WEST.濵田崇裕「大の男が稽古で泣きはらした」 舞台初主演での壮絶な経験が俳優の原点、7年ぶり『市場三郎』で再び主演

WEST.の濵田崇裕が、東京グローブ座で6月30日開幕の舞台『歌喜劇/~蘇る市場三郎 冥土の恋~』(脚本・福田転球、演出・河原雅彦)に主演する。全編アカペラで物語を紡ぐ『市場三郎』シリーズ第3弾で、前回から7年ぶりの上演となる。濵田は舞台初主演作となった2016年のシリーズ初演から天然で情に厚い主人公・市場三郎を好演。演出家から鍛え上げられた初演時の経験が俳優としての基礎を作ったと明かした。

インタビューに応じたWEST.の濵田貴裕【写真:増田美咲】
インタビューに応じたWEST.の濵田貴裕【写真:増田美咲】

アカペラで展開する『歌喜劇/~蘇る市場三郎 冥土の恋~』に主演

 WEST.の濵田崇裕が、東京グローブ座で6月30日開幕の舞台『歌喜劇/~蘇る市場三郎 冥土の恋~』(脚本・福田転球、演出・河原雅彦)に主演する。全編アカペラで物語を紡ぐ『市場三郎』シリーズ第3弾で、前回から7年ぶりの上演となる。濵田は舞台初主演作となった2016年のシリーズ初演から天然で情に厚い主人公・市場三郎を好演。演出家から鍛え上げられた初演時の経験が俳優としての基礎を作ったと明かした。(取材・文=大宮高史)

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 濵田が演じる真面目なだけが取り柄の市場三郎が、慰安旅行先で毎回恋に落ちるも幸せを逃してしまう、面白くちょっとほろ苦い『市場三郎』シリーズ。2016年の初演『歌喜劇/市場三郎~温泉宿の恋』で濵田が舞台初主演を果たしてから、3作目となる。

 今回は京都で美しい僧侶・青蓮(朝月希和)と出会ったが、三郎は事故で「あの世・黄泉の国」に行ってしまう。するとそこには青蓮もいて……。毎回ギャグやパロディーが盛りだくさんの悲喜劇が繰り広げられるのも見どころのひとつだ。

――まずは、シリーズ第2弾『歌喜劇/市場三郎~グアムの恋』(2018年)以来、7年ぶりとなる新作への抱負をお聞きします。

「ちょっと不安です(笑)。初演から9年経っていて、しかも7年ぶりなので、初めて観に来てくださるお客さんが作品の空気感についてきてくれるかな、と。でも素直に笑えるネタが盛りだくさんなので、僕らも楽しみながらやろうと思います」

――第3弾の実現までにはどんな経緯が?

「僕自身、何度もやりたい作品でしたし、演出の河原さんも『俺たちが元気な生きている限りできるぞ』とやる気でした。ただコロナもあって、しばらく再演できそうな雰囲気ではないな……と思っていたんです。そんな時、昨年、僕が主演したミュージカル『プロデューサーズ』を河原さんと古田直子プロデューサーが観に来てくれて、その時『また新作を考えている。今度もヤバいぞ』って聞いて。そこからお話が進んでいきました」

――今回でシリーズも3作目になりますが、ご自身にとって作品はどのような存在になりましたか?

「僕の代表作だと胸を張って言えます! バカバカしいコメディーなんですが、稽古場では本気でぶつかってきました。初演の時は、できなさすぎて大の男が稽古で泣きはらしたんです」

――初めての主演舞台では、そんな経験があったのですね。

「稽古が始まって2日目に、思うようにできなくてTシャツに顔をうずめて泣きました。大人になってあれほど泣いたのは最初で最後です。河原さんも『俺だって青年を泣かしたくないんだよ』って……。全然期待に応えられていなくて、申し訳なかったです」

――それほど厳しい指導だったのでしょうか。

「表向きはソフトです。役作りは僕に任せてくれるし、考えてきたプランも否定しないんです。でも『なんでそうしたの?』と聞かれた時に答えられないと、『考えていないんだったらそんなことするな』と途端に厳しいダメ出しがきました。それも『このままでいいやと思ってやると絶対後悔するから』と、河原さんなりに僕らを一人前の俳優にしてやるとの思いからでした」

――熱の入った稽古だったのですね。

「『格好いい俳優はたくさんいるけど、しっかりと芯まで俳優だと俺(河原)が言えるくらいになってほしい』という思いからだったそうです。知名度だけで主役を取るのではなくて、何歳になっても『あの人の芝居がいいね』と言ってもらえる俳優に育てたい、と。それだけ強い気持ちで向かってきてくださったので、僕も『厳しくしてください』と言いました。(河原さんは)『打ちのめそうとは思ってないよ』とのことでしたが(笑)」

――俳優として、鍛え直された経験だったんですね。

「そうですね。壮絶な経験をしたので、初日の記憶がほとんど無いんですが、お客さんの前でお芝居をするとしっかりリアクションが返ってきました。ちゃんと笑ってもらえて『面白い芝居ができたんだ』と自信がつきましたし、客席の笑い声で舞台上のセリフが聞こえないくらいでした(笑)。だから声が枯れるくらいの大声で舞台に立っていました」

昨年にもミュージカル『プロデューサーズ』に出演。舞台俳優としての引き出しを広げている【写真:増田美咲】
昨年にもミュージカル『プロデューサーズ』に出演。舞台俳優としての引き出しを広げている【写真:増田美咲】

「ハモれていなかったら『裏でケンカしてたな』と思って(笑)」

――全編アカペラで展開されるのもこの作品の特徴ですが、演じる側として心がけていることは?

