大阪“伝説の喧嘩師”に刑務所から挑戦状…驚きの中身 初参戦のBreakingDownは「空間を揺らす」
13日の『BreakingDown16』(大阪・おおきにアリーナ舞洲)に初参戦する“伝説の喧嘩師”アンディ南野は、夜になると“別の顔”を見せる。地元大東市を中心に、数々の伝説を築き、故安倍晋三元首相の警護も担当した腕自慢は、大阪市などの依頼で、北新地で防犯パトロールを行っている。ENCOUNTは、スーツ姿の“夜のアンディ”に密着。集大成と位置づける試合への思いを聞いた。(連載全3回の3回目)

防犯パトロールに密着取材 アンディに任された裏事情
13日の『BreakingDown16』(大阪・おおきにアリーナ舞洲)に初参戦する“伝説の喧嘩師”アンディ南野は、夜になると“別の顔”を見せる。地元大東市を中心に、数々の伝説を築き、故安倍晋三元首相の警護も担当した腕自慢は、大阪市などの依頼で、北新地で防犯パトロールを行っている。ENCOUNTは、スーツ姿の“夜のアンディ”に密着。集大成と位置づける試合への思いを聞いた。(連載全3回の3回目)
午後9時、大阪・梅田に近い北新地の駐車場に、雰囲気を一変させたアンディの姿があった。昼間のようなタンクトップに短パンというラフな格好ではない。警備に当たる数人のスタッフに指示し、配置を決める。スタッフは、「客引行為・勧誘行為はすべて禁止されています」と書かれたプラカードを持ち、歓楽街に繰り出していった。
活動を始めたのは2020年11月からだ。次第に回数が増え、現在では月曜から金曜まで毎日、パトロールに当たっている。アンディに仕事を依頼したのは、大阪市と天満警察署、北新地社交料飲協会。夜の繁華街は、背後にコワモテな組織が控えていることもある。大東市で格闘技ジムも経営するアンディは、練習生などを引き連れ、北新地で客引きなどの違法行為がないか監視。違反が確認された場合、動画で撮影して、警察に通報する役目を受け持つ。
北新地は東京でいう銀座のような場所。治安や風紀の乱れは、街の活気にも影響するとあって、指揮官のアンディに寄せられる期待は大きい。きらびやかな衣装をまとった女性たちが嬌声を上げる夜の社交場で、泥臭い見回りは深夜まで行われる。アンディはなじみの黒服や道を歩いてくる常連客らと次々と言葉を交わす。「頑張ってや。負けたらあかんで!」。『BreakingDown16』に出場することは、会う人会う人が知っていた。アンディは丁寧にあいさつし、次の通りへと移動した。
すっかりなじみの様子のアンディが、1軒の立ち飲み屋の前で神妙な顔を浮かべて立ち止まった。
「ここ、僕がめちゃくちゃ世話になったんです。ここがあったから北新地で防犯を続けられた」
アンディが感謝したのは、創業70年の焼き鳥屋「とり甚」のママだった。
「僕がたまたま飲みに入って、ほんで、お兄ちゃん何してる人なん? みたいな話になって、防犯してますって言って」
「知らんねん。勝手に入ってきたから(笑)」
今でこそ軌道に乗っているものの、最初からうまくいったわけではなかった。北新地について何の知識もなかった“よそもの”のアンディはもがいていた。そこで相談相手になってくれたのがママだった。
「初期の頃、右も左も分からん時に、北新地のことめちゃくちゃ教わった。僕、結構コワモテの外見でしゃべりやから、ガチって言うてくれる人ってなかなかいてなくて。僕にちゃんと指導してくれる数少ない方で、こうしたほうがいいんじゃない、あなたはこういうもの持ってるから、こういうふうに磨いたほうがいいよ、みたいなのを厳しく言うてくださる。だから自分の中で、北新地来たらここに1回は必ずごあいさつに行って、みたいな。ここがなかったらもうたぶんできてなかったから」
