「これから大暴落が来る」森永卓郎さんの“予言”は的中したのか ネット話題も森永康平氏「真意を全く理解していない」
「これから大暴落が来る」「日経平均は8割下がる」。トランプ関税発動による混乱の中、1月に亡くなった経済アナリスト・森永卓郎さん(享年67)の言葉が一部から注目を集めている。生前の予言が、トランプ関税の影響による株価の大暴落で的中するのではないかという見方がネット上で話題になっているためだ。2月には、卓郎さんの長男で経済アナリストの森永康平氏との共著『この国でそれでも生きていく人たちへ』(講談社+α新書)を発売したが、その中身は4月以降の相場を予期していたようにもみえた。卓郎さんの真意とは何だったのか。現在の株式市場との向き合い方も含めて、康平氏に聞いた。

「今の株価 見えてたのか流石モリタク」と称賛の声
「これから大暴落が来る」「日経平均は8割下がる」。トランプ関税発動による混乱の中、1月に亡くなった経済アナリスト・森永卓郎さん(享年67)の言葉が一部から注目を集めている。生前の予言が、トランプ関税の影響による株価の大暴落で的中するのではないかという見方がネット上で話題になっているためだ。2月には、卓郎さんの長男で経済アナリストの森永康平氏との共著『この国でそれでも生きていく人たちへ』(講談社+α新書)を発売したが、その中身は4月以降の相場を予期していたようにもみえた。卓郎さんの真意とは何だったのか。現在の株式市場との向き合い方も含めて、康平氏に聞いた。(取材・文=水沼一夫)
卓郎さんは1月に原発不明がんのため自宅で息を引き取った。かねて辛口の経済の論客として鳴らし、「年収300万円時代」など日本経済を憂いつつも、大衆目線を置き去りにしない姿勢は多くの支持を集めてきた。
がん告知を受けたのは2023年11月。翌月にがんを公表するとその後はさらに振り切ったように、「これから大暴落が来る」「日経平均は8割下がる」「新NISAには絶対に手を出すな」など警告を連発した。とはいえ、日経平均株価は昨年8月5日の一時的な大暴落はあったにせよ、今年2月末まで3万9000円前後と高値をキープしており、卓郎さんの言葉には否定的な声も強かった。
ところが、4月にトランプ大統領が関税引き上げを発表すると、世界の株式市場は激震。日経平均は7日に3万1137円まで急落した。その後、乱高下を繰り返しながらも不安定な相場が続いている。米国と中国による貿易戦争の懸念も高まり、世界経済の見通しは不透明なままだ。
ネット上には、「森永卓郎氏の株価暴落の予言 当時は信じなかったけど、こうなると凄いなぁ」「今の株価 見えてたのか流石モリタク」「森永卓郎さんの予言取りになったやんけ」「森永卓郎さんが株価暴落するって言うもんだからトランプ当選と同時に全売却しといて良かった」など称賛の声も相次いだが、息子である康平氏の受け取り方はまったく違っていた。
「予言が当たってるとか言っている人は、全然真意を読み取れてないんだなと思っています。結局下がると言ってたことに対して、大きく下がったから当たっていると騒いでいるだけで、それは真意をまったく理解していない、というのが私の率直な感想です」と突き放した。
「おやじは『資本主義はおかしい』ということを常々言っていました。例えば、ある人が1000円分の稼ぎを作り出したら、1000円はその人がもらうべきであって、現状は会社がピンハネしていると考えていたわけです。そもそも企業側の搾取なのでおかしいだろう、みたいなことが一応根本の考えとしてあります。でも、それを実際にやると何が起きるかというと、企業に利益なんか1円も残らない。そうすると利益が増えることの期待感が株価ですので、株価自体が存在しないんじゃないのと。それが真意なんじゃないかなって。
その観点から言うと、本人としては日経平均が2000円、3000円まで下落するどころか、0円でもおかしくないという話なんじゃないのかな、と個人的には思っています。今の下げが当たってると騒いでる人はたぶん父親が主張したかった点を理解もしないまま下がっている事象だけを見て、当たってると言ってるんじゃないかなっていうのが私の認識です」
著書の中でも詳しく記述している。卓郎さんは「株価というのは、本来ゼロであり、株式時価総額というパイが増え続けることはあり得ないのだ」と断言している。
また、資本主義が限界を迎える理由として、「許容できないほどの格差」「ブルシットジョブ(クソどうでもいい仕事)のまん延」など4つの要因を挙げ、「いまの資本主義経済がきわめて近い将来に崩壊すると私は確信している」と述べている。
卓郎さんが言う大暴落とは、世界恐慌クラスの不況突入を指しており、いわゆる株価が一時的に下落する“調整局面”とはまったく別物だ。1929年10月24日の「暗黒の木曜日」から始まった世界恐慌は、ダウ平均が約3年にわたって下降線をたどり、最高値から89%下落した。

