「こんな状況見たことない」ザリガニ大量死にネット騒然 『池の水ぜんぶ抜く』専門家に見解を聞いた
日本列島の広い範囲で最高気温が35度以上の猛暑日を記録するなど、梅雨真っただ中でありながら真夏のような暑さが続いている6月。SNS上では、各地で特定外来生物であるアメリカザリガニの異常行動や大量死の様子を収めた画像が拡散、話題を呼んでいる。一体何が起こっているのか、専門家に話を聞いた。

猛暑が続く中、各地でアメリカザリガニの異常行動や大量死が話題に
日本列島の広い範囲で最高気温が35度以上の猛暑日を記録するなど、梅雨真っただ中でありながら真夏のような暑さが続いている6月。SNS上では、各地で特定外来生物であるアメリカザリガニの異常行動や大量死の様子を収めた画像が拡散、話題を呼んでいる。一体何が起こっているのか、専門家に話を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
「田んぼの中がお風呂の水と同じくらい熱く、ザリガニが大量に茹で上がってた」「大量のザリガニたちが熱い水を逃れようと稲にしがみついてカオスになってる」「こんな状況見たことない」
各地で猛暑日を記録した6月18日から19日にかけ、SNS上ではアメリカザリガニの大量死や異常行動に関する複数の目撃情報が話題に。「やばすぎだろ」「ザリガニが茹で上がる程の水温ってかなりエグない?」「こんだけ田んぼにザリガニがいることに驚き」「外来種駆除の手間が省けた」「臭いと水質が心配ですね…」など、さまざまな反応が寄せられている。
実際のところ、猛暑でザリガニが大量死する可能性はあるのだろうか。北海道のニホンザリガニや外来種であるニジマスの研究に取り組む北海道教育大学の今村彰生准教授は、「アメリカザリガニは32度程度の高温でも代謝異常を引き起こします。昨今の止水状態で水深の浅い水田では、40度近くまで上がることもあるので、相当な影響があるのでは」と見解を語る。
「まず、水温が上がると水中の飽和溶存酸素量は減ります。加えて、ザリガニは変温動物なので、高温になると基礎代謝が上がり、必要酸素量が増えます。酸素が足りず酸欠状態になると、代謝異常や免疫低下などの問題も起こってくる。高温ストレスや酸素不足による窒息死の可能性が推測されます」(今村准教授)
ただ、ここ数年、夏場に限ればこの6月以上に記録的な高温が続いている。なぜ今回だけこれほどの大量死が起こったのだろうか。テレビ東京『緊急SOS! 池の水ぜんぶ抜く大作戦』や日本テレビ『所さんの目がテン!』などの番組に、環境保全の専門家として出演する特定非営利活動法人「NPO birth」の久保田潤一氏は「理由は急激な気温上昇にあると思います」と解説する。
「話題の投稿は今月18日、19日のものですが、気象庁によると気温が一気に上がったのが17日。アメリカザリガニは比較的高温に強い生き物ですが、夏場は土の中に穴を掘って潜り込み、暑さをしのぐ習性があります。また、人間同様、暑さにも徐々に順化していく。今回は一気に水温が高くなったことで、体が適応しきれなかった可能性が考えられます。また、ザリガニはえら呼吸ですが、えらが濡れている間は空気中からも酸素を取り込むことができる。稲に上る行動は、水中の酸素が少なくなり、苦しくなって行ったものだと考えられます」(久保田氏)
拡散した投稿では、他の在来種に大量死は見られなかったとの情報もある。在来種の方が本来の生息地域の環境変化に強いという可能性はあるのだろうか。
「同じ田んぼの生き物でいうと、ドジョウはえらだけでなく皮膚呼吸もできるので、低酸素状態には強いと言えます。ただ、近年の異常な暑さについては、在来種も外来種も関係ないでしょう」と久保田氏。ちなみに、国内唯一の在来種で絶滅危惧種のニホンザリガニを研究する今村准教授によると、ニホンザリガニはアメリカザリガニよりもはるかに適応温度域が低く、減少の要因の一つは水温上昇にあるとも言われているという。
ただ、日頃から外来種問題に取り組んでいる久保田氏は、今回の現象が「アメリカザリガニ根絶のヒントになるかもしれない」とも口にする。
「アメリカザリガニは本当に弱点がなく、根絶はほぼ不可能だと思われてきた。今回、実際に私や仲間の間でも、生息場所の水温を何らかの方法で急激に上昇させることで駆除が可能なのでは? という話は出ました。他の在来種に影響が出る、一気に広範囲を駆除できない、といった課題はいろいろと想定されますが、今後の外来種問題解決の糸口にはなるかもしれません」(久保田氏)
環境省は2023年6月、アメリカザリガニを「条件付特定外来生物」に指定。ペットとして飼育することは可能だが、野外に放したり、逃がしたりすることは禁止されており、違反した場合は3年以下の懲役または300万円以下の罰金、あるいはその両方が科される可能性がある。野外でアメリカザリガニを捕獲した際には、責任を持って最後まで飼育するか、その場で駆除する必要があるため、安易に手を出さないことが求められる。