「効果音も波の音も演者でやる舞台って、ほかに無いんじゃないでしょうか。台本を見ると、楽譜もないのにセリフのところに音符のマークがついていたりします。『歌ってください』と言われて、本読みで自分が想像したメロディーで歌うしかなくて。波の音のシーンでは『ザザーン』と言ってみたりします。河原さんと相談することもありますが、演者同士で『どうしようか?』と音階を合わせてハモれるようにしていく。この一体感は、小劇場ならではのお芝居ですね」

――ミュージカルも経験されていますが、アカペラならではの難しさは。

「ミュージカルとは全然違います。まず、メロディーなしでハモらせるってすごく難しいです。皆が脳内で音を合わせないといけないので、歌い出しの瞬間はめちゃくちゃ緊張します。稽古でも手をつないで発声や歌の練習はしていますが、演者同士の関係が大事になってきます」

――稽古から、俳優同士の一体感が大切と。

「例えばちょっとケンカでもして『もういいや』となったら歌は失敗します。だからもし舞台でハモれていなかったら、『裏でケンカしてたな』と思ってください(笑)」

――映像やコンサートでも活躍している濵田さんですが、舞台ならではのやりがいや魅力は。

「舞台は見る人次第でどんな楽しみ方もできるのが良さです。劇場のどこへでも、自由に目線を向けることができますし、2度目の観劇には『あの時、あそこで何をしていたんだろう』と違う見方もできます。僕らの調子も毎日違うので、面白い時もあれば、少し声が枯れていたり、噛んだりするときもあります。僕が笑いを取りにいったところで笑ってくれない、なんてこともよくありますが、そんな時は『他のところで笑ってくれへんやろか?』と思って早口になっています(笑)。いつも気が抜けないですね」

――では、三郎という役について、濵田さんご自身と比べて思うことはありますか?

「意外と僕と三郎って、似ていないと思います。三郎は真っ直ぐな奴なんだけど、どんくさくて運も悪くて痛い目にもあう。『正直者がバカを見る』を体現したような……。今の時代から見たらかなり変わった人です。でもそのピュアなところが、この役をまた演じやってみたいなと思わせてくれます」

――似ていないからこそ、魅力的に演じてみたくなると。

「『三郎のような綺麗な心でいたいな』って、僕自身の心をリセットしてくれますさせられます。あと、コメディーなんですが真面目にお芝居をしないと、と思っています。そして河原さんの演出であることが重要です。同じ事務所の室龍太も以前、河原さんが演出された舞台『オリエント急行殺人事件』(2019年、20年)に出ていたのですが、その後に会った時『河原さんの舞台に出るまで、ホンマにアマチュアやったな』と2人で共感しました」

――それだけ自身を成長させてくれた『市場三郎』。最後に今作のみどころをお聞きします。

「実は、舞台では音をわざと外すこともあります。皆さんプロですが、あえて素人のように歌ってみせる場面があるんですね。そんなところも含めて面白い仕掛けが盛りだくさんです。旅先で騒動が起こっていく、ただそれだけの簡単な話なので(笑)、ぜひ楽しんでください。そして三郎の生き様に何か心動かされる瞬間があったら、皆さんがその時感じたものを大切にしてください。舞台の上で僕らが必死になっている様を、いい椅子で『どれどれ』と見ていられるぜいたくな時間をお届けします」

 東京公演は東京グローブ座で6月30日~7月27日まで上演。その後、京都公演を京都劇場で8月1日~10日まで行う。

□濵田崇裕(はまだ・たかひろ) 1988年12月19日生まれ。兵庫県出身。7人組グループ・WEST.のメンバー。2014年に『ええじゃないか』でCDデビュー。俳優としても活動し、ドラマや舞台に出演。16年『歌喜劇/市場三郎~温泉宿の恋』で舞台初主演を飾った。18年には日本テレビ系『卒業バカメンタリー』で藤井流星とダブル主演を務め連続ドラマ初主演。21年に日本テレビ系『武士スタント逢坂くん!』で連ドラ単独初主演を果たした。舞台では22年『盗聴』で主演、24年『プロデューサーズ』で神山智洋とダブル主演を務めた。177センチ。

ヘアメイク:三田彩聖
スタイリスト:村田友哉(SMB International.)

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