「おやじは極端な発言をして注目を集めるスタイル」
「ITバブル」「生成AIバブル」など、あの手この手で上昇し続けた世界経済も、今後はいつ急落するか分からないと主張する。「長期投資なら安心」という言葉を刷り込まれてきた新NISA組に警鐘を鳴らし、本物の下落局面になった時は、投資家に思いもよらない資産損失のリスクがあると訴えている。
トランプ大統領は「市場は活況を呈し、株価は上昇する」と発言。いずれ関税効果による米国経済の上昇を描いており、卓郎さんの持論とは本質的に相違がある。康平氏は、「ネットあるあるだなと。表面的なものを自分の都合のいいように理解しているだけですね」と苦笑した。
では、卓郎さんの言う「大暴落」とはいつ到来するのだろうか。この点について、康平氏の考えは父とはやや異なっている。
「じゃあ資本主義が終わるのかっていうと、現状の社会構造を考えると、それはさすがに考えにくいだろうなと。そういう意味では、おやじの言った通りにはならないんじゃないかなとは思います」との見解を示した。
新NISAの活用も、投資家ならメリットは大きいと話す。
「もともと投資をするつもりがあるなら、わざわざ国が非課税だって言ってくれているわけなので、使わない理由はないと思いますし、投資は危なくてやりたくないんだという人は別に非課税だろうがやらなきゃいいだけだし、そういうシンプルな話でいいんじゃないかって常々思っていますね」
同じ経済アナリストでも親子でスタイルが似ているわけではなく、康平氏のほうがより慎重な印象もある。
「表現の仕方は結構違いがあるなって思います。おやじはどちらかというと極端な発言をして注目を集めていくスタイルなので、正直な話、アテンションエコノミー全盛の現代に合ってるのは僕よりもおやじだったのかなと思いますね」
賛否両論を起こしながらも、ブレない父の言葉は、メディアも切り取りやすいところがあった。卓郎さんがもし生きていたら、今のトランプ相場をどう表現していたのか、おおいに気になるところだ。

トランプ相場で“やってはいけない”注意点とは
トランプ相場への向き合い方について、康平氏は次のようにアドバイスする。
まず、投資初心者に対しては、「積み立て投資をしているのであれば、そのまま継続するというのがいいんじゃないかなと思いますね。逆に変にスケベ心を出して、例えばいつも月3万円積み立てているけど、今安いから5万円にしちゃえみたいなことはしないほうがいい。なぜかと言うと、今が底かどうかなんて分からないので、淡々と積み立てて、当初の設定はそのままにしておくというのが、ある意味、教科書的なやり方の基本」とのことだ。
逆に経験者であれば、狙っていた個別株を買ってもいい頃合いだという。「関税の影響で企業価値までが思い切り下がるわけではないと思っています。とはいえ、こういう暴落局面みたいな時は全般的にドカンと売られてしまう。そうすると、そんなに売らなくていいじゃんみたいな状況になっちゃう株とかもあるので、手元資金に余裕があるならそういう株を狙っていってもいいと思います」と続けた。
実際、康平氏自身も日本の個別株を購入したという。
「トランプショックでドンと1回下がった日は仕事もあったので買えなかったんですよね。もったいないことしたなと思っていたら、翌日も同じようにドンと大きく下がってくれたので、その時に個人的にいろいろ調べていた中で、この会社の株はいいかなと思っていた1社の株を買いました」
先行き不透明な状況下では、どう転んでもいいように備えることが大切と説く。
「投資家たちは予想してないことが起きちゃったときに焦っちゃう。頭の中に絶対こうなる、みたいなシナリオを立てて、それだけに依存する1本足打法はやめて、いくつものシナリオを持つといいと思います。ベストシナリオはこれで、ワーストシナリオはこれでとか、いろんな展開を頭に入れといたほうが、慌てずに済むんじゃないかなと思います」
例えば、ベストシナリオが関税の撤回だとすれば、ワーストシナリオはそれこそ卓郎さんの言う「世界恐慌」のような長期不況かもしれない。
「中国に対して関税でしばき上げるだけじゃなくて、人民元を無理やり高くするような方向に強行してくる可能性もある。その流れ玉を食って、『日本、お前らも円安じゃねえか』と、何かしらの形で円高に持っていかれちゃうとかですね。確率としては高くないのかもしれないですけども、最悪な状況は頭には入れています」
目先の利益にとらわれ、慣れない投資をしようとするのは大間違い。手持ちの現金を使い切ったり、人生をかけた大勝負に出ることはご法度だと覚えておきたい。
