体重差30kg超…RIZINの皇治―カリミアン戦に青木真也が怒るワケ「もう倫理観とか全部なくなってる」【青木が斬る】

2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(41)。複数の書籍も出版し、文筆家としての顔も持つ。また自ら「note」でも発信をし続け、青木の“考え方”へのファンも多い。ENCOUNTではそんな青木が格闘技の枠に捉われず、さまざまなトピックスについて持論を語る連載「青木が斬る」を2024年5月からスタートした。今回は特別企画として5月4日に開催される格闘技イベント「RIZIN男祭り」について話を聞いた。

「“俺たち”はもう一線を引かなきゃ」と青木真也は語った【写真:山口比佐夫】
「“俺たち”はもう一線を引かなきゃ」と青木真也は語った【写真:山口比佐夫】

連載「青木が斬る」vol.8

 2003年のプロデビュー以来、日本総合格闘技界のトップを走り続けてきた青木真也(41)。複数の書籍も出版し、文筆家としての顔も持つ。また自ら「note」でも発信をし続け、青木の“考え方”へのファンも多い。ENCOUNTではそんな青木が格闘技の枠に捉われず、さまざまなトピックスについて持論を語る連載「青木が斬る」を2024年5月からスタートした。今回は特別企画として5月4日に開催される格闘技イベント「RIZIN男祭り」について話を聞いた。(取材・文=島田将斗)

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「もう倫理観とか全部なくなってますよね」

「RIZIN男祭り」の第9試合で普通では考えられないカードが組まれた。皇治とシナ・カリミアンのRIZINスタンディングバウト特別ルールマッチだ。2人の体重差は30キロ~40キロ。皇治は8オンス、カリミアンが12オンスのグローブを着用するいわゆるグローブハンデがある状態だが、通常の試合よりも危険が伴うことには変わりない。

 同試合は今年3月に高級外車による当て逃げの疑いで書類送検された皇治の“禊マッチ”という伝えられ方をしている。不思議なことに危険性を訴える声はファンからもメディアからも少ないのが現状だ。

 皇治のMMA戦でセコンドに入る関係性の青木は「一線を引かないと」と心境を明かした。

「なんですかね。ちょうど皇治とこの間、しゃべったときは『ボクシングマッチだし相手の技量的に大丈夫だ』って言うんだけどそういう話じゃなくて、何か起こったときに取り返しがつかないことが問題ですよね」

 さらにこう続けた。

「事故が起きる可能性は低いと思う。『何そんなことで騒いでるんだよ』っていうのが大半だと思う。俺が一番嫌だなと思うのは、安全面を軽視したリスクを俺たちが払わされてること。皇治と主催者以外の人たちが何か起こった時にリスクを払わされるのはすごい腹立つ。

 ボクシングでリング禍が起きたときに体重もそろえています、ルールも厳重です。ドクターもいます。事前事後のチェックもしっかりしています、というところから申し訳があるわけじゃないですか。事故という言い訳がきくというか、それがないのがきついですよね。申し訳が立ってないじゃんっていうのがすごい嫌。それをあたかも当然にやるのがすごい嫌だなって思う」

 この試合のカード発表会見は皇治が当て逃げについて謝罪した冒頭を除いて、終始和やかな雰囲気で進んでいった。「皇治のペースですよね。それも含めて“俺たち”はもう一線を引かなきゃなって思いましたね」と不快感もあったようだった。

「自分のやってるものじゃないですよね。要するに利益のことしか考えていない。自分の利益を行き過ぎましたよね。分かりやすく言うと短期の利益を当てにしちゃって中長期の利益が見えなくなっているんですよ」

 打ち上げ花火的に話題にはなるが、マイナスなマッチメイクだと指摘する。そして問題が起きたときには本来関係のない選手までが「格闘技界」というくくりで一緒くたに見られる。だからこそ青木は自分事として声を上げる。

「俺はちゃんと自分のやってることに無駄なリスクを払わされるのは嫌だから『これはおかしいでしょ』『何やってんだよ』って皇治にも言うしメディアにも言う。でも、多くの格闘技選手、関係者、メディアも気が付いていないくらいバカなのか、分かっていても自分の利益を考えて言わないのか分からないけど」

