銃器にガスマスク…キャンプ場で見かけた異様な集団、正体は介護士 「やましいことをしてるわけではない」
一口にキャンプと言っても、そのスタイルはさまざまだ。大型のテントでゆったりと過ごすファミリーキャンプや、リュック1つにすべての荷物を詰め込んだバックパックスタイル、近年ではイスだけを持ち込んでくつろぐチェアリングも立派なキャンプスタイルの一つとされている。その他、ハンモックやタープ泊など、多種多様なキャンプの中でもひときわ目を引くのが、実際の軍用品を用いた軍幕キャンプ。軍幕を愛するあまり、キャンプ仲間と「ドイツ軍幕会」を設立した男性に、紆余曲折あったという半生を聞いた。

3年前、軍幕を愛するソロキャンプ仲間と「ドイツ軍幕会」を設立
一口にキャンプと言っても、そのスタイルはさまざまだ。大型のテントでゆったりと過ごすファミリーキャンプや、リュック1つにすべての荷物を詰め込んだバックパックスタイル、近年ではイスだけを持ち込んでくつろぐチェアリングも立派なキャンプスタイルの一つとされている。その他、ハンモックやタープ泊など、多種多様なキャンプの中でもひときわ目を引くのが、実際の軍用品を用いた軍幕キャンプ。軍幕を愛するあまり、キャンプ仲間と「ドイツ軍幕会」を設立した男性に、紆余曲折あったという半生を聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)
43歳の訪問介護士・藤本裕介さんは、3年前、軍幕を愛するソロキャンプ仲間と「ドイツ軍幕会」を設立。時折集まっては、ミリタリースタイルの物々しい軍幕キャンプで旧交を温めている。今では70人近い会員を取りまとめる会長という立場だが、もとは人見知りがひどく、仕事や日々の買い物もままならなかったと振り返る。
「地元の千葉・南房総の水産高校を出て、18歳から23歳までは造船所でタンカーの溶接などをしていました。鉄板の上の作業で、夏場は50~60度にもなる過酷な環境。一度熱中症で倒れてしまい、その後は下請けでエアコンやガスの設備点検の仕事を転々としました。重度の人見知りで、訪問先のお宅でガス器具の説明もできないほどでしたが、おじいさんおばあさんが相手だと、不思議と自然体で話すことができた。社内でお客さま満足度1位の表彰を受けたこともあって、そこから介護の仕事に興味を持つようになりました」
共働き家庭で、母親は看護師。母が夜勤のときは祖父母の家で預かってもらっていた経験から、「幼い頃からお年寄りが好きだった」と藤本さん。一方で、家庭環境には複雑なものがあったという。
「中学のときに両親が離婚して、兄とも折り合いが悪く、家にはいづらくてずっと友達の家に寝泊りしていました。中学、高校合わせて5~6年くらいでしょうか。その友達も片親で、お母さんとおばあちゃんと3人暮らし。毎晩泊まり込むうちに、いつの間にか自分の分の箸と茶碗が用意されていて、友達がいない日に向こうのお母さんやおばあちゃんと一緒にごはんを食べることもあった。もはや第二の家族みたいな感じで、そのおばあちゃんが亡くなったときには葬式にも出ました。逆に、実の父と会ったのは高校を卒業して社会人になるときに一度きり。3年ぶりでしたが、一言『おめでとう』と言われただけで、本当に短い再会でした」
キャンプを始めたのは、地元を離れ、神奈川・横浜でガス設備の下請けから訪問介護の仕事に転職したころ。人見知りすることなく、自分らしく働けると希望を持って入った業界だが、当初は理想と現実とのギャップに思い悩むことも多かったという。
「お客さんの中には認知症の方も多くいて、罵声を浴びせられたり暴力を振るわれることもある。そんなとき、一人自然の中に身を置いて、現実逃避をしたかったのかもしれません。ただ、それでも介護士という仕事は自分が自分らしくいられる天職。罵声や暴力も最初こそビックリしましたが、今は病気なんだから仕方ないと割り切っています。
それよりも一番つらいのは、やっぱりお客さんが亡くなったとき。本来、訪問先がいよいよという時期に関わることはない仕事ですが、ご家族から『特別お世話になったから、最期を看取りに来てください』『ぜひお通夜に来てください』と言われることもある。その人の人生の最期に携われる仕事で、本当に得難い経験をさせてもらっています。一番のネックは賃金。今の会社はもう少しいい待遇ですが、夜勤を4~5回こなして月給20万円前後では、仕事内容と見合っているとは言い難い。政治家の人にこそ、実際に体験してほしい仕事だと思います」

30歳のとき、病気の母を引き取って面倒を見ようと、職場のある横浜市内に家を購入
複雑な生い立ちの藤本さんだが、人生の最期に立ち合いたいという気持ちは、肉親に対しても強い。30歳のとき、兄と暮らしていた病気の母を引き取って面倒を見ようと、職場のある横浜市内に家を購入。フルリフォーム済みの4SLDKの中古物件で、ローンは35年、土地代込みで約2000万円だったという。
「ゆくゆくは結婚もと見越しつつ、母と同居するのにもいいかなと、金額の割に大きい家にしました。ただ、当時兄とはほとんど連絡を取っていなかったため、結局母は行き違いで施設に入ることになってしまって……。知り合いのつてで施設に入れた兄の顔も立てる意味で、今はまだ同居の予定はありませんが、母の体調も見つつ、最期は自分のところで看取りたいと思っています」
一人暮らしにはいささか広すぎる家を持て余していたが、昨年11月、ネットの婚活サークルで知り合った女性と結婚。相手は離婚歴のある50代の子持ち女性で、子どもはすでに成人しているという。
「第一印象はきれいな人だなと。交際2年、半年間の同棲をへてプロポーズしました。自分より一回り近く年上ですが、気を遣わずにいられることと、笑いのツボや金銭感覚が一緒だったことが決め手。連れ子とは2回だけ会って、一緒に買い物をしたり、食事をしたくらいですが、何かあれば助けになりたいと思っています」
年齢的に子どもはあきらめているというが、結婚を機に“家族”も増えた。入籍の同月、知り合いから保護猫3匹を引き取ったところ、今年の2月に子猫が誕生。現在は愛妻と8匹の猫に囲まれ、にぎやかな日々を送っている。
物腰柔らかな語り口とは似つかない、モデルガンなどの銃器やガスマスクといったアイテムが並んだキャンプサイト。物々しい軍幕スタイルは、キャンプを始めた後にSNSで知ったという。
「単純に見た目がかっこいいなと思って。コスプレみたいなものですね。軍幕は本物の軍人さんが使っていたのもので、ドイツは流通品が豊富で値段も手頃なんです。普通のキャンプ場だとかなり目立つので、ファミキャンのお母さんから警戒されたりすることもありますが、何かやましいことをしているわけではない。とはいえ、いつか妻と行くときは普通のテントにしようと思いますけど(笑)」
カモフラ柄の迷彩服に身を包んだ仲間とたき火を囲みつつ、藤本さんはそう締めくくった。
