「この味を残したい」 早稲田「メルシー」唯一の“のれん分け”、老舗町中華の跡を継ぐ又姪夫婦の挑戦

東京・早稲田で1958年に創業、以来60年余りにわたって早大生の胃袋を満たし続けている老舗の町中華「メルシー」。昨年6月には人手不足により一時閉店を発表したが、常連客の学生ら有志が名乗りを挙げ、わずか3か月で営業再開を果たした。若かりし日のタモリや吉永小百合も通ったという名店だが、そんなメルシーに、唯一無二の味を受け継いだのれん分けの姉妹店が存在するという事実はあまり知られていない。長年昭島に店を構え、今年2月に八王子に移転した“八王子メルシー”のルーツをたどった。

昔懐かしい装いのラーメン(税込み850円)【写真:ENCOUNT編集部】
昔懐かしい装いのラーメン(税込み850円)【写真:ENCOUNT編集部】

若かりし日のタモリや吉永小百合も通ったという東京・早稲田の老舗町中華

 東京・早稲田で1958年に創業、以来60年余りにわたって早大生の胃袋を満たし続けている老舗の町中華「メルシー」。昨年6月には人手不足により一時閉店を発表したが、常連客の学生ら有志が名乗りを挙げ、わずか3か月で営業再開を果たした。若かりし日のタモリや吉永小百合も通ったという名店だが、そんなメルシーに、唯一無二の味を受け継いだのれん分けの姉妹店が存在するという事実はあまり知られていない。長年昭島に店を構え、今年2月に八王子に移転した“八王子メルシー”のルーツをたどった。(取材・文=佐藤佑輔)

 JR八王子駅からバスに揺られること20分、工学院大八王子キャンパスからほど近い場所に、真新しくも懐かしいのれんの文字が踊る。店主の浅見さんとその妻が今年2月にオープンした新店舗。妻は早稲田メルシーの初代店長の又姪(姪の子ども)で、現在の早稲田メルシーを営む2代目店主の小林一浩さんからは、いとこ違いにあたる。

「初代のおじさんの姪、私から見た叔母夫婦が早稲田のメルシーで修行して、1984年に昭島にのれん分けしたメルシーを出店したんです。昭島メルシーの叔父は11年前に亡くなって、その後も叔母と息子が2人で店を守ってきたんですが、叔母も70歳を超えていよいよ体がついていかなくなって。叔母も私の母も、昔は早稲田メルシーの上に住んで店を手伝っていて、私にとっても物心ついたときからの思い出の味。どうしてもこの味を残したいなと、私たち夫婦で店を継ぐことに決めたんです」

 今年2月1日、昭島メルシーが41年の歴史に幕を下ろすと、約2週間後の2月12日、移転という形で八王子に店舗をオープン。飲食は初挑戦という浅見さん夫婦だが、半年余りの修行と、叔母やその息子の手伝いもあり、足しげく通う昭島メルシーからの常連客も多い。

 一家相伝のメルシーだが、現在の早稲田メルシーと八王子メルシーとでは微妙な味の違いも。喫茶店からスタートし、今もポークライスやドライカレーといった当時のメニューや雰囲気が残る早稲田メルシーに対し、八王子メルシーは“ザ・町中華”。ラーメン半チャーハンセット(税込み1250円)が昭島時代からの一番人気で、物価高で材料費が高騰するなか、値上げも覚悟しつつ創業当時の味を守り続けているという。

 早大出身で、早稲田のメルシーの味にも慣れ親しんだ記者が実食。チャーシュー、メンマ、もやし、なるとに、今時珍しいコーンが浮かび、見た目にはいかにも“昔ながらの中華そば”だ。だが、一口すするとあっさりした印象の早稲田メルシーに対ししょうゆが強めで、また違った味わいを感じる。チャーハンはさらにパンチが効いた濃いめの味付けで、熱烈なファンが多いというのも納得。値段はいまだに1杯600円を維持する早稲田メルシーには及ばないが、いわゆる「ラーメン1杯1000円の壁」を超える店も少なくない昨今、1杯850円(税込み)はお得感がある。取材にうかがったのは昼営業を終えた午後3時で、昼食はすでに食べていたにもかかわらず、手が止まらない味付けにスープまで完食してしまった。

「メルシーというと早稲田のイメージが強いですが、ぜひ八王子メルシーとも食べ比べてみていただけたら」と浅見さん。近くには八王子ラーメンで有名な「みんみん本店」などの人気店も軒を連ねる激戦区だが、メルシーの看板を掲げる以上、流行に左右されることなく、地元で長く愛される店を目指していく。

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