アリスの76歳・矢沢透、新バンドで目指す武道館「悲しみの底から新たな道を切り開く」 谷村新司さんの死が転機

フォークグループ・アリスの矢沢透(76)をメインにした3人組バンドのSORISE(ソライズ)が12日、都内で初アルバム『SORIS 1』の発売記念コンサートを行った。メンバーは矢沢、歌手・滝ともはる(70)、元フォークグループ・シグナルの住出勝則(69)。以前から3人で不定期なライブを行っていたが、2023年10月8日にアリスの谷村新司さん(享年74)が亡くなった後、矢沢の呼びかけで本気のグループへとシフトした。平均年齢71・7歳のベテランたちは、日本武道館公演の実現を目指している。

SORISEのコンサートでドラムをたたく矢沢透【写真:岡利恵子】
SORISEのコンサートでドラムをたたく矢沢透【写真:岡利恵子】

滝ともはる、住出勝則とのSORISE、初アルバム発売記念コンサート

 フォークグループ・アリスの矢沢透(76)をメインにした3人組バンドのSORISE(ソライズ)が12日、都内で初アルバム『SORIS 1』の発売記念コンサートを行った。メンバーは矢沢、歌手・滝ともはる(70)、元フォークグループ・シグナルの住出勝則(69)。以前から3人で不定期なライブを行っていたが、2023年10月8日にアリスの谷村新司さん(享年74)が亡くなった後、矢沢の呼びかけで本気のグループへとシフトした。平均年齢71・7歳のベテランたちは、日本武道館公演の実現を目指している。(取材・文=笹森文彦)

 会場は東京・渋谷区文化総合センター大和田さくらホール。2層のバルコニー形式の立派なコンサートホールで、同年代を中心に数多くのファンが訪れた。構成は矢沢のドラムに、ギターの住出と滝のツインボーカル。そしてベース、キーボードなどのサポートメンバーが脇を固めた。

 初アルバムは「愛」がテーマで、この日は収録の全10曲を披露した。3人で作曲し、矢沢がほぼ編曲。ロックンロールの『俺を生きる』、ブルースの『追憶の雫』、グループサウンド風の『もっともっと』など曲調は多彩。矢沢がソロで歌った『君住む街角』は、懐かしいフォークソングのかおりが漂う。

 コンサート中盤では、3人それぞれのオリジナル曲を披露し、会場から大きな歓声が起きた。アンコールは、アルバムを象徴する『僕らの世界は沢山のアイで出来ている』。信じ合い、助け合い、見つめ合いなど、歌詞にたくさんの「アイ」が登場するポップな曲だ。

 コンサート前、取材に応じた矢沢は「やることはライブでもコンサートでも同じですが、今回は自分たちが楽しむより、お客さんに楽しんでほしいという気持ちが強いです」と話した。実はSORISEには前身グループがあった。同じ事務所だった3人で、2011年に結成したHUKUROH(フクロウ)だ。それぞれの“本業”の合間に、やりたい時に集まって、ライブハウスで音楽を楽しむ緩~いグループだった。

 だが、谷村さんが亡くなったことが劇的な転機になった。当時、活動50年を迎えたアリスは、22年11月に記念ライブ「ALICE 50(FIFTY)」を行い、「あと10年は活動を続ける」と宣言していた。ところが、それがラストライブになってしまった。

 矢沢は、10年先まで見据えていた目標を失った。東京・六本木で串焼き店を経営するなど、実業家としても成功しているが、そこに逃げ込むつもりは毛頭なかった。そして、「悲しみの底から、音楽の新たな道を切り開こう」と動き出したのだ。

「谷村の死去で、自分の音楽家としての(メインの)活動の場所がなくなった。でも、ドラムをたたいてやりたい。アリスには絶対になれないけど、このバンド(HUKUROH)が同じように、世の中に感動を与えたり、貢献できないかと思ったんです」

 矢沢は滝、住出に思いを伝えた。

「真剣なグループになろう。ライブハウスではなく、コンサート会場でやって、あわよくばヒット曲を出そう」

コンサートを行ったSORISE。左から住出勝則、矢沢透、滝ともはる【写真:岡利恵子】
コンサートを行ったSORISE。左から住出勝則、矢沢透、滝ともはる【写真:岡利恵子】

 そして、心機一転、24年6月にグループ名をSORISEに変えた。

 HUKUROHは「不」と「苦労」の造語で、「苦労しない」だった。SORISEは「空」と「RISE(昇る)」の造語で、「空高く昇る」の意味が込められた。目標は、音楽の殿堂の日本武道館に「昇る」ことと定めた。

 この3人で日本武道館の熱狂を経験しているのは矢沢だけだが、滝も住出もかつての憧れの場所への熱い思いがよみがえった。その思いを踏まえて矢沢が言った。

「我々に対して、Mrs. GREEN APPLEやYOASOBIのような新しい音楽を期待している人はいない。古くさくてはダメだけど、自分たちが生きてきた時代の音楽、自分たちの感性でできた音楽をやれば、同世代の方々が共感してくれると思います。65歳以上は日本の人口の29%以上(23年10月現在)いるんです。ビートルズを聴いて育った世代なんですよ」

 ヒット曲『南回帰線』を持つ滝は「キンちゃん(矢沢の愛称)に『最後の音楽活動を3人でやりたい』と言われて、胸が熱くなった」と話し、今回のコンサートに臨んだ。シグナルとして名曲『20歳のめぐり逢い』を持ち、ギタリストの顔も持つ住出は「新人の気持ちでまたスタートできるのが楽しい」と話した。

 矢沢はアリス同様、バンドの要としてドラムをたたき続けた。その姿はまるで、正八角形の日本武道館を見据えているかのようだった。

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