「逸材だって言われました(笑)」 俳優・渡辺裕太が挑んだ“船頭役”と被災地でのリアル
俳優・渡辺裕太が、映画『囁きの河』(熊本にて先行公開中、7月11日より池袋シネマ・ロサ、シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開、大木一史監督)で、主人公・今西孝之(中原丈雄)の息子・文則を演じた。被災地・人吉球磨地域を舞台にした同作で、地元の伝統である“球磨川くだり”の船頭という難役に挑戦。作品への向き合い方から、共演者との交流まで、飾らない言葉で語ってくれた。

映画『囁きの河』で難役に挑戦
俳優・渡辺裕太が、映画『囁きの河』(熊本にて先行公開中、7月11日より池袋シネマ・ロサ、シネスイッチ銀座ほかにて全国順次公開、大木一史監督)で、主人公・今西孝之(中原丈雄)の息子・文則を演じた。被災地・人吉球磨地域を舞台にした同作で、地元の伝統である“球磨川くだり”の船頭という難役に挑戦。作品への向き合い方から、共演者との交流まで、飾らない言葉で語ってくれた。(取材・文=平辻哲也)
舞台を中心に俳優業を続ける渡辺に、映画出演の話が舞い込んだのは、父・渡辺徹さんのマネジャーと監督とのつながりがきっかけ。
「僕の連絡先がその流れで伝わったんだと思います。すみません、あんまりちゃんと覚えてないんですけど」と茶目っ気たっぷりに振り返る。
映画は、2020年(令和2年)7月の豪雨で被災した熊本県・球磨川流域を舞台に、22年ぶりに帰郷した今西孝之(中原丈雄)が、失った居場所を取り戻そうとする姿を描いている。渡辺は父に反発する息子の文則を演じた。
県内の死者65人という甚大な被害が出た災害をテーマにした物語に、最初はプレッシャーも感じた。
「犠牲になった方もいらっしゃる中で、生半可な気持ちではできないと思いました。まずは現地のことを知らないと、と」。そこで、撮影前に何度も人吉を訪れ、実際の船頭から技術を学んだ。
「『しょうがないよね』『負けないよ』と言いながら石や木を運ぶ人たちから、肌で学ぶことが多かったです」と語る。
船頭の稽古は一昨年の年末と昨年の年始、撮影直前にも行われた。
「船頭として一人前になるには10年という世界でしたが、2週間の稽古で『逸材だ』って言ってもらえました(笑)。でも本当に難しくて、力が入りすぎると逆にうまくいかないんです」
実際の川の流れは日々違い、雨で濁流になれば近づけないこともあった。
役作りにおいては、その“川の時間”が大きな影響を与えたという。
「あの場所で感じた時間や風景が、文則という役の思いを自然と導いてくれました。川の表情って本当に毎日違って、そこが怖くもあり、美しいところでした」
共演の中原丈雄とは、現場の外でも深い交流があった。
「中原さんは、コーヒーをすするだけでも絵になる人。船頭の腕は僕の方が先に上達してたんですけど(笑)、劇中では、めちゃくちゃ師匠のような顔して教えてくれるんですよ。実際にはあんまり使われませんでしたが(笑)」
現地での暮らしにもすぐに馴染み、地元の料理に舌鼓を打った。
「小料理屋の“爆弾おにぎり”が忘れられないです。飲んだあとに行くんですけど、全然“締め”の量じゃなくて(笑)」。撮影は2月と6月に分けて行われたが、「2月の自分が太ってたから、6月もそれに合わせて戻しました。顔にすぐ出るタイプなんです。おいしい地元料理が原因ですね(笑)」。
地元の人々の支援にも助けられた。
「宿から現場まで、プロデューサーさんだけじゃなく地元の人が車で送ってくれるなんて普通じゃない。地元の主婦の方たちがカレーを作ってスタッフにふるまうというので、恩返しがしたくて、僕も一緒に作ったんです。皆さんが喜んでくれて、本当にうれしかった」
災害を題材にした作品だからこそ、地域の人々とのふれあいは大きな意味を持った。現場での経験が、役に、そして俳優としての在り方に大きな影響を与えていることは間違いない。
□渡辺裕太(わたなべ・ゆうた)1989年3月28日生まれ。東京都出身。タレント・レポーターとして日本テレビ系『news every.』、『所さんの目がテン!!』、NHK『やさいの時間』などのテレビ番組で活躍する一方、俳優としても舞台や映画に出演するなど、幅広く活動している。主な出演作として、舞台『父との夏』(2024年)、『R老人の週末の御予定』(25年)、映画『アクトレス・モンタージュ』(21年)、『メグライオン』(20年)、配信ドラマ『エンジェルシンク333 シーズン2』など。近年は落語にも挑戦し、さまざまな寄席にも出演。野菜ソムリエの資格を持つ、無類のパスタ好き。
