ルパンをボコボコに!? 片岡愛之助「やりすぎじゃない?」と戸惑った悪役の過激すぎる正体

歌舞伎俳優の片岡愛之助が、アニメ映画『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』(公開中、小池健監督)で、ルパン三世に立ちはだかる“最強の敵”ムオム役を演じる。2023年には新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』でルパン役を演じたが、ヒーローから敵へと立場を変えて臨んだ今作への思いと、その裏にある、子ども時代のルパンへの憧れを語った。

ルパン三世に立ちはだかる“最強の敵”ムオム役を演じる【写真:増田美咲】
ルパン三世に立ちはだかる“最強の敵”ムオム役を演じる【写真:増田美咲】

幼少期に“こっそり観てたヒーロー”と再会した日

 歌舞伎俳優の片岡愛之助が、アニメ映画『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』(公開中、小池健監督)で、ルパン三世に立ちはだかる“最強の敵”ムオム役を演じる。2023年には新作歌舞伎『流白浪燦星(ルパン三世)』でルパン役を演じたが、ヒーローから敵へと立場を変えて臨んだ今作への思いと、その裏にある、子ども時代のルパンへの憧れを語った。(取材・文=平辻哲也)

「こっそり、こっそり、こっそり見てました(笑)」

 子どもの頃、実家ではNHKか国会中継しか見せてもらえず、漫画やバラエティー番組もご法度。ルパン三世は、そんな厳しい家庭の中でひそかに楽しんだ“禁断のヒーロー”だったという。

「『8時だョ!全員集合』を観たら怒られるような家でしたから。親父が帰ってくる前、夕方5時半くらいに放送してたルパンを、そっと観てたんです」

 その“こっそり観ていた存在”の映画に、自ら出演する日が来た。しかも今回は、敵役として。

 本作は小池健監督による「LUPIN THE IIIRD」シリーズの劇場版で、「ルパン三世」シリーズとしては、『ルパン三世 DEAD OR ALIVE』(1996年)以来となる2D劇場版アニメーションの完全新作。バミューダにある地図のない島を舞台に、ルパン一行は、島の主で、謎めいた不死身の宿敵ムオムと対峙する。

「最初に話をいただいたとき、『どういう役なのかな?』と思ったら、“いい人じゃないやん!”って(笑)。思いっきり敵役やんって。でも、まさかルパンの世界に参加できるなんて夢にも思っていなかったので、本当にありがたいことでした」

 演じるに当たってはハードボイルド路線の「LUPIN THE IIIRD」シリーズも鑑賞したが、いざアフレコに臨むと、ただの敵役という感覚ではいられなかったという。

「自分がルパンをこんなに痛めつけてもいいのか……って。ちょっと罪悪感が湧いてきたんですよ。次元も超かわいそうで(笑)。でも『しっかりやってもらわないと物語に深みが出ない』と監督に言われて。だったらもう、全力でやらせていただきました」

 ムオムというキャラクターの難しさは、セリフ回しにもあった。

「最初のほうはちゃんとセリフなんですけど、だんだん“言葉であって言葉でない”セリフになっていくんですよね。『字幕も出るので』って言われて、“じゃあ僕、ほとんど喋らなくても『うー』と唸り声だけでいいのかな?”と思ったくらい(笑)。でもそれでは、つまらないし、何を伝えるべきかを掘り下げて、母音だけで喋るのか?みたいなところも含めて、監督たちと細かく相談しました」

アフレコについても語った【写真:増田美咲】
アフレコについても語った【写真:増田美咲】

 アクションシーンのアフレコは、特に苦労した場面のひとつだ。

「半分くらい映像はできていたんですけど、『今何回パンチ出した?』って巻き戻して確認したり、動きに合わせて音を当てるのがとにかく大変でした。セリフよりも、むしろ“うめき声”の方が難しかったですね。後半はほとんどずっと戦ってましたから(笑)」

 かつて出演したアニメ『映画 妖怪ウォッチ 誕生の秘密だニャン!』(2014年)と比べて、今回のアフレコは“正反対の難しさ”があったという。

「『妖怪ウォッチ』のときは、まだ絵ができていなくて、『好きに読んでください、それに合わせて描きますから』って言われたんです。あれは一番楽なパターン(笑)。でも今回は映像が先で、口の動きに合わせないといけない。吹き替えと同じですね。ムオムは非常に特殊なキャラクターなので、細かなニュアンスを表現するのが難しかったですね」

 完成した映画を観たときには、テレビアニメ版とは異なる手応えを感じたという。

「かなりハードボイルドなルパンで、いよいよシリーズが、終着点に向かっていくなと感じました。あとやっぱり、B’zさんの主題歌(The IIIRD Eye)がめちゃくちゃ合ってるんですよ。スピード感がすごくて、本当にカッコいいなと思いました」

 ちなみに、ルパン三世の中で好きなキャラクターを聞くと、「みんな好きですね」と即答する。

「嫌いな人なんて、いないと思います。ルパンは軽くておちゃらけてるけど、その裏ではちゃんと作戦を練ってる。あのギャップが素敵ですよね。あと、屋根の上を走ったり、飛び跳ねたりするアクション。子どもの頃は“やりたい!”って思ってました。でも大人になって“できるわけない”って気づきますよね(笑)。車とか銃とか、小道具も面白いし、“そんなん出てくる?”って驚きもある。あれはもう、男のロマンですよ。ルパンには、子供も大人も惹かれる魅力が全部詰まってると思います」

 映画で敵役を務めながら、9月には南座で再びルパン役として歌舞伎の舞台に立つ愛之助。ルパン三世という存在が、どれほど特別なものであるか、言葉の端々から伝わってきた。

□片岡愛之助(かたおか・あいのすけ)1972年3月4日生まれ。大阪府出身。1981年12月、十三代目片岡仁左衛門の部屋子となり、南座『勧進帳』の太刀持ちで片岡千代丸を名乗り初舞台。1992年1月、片岡秀太郎の養子となり、大阪・中座『勧進帳』の駿河次郎ほかで六代目として片岡愛之助を襲名。歌舞伎のみならず、俳優としての近年の主な出演作には『キングダム 運命の炎』(2023年)、『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~』(2023年)、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』(2022年)、『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(2025年)などがある。

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