから来たの?」と聞かれて、日本からだと答えると、びっくりされた。「こんなクレージーな人間もいるんだよ」と、航空機とホテル代をスマホの電卓で示すと、「オー……」と絶句。そのあとに3人で「それぐらいオアシスが好きなんだ」と言葉が合って、笑顔になった。お花見に興味があるそうで、しきりに「いつか日本に行ってみたい」と、日本のことをいろいろ聞いてくれた。
翌日にカーディフを後にする際の出来事だ。駅係員の50代ぐらいのおじさんに切符が間違ってないか確認していると、「君はオアシスのライブに行ったんだね」と話しかけられた。会場で買ったTシャツとバケットハット姿で、明らかにファン丸出しだったからだ。昨晩に同じ会場にいたそうで、「(再結成は)こうなるなんて思わなかったよ、想像できなかったね」。完璧に意見が一致。一発で分かり合えた。ちなみに、スマホの電卓画面を見せると、同じく「ワオ!」と絶句された。おじさんは「カーディフを気に入ってくれたら、君にとって一生の思い出になれば、うれしいよ」と、拳を合わせる別れのあいさつをしてくれた。カーディフの皆さんのすばらしい人柄に感激した。

若者と家族連れ多数 世代を超えた人気を実感
今回、強く実感したのが、若者と家族連れを多く見かけたことだ。40~50代の親とティーンエージャーの子どもの姿が目立った。翌日にカーディフ市内の公式ファンショップに行ってみると、10代の男の子たちが限定レコード盤を“ジャケ買い”で選んでいた。ショッピングセンターに登場したバケットハットで作られたギャラガー兄弟のモニュメントには、子連れの家族がひっきりなしに訪れていた。94年にデビューして31年。今年でリアムは53歳、ノエルは58歳になる。オアシスは世代を超えて受け継がれるようになった。デジタルSNS世代にもロック魂は確かに響いている。そう確信した。
ロンドンに戻ってからは、公式発信のオアシス“聖地巡礼”マップを見ながら名所を巡った。一方で、旅費は完全に予算オーバーだ。飛行機代は約45万円、宿泊代は3日間で約20万円(ちなみに、ロンドンは1泊1万4000円で、東京宿泊より安いかもしれない)、電車など交通費は4万円ぐらい。普段はあまり手にしないツアーグッズは大人買いで、お土産を含めて8万円ほど。ポケットWi-Fiや海外保険・諸経費、食費など、合わせるとざっくりで95万円だ。英国内の食事代がなかなかのお値段だった。インドカレーセットは4000円、牛肉のエールパイのランチは2800円、ペットボトル飲料は250~400円ぐらいする。ただ、クラフトビール(英国ではエール)は1杯1200円~1400円で、日本と比べると値段感はあまり変わらなかった。ちなみに、ほぼクレジットカードのタッチ決済で済んで驚いた。ライブを見にわざわざ海外に行くのは初めての体験。「貴重な人生経験、お金じゃない」。そう自分に言い聞かせている。
今回のオアシス旅にお守りを持って行っていた。“最初で最後”と思っていた、大学時代に一度だけ行った05年のオアシス来日公演のチケット。その宝物を財布に忍ばせていた。
あの頃の自分に、言ってあげたい。「オアシスは解散しても戻ってきたよ。人間、けんかしても断絶しても、必ず、仲直りするんだよ。つらくても、前向きに生きていこう」。ただ、お守りを持って記念写真を撮ろうとしていたが、興奮してすっかり忘れてしまった。ちょっとだけ心残りになった。
