サザン新作アルバム、約30年来のファン号泣のワケ 時空超えたアマチュア時代の“新曲”に感慨【記者コラム】
「音楽って、やっぱり気軽に楽しめるもんなんだよな」――。サザンオールスターズの新作アルバム『THANK YOU SO MUCH』を聴いて、改めてこう感じた。洋楽ロック・ポップス・歌謡曲・前衛的作品、社会派ソング……。“音楽怪獣”のサザンらしく、14曲が詰め込まれた本作も、幕の内弁当のような仕上がり。鮮やかで軽やかなサウンドに包まれた16枚目のアルバムは、これまで以上に、いい意味で“耳なじみがいい”。そして何より、歴代最高峰と言えるほど、極上メロディーの曲がそろっている。メロディーメーカーとしての桑田佳祐の才能が、あふれてこぼれ落ちている。大衆音楽のサザン、「ここに極まれり」だ。

ギタリスト・桑田佳祐の魅力全開…真骨頂のスライドギター
「音楽って、やっぱり気軽に楽しめるもんなんだよな」――。サザンオールスターズの新作アルバム『THANK YOU SO MUCH』を聴いて、改めてこう感じた。洋楽ロック・ポップス・歌謡曲・前衛的作品、社会派ソング……。“音楽怪獣”のサザンらしく、14曲が詰め込まれた本作も、幕の内弁当のような仕上がり。鮮やかで軽やかなサウンドに包まれた16枚目のアルバムは、これまで以上に、いい意味で“耳なじみがいい”。そして何より、歴代最高峰と言えるほど、極上メロディーの曲がそろっている。メロディーメーカーとしての桑田佳祐の才能が、あふれてこぼれ落ちている。大衆音楽のサザン、「ここに極まれり」だ。(文=吉原知也)
現代的なEDMを取り入れた1曲目『恋のブギウギナイト』から、“マンネリ打破”の音楽的挑戦心を感じる。ベテランスタッフが事前に用意した複数のリズムのサンプリング音源を桑田が選び、曲を膨らませていった。今までほとんどやってこなかった曲作りの手法だという。被災地に思いをはせ、未来への希望を優しく奏でる名曲『桜、ひらり』や、最高のメロディーラインで昭和歌謡の先人へのリスペクトにあふれる『神様からの贈り物』など、語る要素は尽きない。
ふと思ったことがある。『恋の~』では「あの時代(とき)は天国だった」と昔を振り返り、『神様からの~』は歌い出しから「ニッポンの夜明けは暗い でも先人は凄い」と追憶する。最新のテクノロジーや音楽性を盛り込み、前に進むことを表現している本作アルバムだが、懐古趣味が垣間見えるのが興味深い。新しい時代を受け入れていきながらも、たまには過去の郷愁に浸りたい。そんな人間らしさがにじんでいる。
肩肘張らないアルバム全体の雰囲気。「地元感」もその理由の1つだと思った。桑田のふるさとである神奈川・茅ヶ崎や湘南の歌詞が出てくる楽曲が、3曲もある。日本のお盆と夏祭りのイメージが怪しく入り乱れる『盆ギリ恋歌』、茅ヶ崎への愛がにじむ『歌えニッポンの空』、逗子・鎌倉・江ノ島方面をドライブしているような気分になれる、キーボード・原 由子が歌う『風のタイムマシンにのって』。みんなの共通項の“サザンらしさ”が素直に出ているところがうれしい。
待ってました、英国ロックへのオマージュ満載の『夢の宇宙旅行』。洋楽ロックがサザンの出発点であり、ノリノリのサウンドはお手の物。アメリカンなロックンロールが下地になっており、最高に気持ちいい。特にベースラインが、ハイポジションをガンガン攻めており、まさに宇宙空間を縦横無尽に飛び回るようなプレイは特筆するべきものがある。
