元乃木坂46・山下美月が歩む道「すごく幸せ」 “夫殺し”のヒロイン役で新境地

2024年に乃木坂46を卒業後も、俳優として着実にキャリアを重ねる山下美月。7月11日スタートのWOWOW『殺した夫が帰ってきました』(金曜午後11時、全6話)では連続ドラマ単独初主演を飾り、罪を抱えて生きる薄幸な主人公に挑んだ。愛と罪が交錯するこの衝撃的なサスペンスドラマで感じた思いや、俳優を続けるモチベーションの源を聞いた。

『殺した夫が帰ってきました』で新境地を見せた山下美月【写真:増田美咲】
『殺した夫が帰ってきました』で新境地を見せた山下美月【写真:増田美咲】

『殺した夫が帰ってきました』でサスペンスドラマ初主演

 2024年に乃木坂46を卒業後も、俳優として着実にキャリアを重ねる山下美月。7月11日スタートのWOWOW『殺した夫が帰ってきました』(金曜午後11時、全6話)では連続ドラマ単独初主演を飾り、罪を抱えて生きる薄幸な主人公に挑んだ。愛と罪が交錯するこの衝撃的なサスペンスドラマで感じた思いや、俳優を続けるモチベーションの源を聞いた。(取材・文=大宮高史)

 今作は、第19回電撃小説大賞(2012年)の大賞受賞作『きじかくしの庭』でデビューした桜井美奈氏の同名小説をドラマ化したサスペンスミステリー。山下は、アパレル会社でデザイナーを志す気鋭の若手社員・鈴倉茉菜を演じる。実は彼女は、日常的に暴力を振るわれた夫の和希(萩原利久)を殺害した過去を隠しながら生きていた。だがある日、茉菜の前に殺したはずの和希が記憶をなくした状態で現れる。さらに「鈴倉茉菜の過去を知っている」と謎の手紙が届く。再会した和希は本物の夫なのか、疑念を抱いたまま茉菜と和希との奇妙な共同生活が始まる――。連続ドラマ単独初主演の山下が、複雑な状況下にある茉菜を、どう表現するか注目される。

「これだけ波乱万丈な一人の人生を、お芝居の中でさせていただくのは初めてです。茉菜にはどうしても哀しさがつきまといますし、今まで出させていただいた作品とは一線を画すので、『こんな役もやるのか』と興味を持っていただけたらうれしいです」

 撮影は全6話を約3週間の短期間で撮り終えたが、ミステリードラマの苦労もあったという。

「連続ドラマだと、放送が始まった時に終盤の撮影をしている時もあり、序盤に役作りの土台が固まってから最終回に向かっていけるのですが、今回はキャストやスタッフさんとベクトルを合わせて、一気に完成に持っていったイメージです。『茉菜たちが真相に気づく前と後で、どう表情が変わったか』などもすべて想像で組み立てていきました」

 茉菜は幼少期にネグレクトを受け、学校にも行けないまま育つ。流れ着いた夜の街で唯一の親友といえる女性(田鍋梨々花)と出会うが、彼女とも悲しい別れが……。回想シーンから演じていった山下は、茉菜を演じる上でのポイントを語った。

「茉菜は親も頼れず、近所のよくしてくれる人にも全てをさらけ出せない、初めて好きになった親友にも本当のことを言えなくて、ずっと何かを隠し続けてきた人生を送ってきました。そういう中で、感情を出せない子になってしまったと思います。ですから、静かなお芝居で彼女の思いを見る人に伝えなければいけない難しさがありました」

 暗い過去を背負った茉菜の、感情を抑えての繊細な芝居には、「怖さも感じました」と明かす。

「人を殴ったりといった激しい振る舞いの方が、表現としては伝わりやすいと思うので、演じやすいかもしれません。でも茉菜はそんな風に、感情を爆発させたりしないんです。しかも過去の秘密や、和希さんへの恐れや疑いなど抱えているものがありすぎて、『果たして茉菜の内面を伝えきれているだろうか?』と自問しながら演じていました」