 作り手はどうあるべきなのか。「作ったこともないし作る気もないから実の部分では言えない」と言いつつも「究極的には自分が何を見せたいのか、何を表現したいのかっていうところに尽きる気がする」とうなずく。

 そして「いつからか利益を取ったり現実を見ることに必死になってしまって、本来やるべきことをやらなくなっているのが痛いなと」と憂いていた。

中谷優我の参戦に複雑「“青木推薦”って言われるのがストレス」

 もうひとつモヤモヤとするマッチメイクがあった。オープニングファイトで佐々木大と対戦することになった中谷優我の参戦だ。

 中谷と青木は昨年放送されたABEMAのドキュメンタリー番組『格闘代理戦争-THE MAX-』で推薦選手と監督という関係性。初回放送から「格闘技に向いていない」と一刀両断しながらも泣き虫で不器用な中谷に責任を持って向き合いともにトーナメントを戦ってきた。

“青木イズム”を中谷に注入し、ときに振り回しながらも人間としての成長をうながした。それでも最後は「やっぱり格闘技に向いていない」と告げ、見切りをつける大切さを放送で訴えた。

 当時、現役大学生だった中谷自身も何か踏ん切りが付いたようだったが、放送後もプロ練習に参加していたという。それでも青木にとって、RIZIN参戦はまさかだった。

「俺の筋から言えばプロじゃないんだからプロ練習に来るんじゃねぇって思うわけですよ。でもちょろちょろしてるわけです。プロなのかヨカタ(アマチュア)なのかあいまいな業種ではあるんですけど、あいまいがゆえにちょろちょろしてた。試合をする気もない雰囲気だったし……。そのなかでこういう形(RIZIN参戦)になって、俺が作ってきたものはなんだったんだって。“青木真也推薦”って世間に言われるのが一番ストレスですよね。すごい嫌ですね」

 当時、中谷を突き放してきた理由について「現実を直視せずに夢見て、問題を先送りにして解決せずにやっていくと取り返しがつかなくなると思う」と語っていた青木。放送を通して本人にも世間にも伝えたはずだった。

「俺のなかでひとついい作品だと思っていたのでもうやる意味ねぇなて思っちゃった。関わりたくないですよね。でも、別に彼だけの話ではなくてすべてに対してもそうです。自分が作ったものが、そのあとどう加工されるかっていうのは、それを手に取った人のものになるので、できる限り人となにかやりたくないですよね」

「『頑張れ』っていう気もしないです。ケガだけしないように」。あのころの熱量はすでにそこにはなかった。

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 祭りと言えど体重差30キロ以上の打撃戦を「けじめ」で済ませていいのか。ファイターが戦う前からケガの心配をして……という意見があるかもしれない。しかし、事故が起きたら、万が一、それ以上の事態になったら、というリスクを常に抱えているからこそエンタメで消費できない部分もある。興行では利益を求めることも必要不可欠な要素だが、それでも日本で一番注目されている団体が組むべきカードだったのかは疑問符がつく。そして、この試合を受け入れてしまった見る側も共犯関係にあることを忘れてはいけない。

□青木真也(あおき・しんや)1983年5月9日、静岡県生まれ。第8代修斗世界ミドル級王者、第2代DREAMライト級王者、第2代、6代ONEライト級王者。小学生時に柔道を始め、2002年には全日本ジュニア強化指定選手に。早稲田大在学中に総合格闘家に転向し03年にはDEEPでプロデビューした。その後は修斗、PRIDE、DREAMで活躍し、12年から現在までONEチャンピオンシップを主戦場にしている。これまでのMMA戦績は59戦48勝11敗。14年にはプロレスラーデビューもしている。文筆家としても活動しており『人間白帯 青木真也が嫌われる理由』(幻冬舎)、『空気を読んではいけない』(幻冬舎)など多数出版。メディアプラットフォーム「note」も好評で約5万人のフォロワーを抱えている。

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