筆者は小学校高学年の頃から約30年来のサザンファン。洋楽ロック好きで多少ギターとウクレレをたしなみながら、「サザン=自分の人生」と情熱を傾けてきた。自分のように「バンドの音」に憧れ、追い続けているファンにとっては、やっぱり『悲しみはブギの彼方に』と『ミツコとカンジ』の2曲だ。メドレー形式の組み合わせを、最大のポイントとして推したい。
『悲しみは~』は、1978年のサザンデビュー前のアマチュア時代の楽曲だ。なんと、50年近く前に作られた曲を、時を超えて、今のサザンで“新曲”としてレコーディングしたのだ。ファンにとってとんでもないサプライズ。桑田のラジオ番組『桑田佳祐のやさしい夜遊び』(TOKYO FM)で初めてオンエアされた時、号泣した。
当時青山学院大の大学生だった桑田や原らが演奏していたが、なぜかデビューアルバム『熱い胸さわぎ』には収録されなかった。本作アルバムの特典解説ブックによると、ベース・関口和之は「桑田佳祐の才能に圧倒された、個人的にも思い入れの深い曲」と明かしている。過去の自身の著作でも名曲だと記している。時空を超えて演奏することになったメンバーの喜びや充実感は、本当に感慨深いものがあったと察する。パーカッション・野沢“毛ガニ”秀行のコンガは、深く優しい鳴り。まさしくサザンの音を体現している。
こちらも全員集合で「せーの」で録音した『ミツコとカンジ』。レイドバックしたサザン・ロックが心地よく、5人の息づかいが聞こえてきそうな名演奏だ。特典解説ブックで、ドラムのリズムに悩んでいた松田弘が、ベースの関口からアドバイスをもらい、ばっちり決まったという秘話がつづられており、それを読んだ時も泣いた。

「常に新曲を作り続け、新しい音楽に挑戦してきたのが、サザン」
長くなってしまったのだが、最後にギター小僧として、どうしても伝えたいのが、本作におけるギタリストとしての桑田の一面だ。桑田の真骨頂であるスライドギター奏法(桑田は金属製のスライドバーを使うことが多い)が、とにかくすごい。
聴いた瞬間に70年代に席巻した米国バンド、リトル・フィートが思い浮かぶ『悲しみは~』。最後のサビあたりから空から舞い降りたように鳴る『ミツコとカンジ』。これでもかというタメのビブラートがしびれる『ジャンヌ・ダルクによろしく』。桑田の渋くて超絶かっこいいスライドプレイ、魂の震えを感じる。これだけスライドギターが響き渡るのは、サザン史上でも初めてではないか。それほど、桑田が楽しんでアルバム制作に臨めたのだろう、きっと。
仕事に追われて音楽に触れる余裕もない。SNSを開くと、怒りや悪口など見たくもないものが目に入ってくる。そんなうんざりする時は、レコードを、CDを、配信を聴けば、自分だけのちょっぴり幸せな時間を過ごすことができる。このアルバムは、そんな自分時間にぴったりだ。気軽に聴きながら、音楽に夢中にさせてくれる。
全面に出された「ありがとう」の思い。全国ライブツアーの名称も『THANK YOU SO MUCH』だ。正面切った表現に、ファンの間では“これで最後なのかも”という一抹の不安がよぎっている部分はある。でも、常に新曲を作り続け、新しい音楽に挑戦してきたのが、サザンオールスターズだ。3年後は金字塔の「50周年」を迎える。サザンの未来もほんのり香る、このアルバムを何度も何度も聴いていきたい。
サザンオールスターズ『THANK YOU SO MUCH』
1 :恋のブギウギナイト
2 :ジャンヌ・ダルクによろしく
3 :桜、ひらり
4 :暮れゆく街のふたり
5 :盆ギリ恋歌
6 :ごめんね母さん
7 :風のタイムマシンにのって
8 :史上最恐のモンスター
9 :夢の宇宙旅行
10:歌えニッポンの空
11:悲しみはブギの彼方に
12:ミツコとカンジ
13:神様からの贈り物
14:Relay~杜の詩
