「斎藤元彦知事の判断は間違い」西脇弁護士が見解 立花孝志氏への情報漏洩者と週刊文春の取材源を“一緒くた”刑事告訴
斎藤元彦兵庫県知事をめぐる問題を告発した元県民局長の私的情報とされる内容が、昨年11月、立花孝志氏のSNSなどを通じネット上に漏えいした問題で、県の第三者調査委員会(以下、第三者委)は今月13日報告書を公表、漏えいしたのは県の内部情報と認定した。だが、その調査対象には立花氏の発信だけでなく週刊文春の記事の情報源が含まれ、さらに県は立花氏への情報漏えい者だけでなく週刊文春の取材源も刑事告発する事態になった。この「一緒くた」の告発に対し、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は大きな問題があると指摘した。

問題点を指摘「民主主義の土台を揺るがし始めている」
斎藤元彦兵庫県知事をめぐる問題を告発した元県民局長の私的情報とされる内容が、昨年11月、立花孝志氏のSNSなどを通じネット上に漏えいした問題で、県の第三者調査委員会(以下、第三者委)は今月13日報告書を公表、漏えいしたのは県の内部情報と認定した。だが、その調査対象には立花氏の発信だけでなく週刊文春の記事の情報源が含まれ、さらに県は立花氏への情報漏えい者だけでなく週刊文春の取材源も刑事告発する事態になった。この「一緒くた」の告発に対し、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は大きな問題があると指摘した。
結論から言う。これは間違いだ。
斎藤知事が兵庫県知事に再選された後の昨年11月29日、立花氏がYouTubeに「県民局長の公用パソコンの中身を一部公表します」などと題した動画を公開したのを皮切りに複数のSNSで元県民局長の「私的文書」とされる画像が拡散された。しかし、斎藤知事はこれらに削除請求することを拒否。拡散画像が本当に県の情報かどうかの確認から始めるとし、弁護士による第三者委を設置した。
それから約半年。ようやく第三者委が「県情報の漏えい」を認定する報告書を出したが、その調査は奇妙な展開となっていた。調査対象にいつの間にか、元県民局長の私的文書の漏えいだけでなく、斎藤知事を批判する週刊文春記事への「情報提供者探し」が加えられていたのだ。なぜかこの2つの調査が抱き合わせで進められ、第三者委がどちら対しても県の情報が渡ったと認定すると、斎藤知事下の兵庫県はさらに驚くべき行動に出た。
立花氏らへの情報漏えい者だけでなく、週刊文春の取材源も一緒に、地方公務員法の守秘義務違反の疑いで被疑者不詳のまま刑事告発したのだ。これに対して「取材の自由の侵害だ」という指摘が知事会見でなされたが、斎藤知事は「県の立場としては、地方公務員の守秘義務の観点から調査をすることは必要だ」とはねつけた。「相手が立花氏でも週刊文春でも、県からすれば同じ情報漏えいだ。だから、どちらも『守秘義務違反』で犯罪だ」というのが斎藤知事の主張のようだ。
だが、ここで立花氏と週刊文春を同列に扱っていいのか。答えは「NO」だと私は考える。その根拠は「裁判例」だ。
1974年1月、公務員の守秘義務について大きな議論を呼んだ事件の判決が東京地裁で出された。外務省の事務官から入手した情報を毎日新聞が報じたいわゆる「沖縄密約事件」だ。この裁判では守秘義務違反になる「秘密」とは何かが議論となり、判決は役所内部の情報なら何でも「秘密」になるわけではないと判断した。その理由を判決はこう述べている。
「わが国のような民主主義国家においては、公務は原則として国民による不断の監視と公共的討論の場での、批判又は支持とを受けつつ行われる」
「秘密の漏えい」と「正当な情報提供」の違い
公務に関する情報は、本来は国民が監視し議論すべきもの。だから守秘義務違反になるのは、刑罰を使ってでも守るべき「実質的な秘密」が漏れた場合に限られるというこの判決の考え方は、その後に最高裁でも踏襲されている。そして、判決は漏えいを罰すべき「実質的な秘密」の例として、外交交渉の情報などと並んで次のような情報を挙げた。
「およそ公共的討論や国民的監視になじまない場合(例えば、プライバシーに関する事項)」
これを週刊文春と立花氏に当てはめるとどうなるか。
問題となった週刊文春の記事は「告発職員への『事情聴取音声』独自入手!“抗議の自死”の3カ月前に強い口調で詰問」、「兵庫県知事・斎藤元彦(46)の自死局長カ゛サ入れ指示書をスッハ゜抜く!」など。斎藤知事側近らによる告発者の調査が適正だったかを問うために、音声や調査手順書などを入手して報じた。これは国民が監視すべき「行政の動き」に関する情報であり、これを報道のために渡すことは「秘密」の漏えいではなく「正当な情報提供」になるはずだ。
一方で立花氏のYouTube動画は「もう実名でいきましょう」と元県民局長の実名を明かしつつその文書を公開。同年12月1日のXでは元県民局長PC内にあったと思われる女性の顔写真も公表していた。
しかし、元県民局長の文書は県当局に「私的文書」と判断され、勤務時間中にこれを作成したことについて既に人事処分がなされている。その「処分済みの私的文書」を立花氏らのもとに持ち込むことは「プライバシーに関する事項」という「秘密」の漏えいそのものではないか。
週刊文春と立花氏らとでは、その発信内容や持ち込まれた情報の性格が違う。それを無視して「行政の動きの検証」と「私的文書の漏えい」を一緒にして刑事告発することは、どさくさに紛れて国民による行政の「監視」を封じることにつながる。週刊文春への情報提供は、刑罰を使ってでも守るべき「実質的な秘密」の漏えいとはいえず、これを立花氏らへの情報漏えいと同じように扱って刑事告発するのは「間違い」というのが私の結論だ。
斎藤知事を巡る問題は時間とともに沈静化するどころか、深刻化の一途をたどり、我が国の民主主義の土台を揺るがし始めている。だからこそ、この問題から目を逸らしたり諦めたりしてはならないと強く感じている。
□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ) 1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。
