斎藤元彦知事問題「文春ネタ元探しの第三者委員会」に違法疑惑 県議会が指摘した「地方自治法」問題

斎藤元彦兵庫県知事をめぐる問題。これを告発した元県民局長の私的情報とされる内容が、昨年11月に立花孝志氏のSNSなどを通じて漏えいした件を調べる目的で第三者調査委員会が設けられた。しかし、同委員会は「週刊文春記事の情報源」を調べるよう県から依頼されていたことが判明。「報道への圧力」として批判が集まる中、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、「この委員会自体に違法の疑いがある」と指摘した。

西脇亨輔弁護士
西脇亨輔弁護士

元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士が指摘

 斎藤元彦兵庫県知事をめぐる問題。これを告発した元県民局長の私的情報とされる内容が、昨年11月に立花孝志氏のSNSなどを通じて漏えいした件を調べる目的で第三者調査委員会が設けられた。しかし、同委員会は「週刊文春記事の情報源」を調べるよう県から依頼されていたことが判明。「報道への圧力」として批判が集まる中、元テレビ朝日法務部長の西脇亨輔弁護士は、「この委員会自体に違法の疑いがある」と指摘した。

 県当局が、第三者委を使って斎藤知事に批判的な週刊文春報道の「ネタ元」を調べようとしていたと判明。驚きが広がっているが、そんな中、さらに信じがたい事実が神戸新聞で報じられた。

 県が第三者委に「週刊文春のネタ元探し」を頼んだことは、県議会に「秘密」にされていたというのだ。一方で議会は、情報漏えいに関する2つの委員会の調査に計1200万円の予算を決めている。つまり、斎藤知事の下で県当局は文春の「ネタ元」を調べることは隠したままで、調査予算を引き出していたことになる。

 なぜ、県当局にこんなことができたのか。その背景には委員会の作り方の「からくり」がある。

 県が外部専門家による「調査委員会」などを作る場合、県議会に「条例」で設置を決めてもらうのが本来の姿だ。我が国は民主主義なので、住民に選ばれた議会が行政を「条例」でコントロールするのは当然。これは、知事などが独断で「調査」や「審理」の組織を作って暴走しないために必要な仕組みで、「条例主義」と呼ばれる。地方自治法でも、自治体が調査会などの機関を設置するには法律か条例が必要と決められている。兵庫県が第三者委についてこの手続きを踏んでいたら、議会も事前に調査事項に気付くことができただろう。

 しかし、文春の取材源を突き止めるよう依頼された委員会をはじめ、斎藤元彦知事問題をめぐる第三者委はどれも「条例」の定めがなかった。これは地方自治法に反しているのではないか。この点を今年2月の県議会で上野英一県議が指摘したところ、県当局は条例なしで第三者委を作った理由を次のように説明した。

「県が兵庫県弁護士会からの推薦を受けた各委員との間で、個別に調査委託契約を締結し、調査を委託したものでございます」「調査の主体は各委員であって、必ずしも機関としての性質を有しているものではございません」

 つまり、「調査の契約は弁護士一人ひとりと個別に結んでいて、その弁護士がたまたま何人か集まって作業しているだけ。『委員会』という『組織』を作ったわけではないので、条例は要らない」というのが県側の説明だ。

 だが、このような弁明を「へ理屈」というのではないか。こうした理屈を使った例は兵庫県以外にもあるのだが、その試みは裁判で「違法」とされることが多い。2023年12月には、愛知県が「表現の不自由展」の少女像が議論を呼んだ「あいちトリエンナーレ」を検証する委員会を「条例なし」で作り、住民から訴えられた。名古屋高裁はこの委員会設置を「違法」と判断。「一定の範囲の事項についてその真実を調べる」ための調査委員会は、条例なしでは作れないとした。日本弁護士連合会が作った地方公共団体の第三者委のガイドラインも「契約は弁護士一人ひとりとしている」という言い訳は、「委員会を脱法的に設置しているとして、違法と評価される可能性があることに留意しておくことが必要である」と明記している。

事態を正せるのは司法のみか

 この基準からすれば、斎藤知事を告発した元県民局長の調査情報の漏えいについて「真実を調べる」ために弁護士を集めた委員会。これを県が条例なしに作れるわけがない。この疑問は兵庫県議会でも度々出されていて、今年3月には自民党の長岡壯壽県議が地方自治法に違反する恐れがあると指摘、条例なしで委員会を作ってはならない理由をこう説明した。

「執行機関による組織の乱用的な設置を防止するとともに、その設置に議会による民主的統制を及ぼすことにある」

 しかし、兵庫県では「民主的統制」がおかしな理屈で無視され、議会が知らないところで税金を使った「文春ネタ元探し」が始まった。これこそ知事らによる「組織の乱用的な設置」という、民主主義を脅かす事態なのではないか。

 今月9日の知事定例会見でもこの問題の質問が飛んだ。しかし、斎藤知事は「人事課の方で、適宜整理された」と他人事のような答えを繰り返すばかりだった。県政をめぐる歪みは日に日に増しているが、そのトップが自省する気配はない。この事態を正せることができるのは、もう、司法だけなのかもしれない。

□西脇亨輔(にしわき・きょうすけ) 1970年10月5日、千葉・八千代市生まれ。東京大法学部在学中の92年に司法試験合格。司法修習を終えた後、95年4月にアナウンサーとしてテレビ朝日に入社。『ニュースステーション』『やじうまワイド』『ワイド!スクランブル』などの番組を担当した後、2007年に法務部へ異動。社内問題解決に加え社外の刑事事件も担当し、強制わいせつ罪、覚せい剤取締法違反などの事件で被告を無罪に導いた。23年3月、国際政治学者の三浦瑠麗氏を提訴した名誉毀損裁判で勝訴確定。同6月、『孤闘 三浦瑠麗裁判1345日』(幻冬舎刊)を上梓。同7月、法務部長に昇進するも「木原事件」の取材を進めることも踏まえ、同11月にテレビ朝日を自主退職。同月、西脇亨輔法律事務所を設立。昨年4月末には、YouTube『西脇亨輔チャンネル』を開設した

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