朝ドラ『あんぱん』は「僕の集大成」 土佐ことば指導者、今田美桜を絶賛「評価するなら100点満点」

俳優の今田美桜が主人公・のぶを、北村匠海が柳井嵩を演じるNHK連続テレビ小説『あんぱん』(月~土曜午前8時)で、土佐ことばを指導する西村雄正氏が取材に応じ、舞台裏を明かした。のぶの実家は高知県内にあり作品の主な舞台となっている。西村氏は2023年度前期朝ドラ『らんまん』も担当していた。

竹野内豊(左)と話す西村雄正氏【写真:(C)NHK】
竹野内豊(左)と話す西村雄正氏【写真:(C)NHK】

土佐弁指導の西村雄正氏が明かす舞台裏…“演技風”音声データ+ゆっくり話す声も

 俳優の今田美桜が主人公・のぶを、北村匠海が柳井嵩を演じるNHK連続テレビ小説『あんぱん』(月~土曜午前8時)で、土佐ことばを指導する西村雄正氏が取材に応じ、舞台裏を明かした。のぶの実家は高知県内にあり作品の主な舞台となっている。西村氏は2023年度前期朝ドラ『らんまん』も担当していた。

 まず作品に土佐弁が盛り込まれる流れを紹介してもらった。

「標準語の台本を頂き、土佐弁にした方がいい言葉を選んで変換しますが、脚本家・中園ミホさんからくる台本には標準語だけでなく土佐弁っぽい雰囲気の言葉もあるんです。中園さんの土佐弁のイメージを感じる言葉。それも台本に生かします。気を付けているのは、ただ翻訳みたいにしてしまうと視聴者が理解できず字幕が必要になります。そこで芝居の中のニュアンスで意味が分かることを大前提にしています。次に土佐弁を使うことでより良くなると思う部分、ニュアンスで意味が分かる部分には面白い土佐弁を入れるようにしています。あらためて言うと、ニュアンスで全国の視聴者に通じることを大事にしています。あとは響く音がきれいであることも大切にしています」

 主人公・のぶを演じる今田の土佐弁をどう評価しているのだろう。

「音は地元の方が日常的に話す音と全く変わらないです。評価するなら100点満点です。俳優は方言で苦しみ始めると嫌になりがちですが、今田さんが素晴らしいのは、元気で明るく、のぶのキャラのように取り組んでいること」

 ここであらためて土佐ことば指導の仕事の詳細を聞いてみた。

「台本を方言を入れた形に直します。次に方言テープ(音声データ)を作り、キャストに渡して聞いてもらいます。その後、キャストとレッスンをします。それ以外にも現場で台本にないセリフを付け加えたりすることがあるので、そのセリフについて同じ作業をします。エキストラの方のセリフも土佐弁に直し、テープにとってエキストラに渡すといった作業になります。最初に仕事の依頼を受けて行ったのは土佐弁のキャッチーな言葉一覧を作って制作サイドに渡したこと。『たまるか』とか、元気なのぶが言いそうな言葉を選んで40ぐらい送りました。その中で選ばれたのは『すごい』という意味の『たまるか』です。中園さんがおさまりのいい言葉と考え、選んでくれたと思います」

『らんまん』の言葉との違いはあるのか。

「『らんまん』ではできなかったことを今回は反映したいという燃える魂で臨みました。『らんまん』は幕末から描かれましたので、坂本龍馬らが話しているような昔の言葉が多くなっています。『あんぱん』は今使われている言葉を全部入れ込んでいます。高知ではそのまま使用されています。高知に行っているような疑似体験ができると思います」

『らんまん』でできなかったという言葉が気になる。

「できなかったと言うより、もっと方言を入れたかったという思いです。登場人物が少なかった『らんまん』に比べ、今回は庶民が大勢登場することで、いろんな言葉を使わせてもらえました。多くの土佐弁が登場するのが『らんまん』との差。中園さんに直されたことも1回もなくビックリです」

土佐弁に「ぜよ」のイメージ強いも「乱打戦はありえません」

 俳優を大いに助けた西村氏の秘策もあった。

「方言の音声テープですが、一つは感情の入った演技風の土佐弁のセリフの声を、次に、ゆっくり話す声も入れて渡すことを全員分やりました。それで上達が早くなったと思います。竹野内豊さんも芝居の速いテンポでは分からないことがゆっくりだと分かるし、これができれば芝居もできるとして『お守りのように助かった』と言ってくださいました。“ゆっくり”は保険になったと思います。テープに入れる声は、子役は高い声、釜次は低い声でと、その人物に合わせ、演じるように感情を込めて入れています」

 土佐弁の特徴も聞いてみた。

「ネズミと猫、サルのような、『ちゅう』『にゃー』『きー』と言うのが多いです。何とかしちゅう。何とかやにゃー、何とかやきーという音、言い回しは土佐弁の特徴だと思います。土佐弁は『ぜよ』という男っぽい言葉の印象が強いですが、本当はキャッチーでかわいく、音がきれいだと知ってほしくて……。それを『らんまん』で達成でき、『あんぱん』でもっと、と思いました。『ぜよ』については『ぜよ』の乱打戦はありえません。僕はシーンを良くするために効果的に使うものだと思っています」

 西村氏は俳優でもある。演じる側の仕事のやりやすさを理解している。『あんぱん』の土佐ことば指導に「僕の集大成です」と笑顔を見せた。まさに縁の下の力持ちといった存在だ。今後は今まで以上に土佐弁を気にしながら『あんぱん』を見たくなった。

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