ママは子どもの頃、店舗の上に住みながら小学校に通った。いわば北新地の“生き証人”のような存在だ。独自のルートから入る情報や裏話は、パトロールする上で非常に有益だった。
「私は昔の北新地を知ってるので、昔みたいな華やかな北新地になってほしいっていうのが願いやね。今はミナミ化してきてます。もう何もかもポイポイしてます。若い子が酔っ払ってます。そういうのをなくすじゃないけど、北新地という誇り高い街を残していきたい。安い店もいっぱいでき出してるし、女の子も立ち出してる。頑張って維持していきたいので、アンディさんらに力貸してねっていうところやんね」
大阪の2大繁華街と呼ばれるキタと難波駅周辺のミナミ。高級店が多く企業の接待でも使われるキタに対し、ミナミは若者や観光客でにぎわい、雑多な印象がある。働く女性のドレスコードもキタに比べれば緩い。その境目が失われつつあることに、懸念を示す声はかねて上がっていた。

刑務所からアンディのもとに届く手紙
「やっぱ若い子は増えてるわな。何でもありやもんな。昔なんか肌そこまで見せなかったけども、今はみんなそういう感じになってきてる。しゃあないんやろうけどな、そういうのが求められてるから」
ママは、アンディがパトロールを任された舞台裏をこう明かす。
「アンディさんの前に1回あったけど、弱かったらしい。怖くないからみんなナメて全然言うこと聞かなくて、もうちょっときつい、ガツンと存在感のある人を呼んだらしい」
一筋縄ではいかない夜の世界。正義感にあふれ、けんかに強く、物おじしないアンディはうってつけだった。
荷物の置き場がなければ、店の2階を使わせた。一方で、アンディが誤った方向に行こうとした時は、容しゃなくしかりつけた。
「そりゃ言うよ。おかしいことあったら言うから。1回ピチっと切れたこともあったし。アンディがやりすぎた? そやね。私も他からいろんな話を聞くので、それは弱いものいじめになるんじゃないかとか、そういう感覚やんね。ちゃうんちゃうかっていう話はしたこともあるし」
客引きを捕まえて、街を浄化するだけでない。脈々と受け継がれるキタならではの洗練された文化。その“守衛所”としての役割もアンディは担っていた。
ママは「向いてるところはあるんじゃないかな、と思うけどね。やっぱバシッととことんまでいくっていうところやろね。それをまあ平等にできればいいんやろうけど、こんだけ広かったら影で隠れてやる人もおるやろうし。難しい。まあいないより、いたほうがピリピリするんじゃないと思うな」と言って、笑顔でアンディを送り出した。
北新地でも注目を集める『BreakingDown16』。アンディは、てるとの大阪対決を控える。てるは、「アンディさん、大阪大会盛り上げるんやったら僕たちでしょ。僕アンディさん昔から知ってるんで」と、挑戦状をたたきつけてきた。
「BreakingDownの人気を作るためにずっと頑張ってきた感じの、ホンマに好青年みたいな」と印象を語ったアンディが背負うのは、自らの“喧嘩師”としての経歴だ。大東市では中高時代から一匹狼を貫き、暴走族と真っ向から対立。数々のストリートファイトで無類の強さを誇ってきた。
「じっとしてたら食い物にされる。(地元は)そういう街。知り合いから原付買ったらその日のうちにパクられて、2度売り、3度売りされるんやから」
弱肉強食の世界で、生き抜くために必死だった。その結果、良くも悪くもアンディの名前は大阪中にとどろくこととなった。
刑務所から手紙が届くことがたまにある。差出人を見ると、記憶がない。手紙を読むと、「関西で一番けんかが強いって聞いてるんで。勝負してください」「本を読んで知りました」などと書かれている。
