記者会見への布石か…中居正広氏「性暴力はない」の狙いと「守秘義務にこだわらず」の不公平
元タレントの中居正広氏が今月12日、フジテレビ問題の第三者委員会(以下、第三者委)に対し、新弁護団を通じて反論を開始した。中居氏側は「性暴力」認定を批判し、自分の回答が報告書に反映されなかったとも訴えたが、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士はそこに「守秘義務のワナ」があると指摘した。

元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士が指摘
元タレントの中居正広氏が今月12日、フジテレビ問題の第三者委員会(以下、第三者委)に対し、新弁護団を通じて反論を開始した。中居氏側は「性暴力」認定を批判し、自分の回答が報告書に反映されなかったとも訴えたが、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士はそこに「守秘義務のワナ」があると指摘した。
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「本調査報告書には、守秘義務にこだわらずに約6時間にわたり誠実に回答した中居氏の発言がほとんど反映されていません」
中居氏が今回の反論でこう述べたことを受けて、一部では第三者委が中居氏の言い分を「黙殺」したと批判する声も出ているようだ。しかし、この一文には、実はある重大な言葉が含まれている。
「守秘義務にこだわらず」
この言葉を見ると素朴な疑問が湧く。なぜ、中居氏だけ「守秘義務にこだわらず」と第三者委に回答しているのか。
第三者委の報告書によれば問題となった事案の中身について、元アナウンサーの女性は守秘義務の解除に応じたが中居氏は応じず、結局、2人の守秘義務は残ったままだったはずだ。中居氏の反論文でも「当初は」守秘義務の解除を提案したと弁解しているものの「最終的には」中居氏が解除に応じなかったことは否定されていない。
その中で中居氏だけが「守秘義務にこだわらず」にしゃべるとは一体どういう意味なのかを考えると、実は大変なことが行われていた可能性に思い当たる。カギを握るのは「守秘義務の解除とは何か」という点だ。
守秘義務の解除とは、当事者の一方が相手方の守秘義務をなくしてあげることだ。中居氏が女性の守秘義務を解除すれば、女性は自由にしゃべれるようになるし、女性が中居氏の守秘義務を解けば、中居氏の発言は自由になる。だが今回、中居氏は女性の守秘義務を解除しなかったので、女性は事案についてしゃべることができない。しゃべったら多額の違約金を中居氏から請求されかねないからだ。
それにもかかわらず、中居氏の方は自分だけが「守秘義務にこだわらず」約6時間に渡って第三者委に回答したというのだ。中居氏がなぜ、「守秘義務にこだわらず」にいられたのか反論文には説明がない。中居氏は「違約金を払っても構わない」と決心していたのかどうか真相は分からない。だが、いずれにしても中居氏だけ「回答」しても女性は反論できない。第三者委が女性に事実確認することもできない。なぜなら、女性は守秘義務を負ったままだからだ。
そして、女性が反論できない状態で中居氏だけが事案について回答したのなら、その内容が第三者委の報告書に反映されないのは当然だろう。もし、反映したら中居氏の一方的な主張だけが報告書に載り「不公平」だからだ。中居氏一人が熱弁をふるった内容を第三者委が報告書に反映しなかったことは、調査をフェアなものにするための対応に思える。これを「第三者委の偏り」のように批判するのは不合理なのではないか。
だが、中居氏側はここにきて突然こうした反論を開始した。その狙いは一体何か。
世論の風向きを変える「イメージ戦略」という面もあるだろうが、私はこの文書にはもう一つの目的があるように感じる。それは中居氏が記者会見などを行い、自分で事案を説明するための「布石」だ。
今回、中居氏側は第三者委に対し、2週間以内に調査について説明することなどを要求した。だが、第三者委に応じる義務はなく要求はおそらく無視される。では、中居氏の次の一手は何か。
「第三者委に説明を求めたが応じてもらえなかった。そこで本意ではないが、私自身が真相を明かす」

言い分を公表する際に求められること
第三者委に要望を拒否されたことを理由に、記者会見やプレスリリースなどの方法で中居氏自らが言い分を公表する。守秘義務違反で賠償金が発生したとしても中居氏の財産から払う。そうした一手に出る前に「第三者委にも最後のチャンスは与えた」と言えるよう今回の文書を出したという可能性もあるのではないか。
だが、仮にそうした戦略を取るのであれば、前提として中居氏が絶対に行われなければならないことがあると思う。それは「女性の守秘義務を解除すること」だ。
そうしないと女性は今まで通り、多額の賠償金を払わない限りは中居氏に反論することも真相を述べることもできない。中居氏は守秘義務を一方的に破って違約金が発生してもその財力から惜しくないかもしれないが、女性はそうではないだろう。仮に中居氏が女性に守秘義務を負わせ、自分だけが違約金を払って発信するという事態になったら、財力を持つ者だけが物を言い、持たざる者は封殺されることになる。そんなアンフェアな状態で語られた言葉では信用することはできない。
6月末のフジメディアホールディングス株主総会を前に、今後もフジテレビ問題を巡ってさまざまな動きがあるかもしれない。ただ、どのような展開になるにしても、守られるべきプライバシーとフェアに物を言える環境は、決して侵されてはならないと思う。
□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ) 1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。
