3週間で12㎏の減量、観客のブーイング 無敗だった鶴屋怜が敗れたワケ「急に打ち合えって言われても…」
格闘家の鶴屋怜(22=THE BLACKBELT JAPAN)は日本時間3月9日、米・ラスベガスのT-モバイル・アリーナで行われた「UFC 313: Pereira vs. Ankalaev」でジョシュア・ヴァン(23=ミャンマー)と対戦し判定負け。MMAキャリア初黒星を喫した。試合から1か月、当日までの心境や反省について話を聞いた。

ジョシュア・ヴァンと対戦し判定負け
格闘家の鶴屋怜(22=THE BLACKBELT JAPAN)は日本時間3月9日、米・ラスベガスのT-モバイル・アリーナで行われた「UFC 313: Pereira vs. Ankalaev」でジョシュア・ヴァン(23=ミャンマー)と対戦し判定負け。MMAキャリア初黒星を喫した。試合から1か月、当日までの心境や反省について話を聞いた。(取材・文=島田将斗)
今回の対戦はショートノーティスだった。本来は2月の豪州・シドニー大会でスチュワート・ニコル(オーストラリア)と対戦予定であったが、相手のけがでキャンセルに。なんとしても試合がしたいという気持ちのなか、試合3週間前にヴァンとの試合が決まった。
「UFCって結構キャンセルになることがあるって聞いてました。ショートスパンでやることはいつかはあるんだろうなとは思っていて、今回は相手がランカー。これがタイトル戦だったら絶対受けるわけだし、そのときのために練習じゃないですけど、急きょのオファーでもやれるような気持ち作りをしないとなって思ってやりました」
セコンドを務めた鶴屋浩代表からしても「賭け」だった。練習は変わらず2部練をこなしていたが、3週間前の体重は契約体重プラス12キロ。練習にあわせて緊急の減量もスタートした。
「3週間で12キロはいままでないですね。大体5週間前からきっちりやってたので。落とすパターンは決まっているので、本気を出せば落ちるなとは思っていたんですけど気持ち的な不安はありましたよね。今回は練習後にマシンに乗って1時間以上走るメニューを毎日繰り返していたので疲労が抜けないし溜まりましたね」
グラップラーの鶴屋だが、今回は強みのタックルが切られ、なかなかテイクダウンできない展開が続いた。ダウンこそしなかったものの、相手のパンチを被弾しジャッジに悪い印象を与えてしまった。用意していたプランの少なさが敗因のひとつだった。
「タックルに入って寝技をするっていうプランAをこれまでの試合でやってきました。スタミナ的にも寝技だったらいくら動いても疲れないので、いつも通りやれば勝てるのではないかという話をしてました。プランBは特に考えておらず……」
逆に言えば、これまではそのひとつのプランで相手を沈めてきた。今回は無敗であったことがあだとなったようだ。
「打撃戦になったときにどうするかというのを話し合っておけばよかったなと。出る直前も『相手とグラップリングをやればいい』って話をしてて、絶対寝かせられるって自分自身もセコンド陣も信じすぎてたんですよね。『やばいタックル行かなきゃ』って気持ちが強かったし、セコンドからも『本気で取りにいけ』って言われてて、最後のラウンドで打ち合えって言われたんですけど、『急にラストで打ち合うって言われても……』って気持ちでKOされても印象は悪いですし、いろいろよぎりましたね。だからちょっと下がり目になっちゃいましたね」
試合中のブーイングも鶴屋を焦らせた。T-モバイル・アリーナのような収容人数、2万人規模での試合は今回が初だった。
「試合を見返してみたら、思ったよりもポイントを取られてるわけじゃなかった。緊張をしていたわけじゃないんですけど、会場からのブーイングがすごくて。いままでこんなブーイングを食らったことがなくて。それで『あれ? 俺負けてるのかな?』『取られてるんだな』って気持ちになっちゃって。負けてないって分かっていれば、他の戦い方もあったのかなとは思います」
無敗の鶴屋のレスリングが通用しない姿は幻想を抱いていたファンにもショックを与えた。自身はランカーとの差を感じたのか。
「ランカーとの差というよりは、トップ選手との戦いってじゃんけんみたいなものなんですよ。自分はタックルにガンガン行くグラップラー。相性が悪かったですよね。ストライカーでもタックル切るのが下手なやつはいる。ヴァンはタックルを切って相手が付かれたところにパンチ当てるのが得意なので。倒せるとは思ってたんですけど、いままでとは違うタイプだなと。
パントージャと自分がやったらテイクダウンは取れると思うんです。寝技だったら自分は自信があるので、やりあえると思うんです。ヴァンは寝技はできないけど、打撃に徹してきてる選手なので。結局は全部できないと勝てない世界なんですけど、もっと打撃のプランも考えておいた方が良かったなとは思いましたね」
ひとつのプランだけで積み上げてきた10戦無敗。これまで対戦相手の研究もしたことがなかったという。11戦目で不敗神話は崩されることとなったが、UFCフライ級最年少ファイターにとってこの負けはとても大きな収穫だった。
