ダルビッシュ翔、西成での炊き出しが丸4年の節目 米の高騰が影響も…200回突破の快挙「完全に生活の一部」
大リーグ・パドレスのダルビッシュ有投手の弟・ダルビッシュ翔さんが大阪・西成での炊き出しを4年にわたり継続している。2021年から週1回のペースで行い、先月には通算200回に到達。本人も欠かさず顔を出し、生活困窮者や社会的弱者たちに温かい料理を提供している。「完全に生活の一部っすね」と語る翔さんは、なぜここまでボランティアに情熱を注げるのか。炊き出しに同行し、胸中を聞いた。

ボランティア活動を始めて丸4年の節目 「やってきてよかったなと」
大リーグ・パドレスのダルビッシュ有投手の弟・ダルビッシュ翔さんが大阪・西成での炊き出しを4年にわたり継続している。2021年から週1回のペースで行い、先月には通算200回に到達。本人も欠かさず顔を出し、生活困窮者や社会的弱者たちに温かい料理を提供している。「完全に生活の一部っすね」と語る翔さんは、なぜここまでボランティアに情熱を注げるのか。炊き出しに同行し、胸中を聞いた。(取材・文=水沼一夫)
炊き出しから丸4年、通算200回の節目を迎えても、翔さんの中では通過点に過ぎなかった。
「もともとここを目指してる、とかはないので。まあ目的がないって言い方したらおかしいんですけど、やめる気がないので。200回とか300回とかあんまり重みを感じないんですけど、ただいろんな人が来てくれて、ちょっと実感しましたね。ああ、4年目か、と。もう次5年目やねんな、と。そういう実感は、ちょっとやってきてよかったなと思いましたね」
炊き出しを取材するのはちょうど3年ぶり。三角公園での炊き出しの景色も、利用者の行列も、あの時から少しも変わっていなかった。
今年炊き出しを行わなかったのは、正月と重なった1回だけだ。
「それ以外は毎週木曜日。雨でも、もう台風でもっていうことですね」
炊き出しを待っている人にとって、天気は関係ない。三角公園ではすっかり“恒例行事”として定着している。それは、翔さんにとっても同じだった。「完全に生活の一部っすね。もう完全に生活の中入ってます」。休日を待ちわびた少年時代に例えた。「木曜日が、ちっちゃい時の土曜日や日曜日という感じに近いものになってるんで。これがなくなるほうが気持ち悪いかもしれないっすね」と、笑顔を見せた。
取材を行った7月3日のメニューはビーフシチューだった。肉や厚切りの野菜がゴロゴロと入り、食欲をそそった。「平均250から300。多かったら400ぐらいいきます」。この日は300食を用意し、飲み物とともに振る舞った。翔さんは大きな鍋の前に立ち、ビーフシチューの盛り付けを担当した。「インスタに投稿しないといけないっすね」と、SNSに書き込むことも忘れないが、ほとんどは告知せずとも集まるリピーターだ。「もう呼びかけしなくても、ここの方々は結構理解してくれてるんで」。開始1時間前から行列ができることもある。一つ一つ積み重ねた成果だった。
西成で炊き出しを始めたのは2021年7月のことだ。コロナ禍で炊き出しが減り、炊き出しを頼りにしていた人々が困っていた。
3年前の取材では「日本一のボランティアを目指す」と話していた。
言うのは簡単だが、その言葉通りに続けているのは、並大抵のことではない。
「まあでも、結局自分らもみんなはみ出しもんなんで。ここにいる人たちも大阪西成で生まれ育った人たちばっかりじゃないんですよ。やっぱり他府県からみんなこっちに来て、いいか悪いか分かんないですけど、この場所が『最後の楽園』って呼ばれてる。そういう同じ境遇じゃないけど、俺たちだっていつそっちに行くか分からんし、それはいつも思ってるんですよ。ただ、こういう古きよきもの、人との交流、助け合い、支え合いってものがやっぱりなくなってるんで。時代に逆走したろうかなっていう感じっすかね、あの時よりも」

