由薫、バンドセットで表現したさまざまな「夜」 満員のリキッドで伝えたライブへの思い【ライブレポ】

シンガー・ソングライターの由薫が17日、恵比寿LIQUIDROOMで「由薫 Tour 2025 “Wild Nights”」最終日となる東京公演を開催した。“Wild Nights”というタイトルにふさわしく、バンドセットでのパフォーマンスでさまざまな「夜」の形を表現した。

恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンライブを行った由薫【写真:南部恭平】
恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンライブを行った由薫【写真:南部恭平】

8月から自身初となる弾き語りツアーの開催をサプライズ発表

 シンガー・ソングライターの由薫が17日、恵比寿LIQUIDROOMで「由薫 Tour 2025 “Wild Nights”」最終日となる東京公演を開催した。“Wild Nights”というタイトルにふさわしく、バンドセットでのパフォーマンスでさまざまな「夜」の形を表現した。(文=中村彰洋)

 同ツアーは、3月12日にリリースされた最新EP『Wild Nights』を引っ提げ、東名阪の3都市を巡ったもの。バンドセットでのパフォーマンスにより、ライブ感のある由薫の一面を表現した。

 由薫にとって、ワンマン会場としては最大規模となったLIQUIDROOM。満員の観衆がフロアを埋め尽くし、主役の登場を待ちわびた。開演予定時刻から遅れること数分。フロアが暗転すると、雨や風のSEに乗せてバンドメンバー、そして由薫が登場した。

 スポットライトでぼんやりと照らされた由薫。英語で録音された音声に被せる形でステージ上の由薫も日本語でメッセージをささやく。これからどんな「夜」を表現してくれるのか――。幻想的な演出に会場は期待に満ちあふれた。

 幕開けは『Dive Alive』だ。重低音が鳴り響くフロア。ステージ上で軽快なステップを踏みながら、音を楽しむ由薫。それに呼応するかのように観客たちも体を揺らす。そのままの流れで披露したのは『Sunshade』。音源とはまた一味違ったバンドセットならではの迫力ある音もライブならではの魅力だろう。そして、そのままの流れで『Silent Parade』と続けた。

 迎えたMCでは「平日にようこそお越しくださいました」と集まったファンへ感謝。「私と一緒にすてきな、そして激しい嵐の夜を味わってもらえたらいいなと思っています」とEPのみならず、ツアータイトルともなっている“Wild Nights”を意識した言葉を投げかけた。

 緑のライトが幻想的にステージを照らす中で披露したのは、2021年にリリースされた懐かしの楽曲『Fish』。同曲は19歳の頃に、酒に酔うということを想像しながら書いたという楽曲だ。続く『Mermaid』は最新EPに収録された、切なさやはかなさをテーマにした楽曲。バンドメンバーとの掛け合いを楽しみながらしっとりと歌い上げる。続く23年リリースの『ミッドナイトダンス』では、楽曲名の通り、頭を揺らしながら、まるでダンスを楽しむかのようなパフォーマンスを見せるなど、それぞれで異なる「夜」の形を表現した。

バンドメンバーとおそろいのチェック衣装でステージに立った【写真:南部恭平】
バンドメンバーとおそろいのチェック衣装でステージに立った【写真:南部恭平】

 2回目となるMCでは、「LIQUIDROOMに立ってますよ! ありがとう」と喜びを表現。感謝を伝えながら「まさかこんなにたくさん来てくれるなんて本当にうれしい気持ち」と続けた。

 続いて披露した楽曲は『勿忘草』。バンドメンバーが奏でるアコギの音色に合わせてしっとりと歌い上げると、由薫の代名詞とも言えるヒット曲『星月夜』へとつなげた。キーボードの音色に乗せながら優しく歌い始めたかと思えば、サビでは、ギター、ドラム、ベースも加わり、バンドセットならではの圧巻のサウンドに。1曲の中でも表情が変化する壮大なアレンジに仕上がった。

 歌い終えた由薫は、「きょうでツアー最後なんですねえ。悲しいです」と楽しい時間が終わりを迎えていることを惜しむ。この日の由薫は、チェックのつなぎ姿で登場したが、衣装コンセプトについて「“Wild Nights”ということで、パジャマみたいな感じ」と説明。さらに、おそろいのチェック衣装でバックを支えるバンドメンバーを紹介していった。

「一緒にここから盛り上がってくれますかー?」と観客をあおり、「楽しい夜をみんなと過ごそうと思います」と披露したのは『Clouds』。由薫もアコースティックギターを手にし、音を奏でると、フロアは手拍子で応えた。その後も『Rouge』『1-2-3』とアップテンポな楽曲を畳み掛け、観客の熱も高まっていった。

 ラストとなるMCでは「楽しかった人ー?」と観客へ呼びかける。ほぼ全員が「はーい!」と一斉に手を挙げると、その光景がツボにハマってしまったようで、思わず爆笑してしまった由薫。「大人の人たちのこんな光景を見られるなんて」と喜びながら、同じ質問を3回繰り返し、「私も楽しかった!」と観客の思いを全身で受け止めた。

