「男は触るな!」AED論争での一部女性意見に「理解できません」 車いすアイドルが語る投稿の真意

女性へのAED(自動体外式除細動器)使用を巡り、男女間の分断が深刻化している。ネット上では「セクハラで訴えられるリスクがある以上、『女は助けるな』が正解」「男に触られるくらいなら死んだ方がマシ」といった極端な意見が拡散されており、男女での使用率に差があるとするデータも報告されるなど、実害も出ている。そんななか、実際に男性から救助された当事者として、「私は放置されてたら今生きていなかった」「もし私にAEDが必要でしたら遠慮なく使ってください」と訴えたアイドルの投稿が大きな話題を呼んでいる。アイドルグループ・仮面女子のメンバーで、事故により脊髄を損傷し車いす生活を送る猪狩ともかに、投稿に込めた真意を聞いた。

AED論争への思いをつづった仮面女子の猪狩ともか【写真:仮面女子・猪狩ともか提供】
AED論争への思いをつづった仮面女子の猪狩ともか【写真:仮面女子・猪狩ともか提供】

2018年、転倒した看板の下敷きになり脊髄を損傷 事故後は車いすでの生活を送っている

 女性へのAED(自動体外式除細動器)使用を巡り、男女間の分断が深刻化している。ネット上では「セクハラで訴えられるリスクがある以上、『女は助けるな』が正解」「男に触られるくらいなら死んだ方がマシ」といった極端な意見が拡散されており、男女での使用率に差があるとするデータも報告されるなど、実害も出ている。そんななか、実際に男性から救助された当事者として、「私は放置されてたら今生きていなかった」「もし私にAEDが必要でしたら遠慮なく使ってください」と訴えたアイドルの投稿が大きな話題を呼んでいる。アイドルグループ・仮面女子のメンバーで、事故により脊髄を損傷し車いす生活を送る猪狩ともかに、投稿に込めた真意を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

「SNSで『女性が倒れていても助けるな!』『女性にAEDを使うのはリスク高いから放置』といった声が散見されていて悲しい」「『触るな!』と言っている一部の女性の意見も正直理解できません。その言葉が多少なりとも、貴方以外の女性の命を危機に晒していることに気付けないのでしょうか?」

 今月13日、AED論争についての自信の見解をつづった猪狩の投稿は、1.3万件のリポスト、6.9万件もの“いいね”を集めるなど大きな反響を呼んだ。

 投稿の中で、猪狩は「AEDではありませんが私は脊髄損傷の事故に遭った際、男性に看板の下敷き状態から助けていただき、とても感謝しています。もしその男性が上記のような考えの持ち主でしたら、私は放置されて今生きていなかったかもしれません」と自身の体験を振り返りつつ、「私が命の危機にあった時、男性に触られたら恥ずかしいとか、下着を見られたら恥ずかしいなんて頭の片隅にもなかったです。ただ今の苦しみから救ってほしいということだけでした。どんな議論が巻き起ころうと私は命は何より尊いし優先されるものだと思います。助けを必要としている人がいたら無条件で助ける、そんな世の中であってほしいです。もし私にAEDが必要でしたら遠慮なく使ってください」と訴えている。

 一連の投稿には、「人命救助は最優先」「自分は迷わず助けますよ」「勇気ある発言ありがとうございます」といった称賛の声が多数上がっているが、一部からは依然として「リスクを背負ってまで救う価値など無い。女性が倒れていたら間違いなく無視する」「介抱を装いながら性加害するオスを減らしてから言えよ」といった分断をあおるような声も……。

 これらの声に対しても、猪狩は「命を救ってもらったのにも関わらず、怒ったり訴える人が圧倒的におかしいと私は考えています」「救命活動をした男性の人権も、命と同等に大切なものだと思います」「理想論だと思う人もいるかもしれませんが、こうやってSNSで発信することで少しでも世の中が変われば、生きるチャンスを頂けた私にとって本望です」と丁寧に応えている。

 猪狩は2018年4月11日、ダンスレッスンに向かう途中で強風にあおられ転倒した看板の下敷きになり、その場を通りがかった男性数人に救助され救急搬送された。迅速な救助により一命は取り留めたものの、背骨を強打しており、脊髄損傷と診断。事故後は車いすでの生活を送っている。

 今回の投稿について、猪狩は「SNSで、女性へのAED使用を巡る一部男女の対立はよく目にしており、『救護活動を行わない』『男性は触らないで』などの投稿が目につくようになり、悲しい思いをしていました。命に関わるAEDのことだったので、男性に助けていただいた身として、発信しなければならないと感じ投稿しました」と経緯を説明する。

「AED論争は触られたくない女性と、そういう女性を救助した場合に社会的なリスクを負ってしまう男性がちゅうちょ、または放置してしまうということから発生していると思います。最近ニュースになった、女性を介抱した男性がわいせつ行為で逮捕された件を受けて、なおさら『じゃあ女はもう助けなくていいね』となってしまい、社会全体が壊れていっているような気がしました。

 助けるフリをして性加害をする男性、助けてもらった人に対して後から怒りを表す女性がいるのも事実ですが、それはその人がおかしいだけなんです。特に、一部の女性の『男は触るな!』という言葉はとても荒々しく攻撃的なので、これではモラルある99%の男性側が関わりたくないと思ってしまっても当然です。しかし、このような風潮になってしまうと救えるはずの命が救えなくなってしまいます」

 投稿の反響を受け、猪狩は「救命活動をする男性の人権はもちろん大切、同等に命も尊いものです。自分自身新たに命をいただけた身なので、この命を自分のためだけではなく社会貢献のために使っていきたいという思いで生きています。私は命の尊さを訴えるアイドルであり続けます」と話している。

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