米の高騰化が影響 パンに変更検討も…「基本的に米でやってきた」
皿を渡す際、利用者に声をかけられれば気さくに言葉を交わす。近況や体調についての報告を受けることもある。
「『おっちゃん元気?』『風邪ひいたらあかんで』『ああ、分かってる、分かってる』で終わるんすよね。それが好きっすね。ああだこうだってないんで。そんな日常がいいなあって。やっぱ僕おじいちゃん、おばあちゃん子なので。なんか好きなんですよ、おじいちゃんおばあちゃんが」
列に並ぶのは高齢者が多い。食事を提供する側と、それを受け取る側。その関係がただ平和に続くことだけを願っている。
「いい意味で駆け引きはないんで。あの人たちもただただこの炊き出しを食べに来て、また来週ねって、お互いその感覚やし。まあ当たり前と思ってもらえたらいいんじゃないですかって思ってます。順番やと思うんでね。次また誰かがその当たり前を作ればいいと思うんで」
味は西成かいわいでも評判だ。60代男性は、「ダルビッシュさんのはめっちゃうまいよ。他の店でカレー食うても全然違う。めっちゃおいしい」と話し、食事をあっという間に平らげた。「普段の団体はこんなことできへんよ」。毎週欠かさず食事を用意してくれることに、感謝の気持ちを口にした。
3年たって、変わらないこともあれば、変わったこともある。
まずは食料の問題だ。運営が軌道に乗る一方で、寄付によるサポートは欠かせないが、「基本的には皆さんから寄付いただいてるんですけど、やっぱりこっちも長くなってきて、皆さんから見ても炊き出ししてることが当たり前っていうような状況にもちょっとなってきてることもあって、寄付がちょっと減ってるんですよ。でも、基本的には寄付で、野菜であったりとか、米であったりとか、やらしてはいただいてます」。寄付でまかないきれない分は、都度、持ち出しでカバーしている。
さらに昨年来の米の高騰が炊き出しに影響を与えている。「米不足というか、今米の問題がすごくあるので。こっちも、続けていける炊き出しを一番したい。結局米が取れないし、与えれないってなっていってもあれなんで、パンに変えるのか、ちょっといろいろ考えてますね」。以前もパンを出したことはあったが、ベースは米食だった。「パンは出したことありますけど、基本的に米でやってきたんですよ」。不安定な状況が続いており、悩みどころとなっている。
ボランティアのメンバーも入れ替わった。平日の夕方という時間帯は、仕事との兼ね合いにより、都合のつかないケースも想定される。それでもこの日は約30人が全員ボランティアで参加した。中には小学校5年生、6年生の姿もある。一生懸命、作業を手伝っていた。「その時やれる人がやっている。1年したらまたガラリと変わっています」。メンバーが交代しても、活気は変わらず、社会貢献への思いが浸透していることを印象づけた。

公園で炊き出しは「ゆくゆくはできなくなる」…それでも西成で
街の姿も静かにその形を変えていく。老朽化した建物は取り壊され、開発が行われ、新しく生まれ変わるのが世の流れだ。時代の変化については、どう捉えているのか。
「この街、西成もやっぱりどんどんどんどん、街としてもしっかりしていくじゃないですか。公園で炊き出しっていうのは、ゆくゆくはできなくなるんだろうなっていうのは思ってます。どっかで規制が入ると思ってます。その時は、例えば、飲食店で場所借りてなんか分かんないですけど、どうであれ西成でやってるんで、続けていこうと思ってますけど」。柔軟に対応していく姿勢を見せた。
炊き出しを運営するグループ「大阪租界」は、他にもボランティア活動を行っている。「弟(ダルビッシュ賢太)が毎週木曜日にミナミの三角公園でごみ拾いを今2年ぐらいやってるんですけど、そういう活動も大阪租界としてやってくれてて」。場所は違えど、兄弟そろって奉仕活動に従事。ボランティアの輪は今後も拡大させていくつもりだ。
「そういう活動がどんどん増えてきてる。前言ったみたいにやっぱ日本一のボランティアを目指してるんで。幅広げていきたいですね。今年はちょっといろいろできるかなと思ってます。18歳以下の子どもたちに対してのボランティアとかも考えてますね」
海の向こうの兄とは、最近炊き出しについての話題はしていないというが、「まあ、どうなんでしょう。悪いとは思ってないんじゃないですか。(僕は)悪いことばっかりして来たんで。そこを思うと、悪いことはしてないと思ってると思います」。西成という場所で、翔さんが見出した生きがいは、これからも多くの人を救うことだろう。
□ダルビッシュ翔(だるびっしゅ・しょう)1989年3月12日、大阪・羽曳野市出身。ダルビッシュ三兄弟の次男。2012年、Dark翔のリングネームで地下格闘技デビュー。現在はYouTuberとしても活躍。大リーグ・パドレスのダルビッシュ有は実兄。炊き出しは「大阪租界」が運営。食材の提供はSNS(@Osakasokai)で受け付けている。181センチ、110キロ。
