「受け止める」が「受け入れない」…斎藤元彦知事の第三者委「拒絶」が招く「地方自治の危機」
斎藤元彦兵庫県知事の疑惑告発文書問題を調べた第三者委員会が3月19日に調査報告書を公表してから1か月が過ぎた。だが、斎藤知事は公益通報者保護法違反という第三者委の見解を受け入れようとせず、国会で国務大臣が苦言を呈する事態に発展している。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士はこの現状を「地方自治全体の危機」と指摘した。

元テレビ朝日法務部長・西脇亨輔弁護士が指摘
斎藤元彦兵庫県知事の疑惑告発文書問題を調べた第三者委員会が3月19日に調査報告書を公表してから1か月が過ぎた。だが、斎藤知事は公益通報者保護法違反という第三者委の見解を受け入れようとせず、国会で国務大臣が苦言を呈する事態に発展している。元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士はこの現状を「地方自治全体の危機」と指摘した。
「受け止めます」
記者会見で厳しい指摘をされると、斎藤知事は決まってこの言葉を使う。一方で「受け入れる」とは決して言わない。今月16日の記者会見でもそうだった。
斎藤知事は第三者委によって、内部告発した元県民局長への対応を「公益通報者保護法違反」と指摘されたが、今も「県の対応は適切だ」と述べ続けている。これに対して「第三者委の指摘を受け、元県民局長の懲戒処分を見直すべきではないか」と質問をされると、斎藤知事はこう答えた。
「それは、記者さんのご意見としては受け止めさせていただきます」
斎藤知事は元県民局長の私的文書について「わいせつな文書」と公言し批判を浴びた。それでも発言は問題ないと主張する知事に対して「問題ないならなぜ、批判後は『わいせつ』と言わなくなったのか」という指摘がなされると、斎藤知事はこう答えた。
「まあ、そういったご指摘は受け止めたいと思います」
毎日新聞の世論調査で、斎藤知事が第三者委による違法性の指摘を「受け入れるべきだと思う」との回答が全国で59%、兵庫県に限っても半数を超えたことについて聞かれると、斎藤知事はこう答えた。
「毎日新聞さんがそういった調査を出されたということ、報道で拝見してます。まっ、その調査結果については、真摯に受け止めたいと思います」
この回答に記者が思わず「それ以上はないですか」と聞き直すと、斎藤知事はこう続けた。
「そうですね。兵庫県の私の対応としては、これまで述べさせていただいた通りですね」
世論調査の結果は、斎藤知事には響いていなかった。
「受け止める」という言葉を辞書で調べると「しっかりととらえる」「攻撃を防ぎ支える」「食い止める」などの語義が出てくる。一方、「受け入れる」という言葉は「人の言うことを承認する」「聞き入れる」。この2つの言葉は決定的に意味が違う。斎藤知事は第三者委の報告が出された直後の3月26日の会見でも「真摯に受け止める」と繰り返した。それは自分への批判という「攻撃」を「防ぎ支える」という意味の言葉。指摘を「受け入れる」とは言わなかった。
この斎藤知事の姿勢には国会でも批判の声が上がっている。今月17日、衆院・消費者問題特別委員会での公益通報者保護法改正の議論の中で、伊東良孝・消費者担当大臣は「県議会及び第三者委員会等で、かなり長時間に渡り審議されてきているものとして、その解釈及び結論には一定の納得をしなければならんという思いをしているところであります」と異例の苦言を呈した。さらにこの質疑で注目されたのが、川内博史衆院議員(立憲民主党)から出された次の指摘だった。
「百条委員会や第三者委員会の報告が出た後に『公益通報じゃないもん』と(斎藤知事が)言い張っているということに関しては、公益通報者保護法を所管する消費者庁として、兵庫県に対して『その法解釈は違ってますよ』という技術的助言」「『This is 技術的助言』だと思うんですよ」
このように、国から兵庫県への働きかけを求めたのだ。「技術的助言」は地方自治法で定められた制度で、不適切な運営をしている都道府県に対し、国務大臣が適切な行為を促すことなどができる。さらに大臣は必要に応じてより強い「勧告」や「是正の要求」もできる。兵庫県の現状はもう国が乗り出して「教育的指導」をしなければならない段階なのかもしれない。
本来なら、2000年の法改正で国と地方自治体は「対等・協力」の関係とされ、真の「地方分権」が始まるはずだった。しかし、今回の問題は、自治体の長が本当に「自らを治める」ことができるのかという疑問を投げかけている。百条委や第三者委の指摘を受けても自分の過ちを認めない人物が自治体のトップなら、これを国の監督なく「独り立ち」させると「歯止めない暴走」を招く恐れがある。ただ一方で、国の監督を強めると「地方分権」は後退する。このジレンマをどう解決したらいいのか。
消費者庁の審議官は、消費者問題特別委員会でこう答弁した。
「地方自治の本旨、地方自治体の自治性、自立性も我が国にとっては極めて重要なところだと思っています。国の行政機関であれば、国会に行政の監視をして頂くということだと思いますし、地方の行政機関であれば、地方議会が行政監視の役割を負っていると理解しております」
確かに最後の砦は県議会だ。第三者委の報告が受け入れられないだけでなく、新たに「週刊誌報道のネタ元探し」をしていたことも判明した県政に議会も歯止めをかけられないなら、県全体に「自らを治める」力がないということになりかねない。
一連の問題に県議会がどう向き合うか。それは我が国の「自治」という2文字の行方も左右する重大事だと思う。
□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ) 1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した。