 そして今回、“Wild Nights”というEPならびにツアータイトルにした理由を口にした。「大学生の時に本当に音楽をやるんだと決めた」と明かし、その背中を押したのがアメリカの詩人、エミリー・ディキンソンの存在だったとのこと。ディキンソンの詩集の中に「Wild Nights」というフレーズを見つけ、「これだ!」とタイトルに決めたと説明した。

 また、オープニングに使用されていたSEは初めて自分自身で作ったとのこと。自宅でマイクを立てて、自分で録音したようで、「これも本当にディキンソンが私にくれた勇気の1つ」と自身に与えた影響の大きさを明かした。

 さらに前日に由薫の心を打ったというディキンソンの詩も紹介。英語で読み上げた後、「言葉は死んだっていう詩です」と和訳を説明した。

「言葉は死んだ 口にされた時、という人がいる。私は言う 言葉は生き始める。まさにその日に」

 そして、「私にとっても音楽ってリリースした時に死ぬんじゃなくて、リリースした瞬間に初めて生き始めるんです。ライブをしている時に私の音楽が生きているって感じるんです。きょうは私にとって最も生きているって感じられる夜をみんなとシェアできてることを本当にうれしく思います。ありがとうございます」と“Wild Nights”に懸けた思いを言葉に紡いでいった。

バンドセットならではのライブ感あふれる音を奏でた【写真:南部恭平】
バンドセットならではのライブ感あふれる音を奏でた【写真:南部恭平】

『ツライクライ』を歌い上げると、本編ラストは最新EPのリード曲『Feel Like This』だ。力強い歌声で歌い切り、晴れやかな笑顔を浮かべ、ステージを後にした。

「由薫、由薫」のコールと手拍子でアンコールを求める観客たち。由薫は、ツアーTシャツを着用したポニーテール姿で再登場するとそのまま『Crystals』を披露。アンコールへの感謝と今回のツアーグッズ紹介を行った。バンドセットでのラスト楽曲となった『もう一度』では、観客の手拍子と間奏パートでの大合唱で会場が一体となった。

 ここまでツアーを一緒に回ってきたバンドメンバーが歓声とともに、ステージを降りると由薫はステージに1人残った。その理由について「ここで発表があるからです!」と喜びながら、8月15日より全国11か所をめぐる自身初となる弾き語りツアー「弾き語りツアー 2025 “UTAU”」を開催することを発表した。

「私の原点をたどると弾き語りがある」と初心を振り返り、「弾き語りには弾き語りの魅力がありますよね」とアコギを手にした。そして、声とギターの音色だけで伝えるということへの思いを語った。

 この日のラストは、次回ツアーにつなげるかのように弾き語りでの演奏となった。『brighter』をアコギと由薫の声のみで披露。これまでのバンドセットとは一転して、伸びのある歌声が会場中に響き渡った。満員のフロアは由薫とギターが奏でる音の振動に優しく包みこまれた。

 歌い終えると、由薫は「1800年代の詩人の詩に私が心を打たれて、意味を持ったように、私の何かがみんなの何かにぶつかって変化を起こしたり、みんなが100年後の誰かに素晴らしい影響を残せる、そんなふうに連鎖して私たちは生きているんだなと感じます。ぜひ元気でまた必ず会いましょう」と思いを伝え、ステージを降りた。

 由薫は以前、2025年という1年について「原点に立ち返る時期がきた」と明かしていた。LIQUIDROOMという大きな箱でのバンドセットライブを終え、よりお客さんと近い環境での弾き語りライブツアーに挑戦するという流れはまさにそれを体現していると言えるだろう。

 また、それと同時に「自分と周りの世界とのつながりを感じながら意味のあるリリースやライブをしていきたい」とも語っていた。この夜に由薫が真っすぐに伝えた思いは、会場に集まった人たちの胸にしっかりと刻まれたことだろう。

“原点”ともいえる弾き語りの魅力を語った【写真:南部恭平】
“原点”ともいえる弾き語りの魅力を語った【写真:南部恭平】

由薫 Tour 2025 “Wild Nights”セットリスト

◯由薫 Tour 2025 “Wild Nights”@恵比寿LIQUIDROOM セットリスト
1.Dive Alive
2.Sunshade
3.Silent Parade
<MC>
4.Fish
5.Mermaid
6.ミッドナイトダンス
<MC>
7.勿忘草
8.星月夜
<MC>
9.Clouds
10.Rouge
11.1-2-3
12.ツライクライ
13.Feel Like This
-ENCORE-
E1.Crystals
E2.もう一度
E3.brighter(弾き語り)

次のページへ (2/2) 【写真】恵比寿LIQUIDROOMで行われた「由薫 Tour 2025 “Wild Nights”」の様子
1 2
あなたの“気になる”を教えてください