実際、出所後に「刑務所から手紙を書いたものです。会ってもらえませんか?」と連絡をもらい、タイマンを張ったこともあった。「どこ? 迎えにいってやろうか。あとで文句言うなよ」。「分かりました」。見知らぬ男との路上での1本勝負は、ローキック一発でアンディが制したが、生活に困窮している状況を聞き、働き口をあっせんするなど、再起への手助けも行った。
現在のアンディは、指導者としての立場もある。ジムで不登校の生徒を鍛え、立派なチャンピオンに育てた。生徒の元には、かつてのいじめっ子たちが弟子入りした。アンディの果たす役割は、社会貢献という枠を超えて広がり、その背中はたくさんの教え子たちが見守っている。
試合が決まり、アンディのもとには周囲から冗談めいたエールが続々と届けられた。
「アンディが負けたら大阪の格闘家、喧嘩師たちの順位が全員下がるから絶対負けんな」「アンディが負けたらキャッチたちも調子に乗るから大阪の治安がもっと乱れる」
「ホンマにめっちゃ緊張する……」とまるで自分ごとのように、失うものの大きさを危惧する声もあった。

相手が持ったカッターナイフをつま先で蹴り上げて…
当の本人にプレッシャーはないのか聞くと、「いや、余裕っすね。順位なんか自分で上げてこい。僕が負けたからって下がるような順位なんか、ハナからお前らが弱いからやって感じやけどね。誰が負けても僕の順位は微動だにせえへん。僕の下が入れ替わるだけで」と一笑に付し、静かに拳を握り締めた。
コンディションは絶好調だ。3年前に比べて34キロの減量に成功した。地元で暴れまくっていた学生の頃とほとんど同じで、「この体重が一番強い」と腕を撫す。
動きやすい体になれば、技のキレ味は増す。アンディの得意技は、柔らかい体を生かして頭上からたたき込むかかと落としだ。
高校時代には、校舎の裏のゴミ焼却炉の前で、こんな決闘もあったという。
「何人かに囲まれて、相手がカッターナイフを持っとって、そのカッターナイフを、下からかかと落としを振り上げる時につま先で上に蹴り上げて、その足をそのまま振り下ろしてかかと落としにして相手の歯折ったことありますね。一石二鳥攻撃なんで」
住道駅前では酔っぱらってアンディの原付バイクに乗ってきた消防士4人組をかかと落としで一蹴したこともある。
「自分の乗り物に勝手にまたがられるって、もう自分の嫁さんにまたがってんのと同じ感覚やからね」
BreakingDownは日本中から選ばれた不良やヤンキーたちが一堂に集う格闘技エンターテインメント。
その中で、アンディが示すのは、圧倒的な存在感だ。
「入場から退場まで、やっぱり最高のエンターテイナーっていうのはこれやでっていうのをね。みんなオーディションは達者なんですよ。なんやかんやしゃべったりとか。でも、僕は逆のパターンやけど、カメラの向こうの何万人っていう人に届ける自分のキャラ作りが苦手で。僕は実際にそこの空気に一緒にいてる人間たちの心を揺らすのが得意なんで。BreakingDownのオーディション出てる人たちって、オーディションっていう箱の中で自己演出するのが得意かもしれないけど、ホンマに何百人、何千人、何万人っていうその人らが同居してる空間を揺らすっていうのはこういうことやでっていうのを僕はお見せできると思います」
大阪で新たな伝説の1ページが刻まれるのか。待ったなしだ。
□アンディ南野(あんでぃ・みなみの)1979年2月10日、大阪・大東市出身。若い頃からけんかに明け暮れ、高校卒業に6年を要す。28歳のとき、格闘技デビュー。地下格闘技「喧王」で2度優勝。2019年の選挙では腕っぷしを買われて故安倍晋三元首相の警護を務めた。現在は天満警察署と大阪市の要請で、北新地のパトロールを行い、違反者を摘発している。エンセン井上プロデュースのジム「PUREBRED大阪」を、創設者太田隆司より継承し、格闘技ジム「T.B.NATION」を設立。172センチ、80キロ。