 一方で、東京で明るく働きつつも秘密を抱えて生きている茉菜の姿には、共感も覚えた。

「人は、すべての感情・人格をさらけ出すわけにはいかないものですよね。私もこの業界に入って理不尽を感じたこともあれば、すごく悔しい思いをしたこともあります。もちろん茉菜とは全く境遇が違いますが、私もオープンに素顔を見せられる性格ではないので(笑)、表に出せるところは出しつつ、秘めておきたい素の一面はそのままにしておきたいですね」

秘密を抱えた鈴倉茉菜の壮絶な半生を好演した【写真:増田美咲】
秘密を抱えた鈴倉茉菜の壮絶な半生を好演した【写真:増田美咲】

薄幸の半生を好演 「普通の幸せ」あきらめたことに「悔いはない」

 夫・和希を演じた萩原利久とは縁もある。2019年放送のテレビ東京系『電影少女 -VIDEO GIRL MAI 2019-』で萩原と連ドラW主演を務めたほか、24年の読売テレビ・日本テレビ系連続ドラマ『降り積もれ孤独な死よ』でも共演。今回で3度目の“タッグ”となり、心強かったようだ。

「19歳の時から一緒にお芝居をさせていただく機会があったため、演技に関して万全の信頼があります。シーンごとに2人でお芝居の方向性を細かく相談し、チームワークで作っていきました」

 ドラマでは結末に近づくにつれ、「普通の幸せ」を求めたかった茉菜の思いもクローズアップされる。9年前、乃木坂46のオーディションに合格して憧れをつかんだ山下にも「普通」への未練はなかったのか? と聞くと、明快に言い切った。

「この道に進まなかったらどんな人生だったか……興味はありますが今の道に悔いはないです。運よく、たくさんの方と出会えて応援していただいて、すごく幸せです」

 そして、彼女なりの言葉で表舞台にいる思いをていねいに語った。

「『期待に応えたい』というのはちょっと違うんです。『裏切りたくない』なんです。17歳から皆さんがたくさん力を注いで育ててくださいましたし、俳優として作品に呼んでいただけるのも私を見てくださった現場のスタッフさんのおかげです。ただその期待に、100パーセント応えられているかという自信は、今でもあまりないのですが(笑)。『人からの信頼や応援を無駄にしたくない』くらいの思いを持って過ごせています」

 今作の連続ドラマ単独初主演に「すべてのセクションにいる人が力を出し合い、私は俳優部として呼んでいただいたという認識でいるので、自分が胸を張る気持ちはあまりないですね」と謙虚な姿勢を見せる。それでも今作での濃密な経験は、俳優として新たな扉を開き、自信につながった。

「今まで、茉菜のような役をやるイメージは薄かったかもしれません。今でもアイドルとしての明るいイメージを持ってくださっている方もいると思いますし、逆にアイドル時代を知らなくて、最近演じた役で私のことを知った方もいるかもしれません。茉菜としてのお芝居で、『私へのイメージ』にまた化学変化が起こりそうなのが、楽しみです」

□山下美月(やました・みづき) 1999年7月26日生まれ、東京都出身。2016年9月に乃木坂46に3期生として加入し、芸能活動をスタート。グループ在籍中から俳優として活動し、テレビ東京系連続ドラマ『電影少女 -VIDEO GIRL MAI 2019-』(19年)、『じゃない方の彼女』(21年)などでヒロインを務めた。ほか、実写版『映像研には手を出すな!』(20年)や、NHK連続テレビ小説『舞い上がれ! 』(22年)などにも出演。24年5月に乃木坂46を卒業した。25年は1月から放送されたカンテレ・フジテレビ系連続ドラマ『御曹司に恋はムズすぎる』、3月公開の映画『山田くんとLv999の恋をする』などに出演。10月には出演映画『火喰い鳥を、喰う』『愚か者の身分』の公開が控えている。

ヘアメイク:吉田真佐美/MASAMI YOSHIDA
スタイリスト:山本隆司(style3)/YAMAMOTO TAKASHI(style3)

■【第1話まるごと無料配信】連続ドラマW-30『殺した夫が帰ってきました』山下美月・萩原利久出演

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