「妻がご機嫌ならそれでいい」 マキタスポーツが語る二拠点生活と『家族に乾杯』の衝撃
芸人、俳優、文筆家、ミュージシャン――ジャンルを横断して活躍を続けるマキタスポーツだが、その軸は、あくまで「芸人」にあると語る。新刊『グルメ外道』(新潮新書)では、食を切り口に自らの人生と記憶を描き出した。マキタスポーツが二拠点生活、ターニングポイントとなったテレビ出演、文章への執着を明かす。

食にまつわる異色のエッセー『グルメ外道』を刊行
芸人、俳優、文筆家、ミュージシャン――ジャンルを横断して活躍を続けるマキタスポーツだが、その軸は、あくまで「芸人」にあると語る。新刊『グルメ外道』(新潮新書)では、食を切り口に自らの人生と記憶を描き出した。マキタスポーツが二拠点生活、ターニングポイントとなったテレビ出演、文章への執着を明かす。(取材・文=平辻哲也)
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マキタスポーツは、東京と山梨の山間部を行き来する生活を2年近く続けている。4人の子どもがいるが、マキタは成人した長女、大学生の次女と、妻は10歳になる双子の長男・次男と暮らしている。二拠点生活を始めたのは、たまたま家族で訪れた山間の村を妻が「ここ最高じゃない?」と気に入ったことがきっかけだった。
「結論から言うと、妻がご機嫌であるのがいちばんいいんですよ(笑)」
笑ってそう語るマキタの二拠点生活は、妻と子どもたちの暮らしのためにスタートしたものだった。自然に囲まれた山梨の村で、双子の息子たちと過ごす妻が本当に楽しそうで、それがすべての原動力になっている。
「自分は別に自然が好きってわけでもないし、実は田舎の生活ってそんなに“自然”でもないんですよ。Wi-Fiもあるし、車もある。コンビニは遠いけど、それも前提として受け入れれば、どうってことない。実は田舎って思ったほど不便じゃないんですよ。でも子どもはやっぱり『都会がいい』と言いますね(笑)」
都市のサブカルチャー的な空気――例えば“ポレポレ東中野”のような単館系映画館は当然ないが、その分、山梨で得られる静けさや風景が、自分をリセットしてくれるのだという。
「どちらも必要なんですよ。両方を行き来することが、自分にとっての呼吸みたいになっている」
そんな山梨暮らしが、2025年2月、全国ネットで“バズる”ことになった。NHKの人気番組『鶴瓶の家族に乾杯』で、笑福亭鶴瓶とゲストのイモトアヤコがマキタの暮らす村を訪れ、思わぬ展開が起こったのだ。
「妻が村の食堂から帰ってくる途中で、野生の鶴瓶に襲われた(笑)。いや、遭遇して懐かれたんです。で、そのまま家にまでついてきて、こたつに入って話し込んでいった」
彼女がマキタスポーツの妻だとその場で伝えなかった。後から他の住民が「あの人、マキタスポーツの奥さんだよ」と伝え、鶴瓶が驚くというドラマのような展開になった。
「追加で僕が登場することになって、それを編集で繋いだから、『台本あるだろこれ!?』っていう仕上がりになって(笑)。でも、ほんと偶然の産物なんですよ」
今や俳優としての活躍も目立つマキタだが、大きな分岐点となったのが2012年のTBS系『中居正広の金曜日のスマイルたちへ』出演だという。
俳優業は「やらせてもらっている感覚が強い」
「“芸人”という肩書きを外して、“音楽研究家的”な立場でネタをやってくれって言われたんです。最初は抵抗ありましたけど、“金スマ”っていうニンジンをぶら下げられたら、そりゃ走るしかないじゃないですか(笑)」
披露したのは、ヒット曲に登場する“あるワード”をすべて詰め込んだ曲の分析ネタ。「翼」「扉」「桜」「奇跡」というキーワードを入れて自作した楽曲『十年目のプロポーズ』は、実際に着メロランキングで上位にランクイン。社会実験さながらの反響を呼んだ。
「斉藤和義とかきゃりーぱみゅぱみゅの間に“マキタスポーツ”が入ってて、『うわ、信じられない!』って思いました」
この出演をきっかけに、テレビの世界に一気に広がりが生まれた。
「『笑っていいとも!』とか『やりすぎコージー』とか、深夜帯からゴールデンタイムまで、いろんな番組に出るようになったんです。あとは、嵐の櫻井(翔)くんが読売新聞で『マキタスポーツがいい』と書いてくれたりもして、そのあたりから一気に出て行った感じがあります」
さらに映画『苦役列車』で2013年にブルーリボン賞新人賞を受賞する。
「映画で賞を取ったのはうれしいですよ。でも“ドラが乗った”みたいな感覚。あくまで自分は芸人なんです。いまだに全然お金にはならないけど、新ネタのライブはずっとやってるし、あれが自分にとって一番大事なことなんです」
俳優業についても、「呼ばれて、やらせてもらっている感覚が強い」と語る。自分から“俳優になろう”と思って取り組んだわけではない。その距離感は、同じように“外部”から俳優として呼ばれたリリー・フランキーやピエール瀧らと重なる。
「商品としてのおじさん、みたいなことですよ(笑)。でっかくて豪快な瀧さん、繊細で裏のあるリリーさん、僕はちょっとひょうきんで庶民っぽい――みんな違うけど、並べて並べて、並列の存在として生きてる」
もうひとつ、大切にしているのが「書くこと」だ。
「得意ってわけじゃないんです。でも、文章が“作品”として本になるっていうのは、自分にとってすごく大きな意味がある。ライブと違って、記録として残る。それがうれしいんですよね」
著述業に関しては、基本的には個人で自由に動いている。「最初はピュアにやりたいから」と、そこにも表現への真摯(しんし)な姿勢がある。
最近では、食をめぐる執筆のほか、繁華街から離れているのに、なぜか人気の酒場をめぐるBS日テレ『ロビンソン酒場漂流記』(土曜午後10時)にもレギュラー出演している。番組で訪れる店は、原作の加藤ジャンプによる足で稼いだセレクトだというが、自身もチェックポイントがある。
「焼き鳥屋の串入れの筒が綺麗かどうか。あれが汚い店は、他もだいたいダメ。でも、細かいところまで気を配ってる店は、絶対に揺るがせにしてない。それがちゃんと味にも出るんですよ」。東京で新ネタを生み、山梨で整える。すべてはつながっているのだろう。
□マキタスポーツ 1970年1月25日生まれ、山梨県出身。芸人・ミュージシャン・俳優・文筆家。“音楽”と“笑い”を融合させた「オトネタ」を提唱し、各地でライブ活動を行う。俳優としては映画『苦役列車』(2012年/山下敦弘監督)で第55回ブルーリボン賞新人賞、第22回東京スポーツ映画大賞新人賞を受賞。近年の主な出演では『劇場版 きのう何食べた?』(21年/中江和仁監督)、『前科者』(22年/岸善幸監督)、『MON DAYS /このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(22年/竹林亮監督)、『ミンナのウタ』(23年/清水崇監督)、『ゴールデンカムイ』(24年/久保茂昭監督)など。著書に『決定版 一億総ツッコミ時代』『すべてのJ-POPはパクリである』『越境芸人』『雌伏三十年』などがある。BS日テレでは繁華街から離れた人気酒場をめぐる『ロビンソン酒場漂流記』に出演中。
