香川照之、久々ドラマ撮影での本音「しっかりと作品に向き合おうと」 クランクイン初日も「落ち着いた気持ち」

WOWOW『連続ドラマW 災(さい)』(4月6日スタート、午後10時)で主演を務めた俳優の香川照之。本作は、国際的に評価の高い監督集団「5月(ごがつ)」の関友太郎と平瀬謙太朗が共同監督した異色のサスペンス作品だ。香川にとって、“演じる”とは何か?

インタビューに応じた香川照之【写真:ENCOUNT編集部】
インタビューに応じた香川照之【写真:ENCOUNT編集部】

演技論にも言及「人間は常に“演技している”」

 WOWOW『連続ドラマW 災(さい)』(4月6日スタート、午後10時)で主演を務めた俳優の香川照之。本作は、国際的に評価の高い監督集団「5月(ごがつ)」の関友太郎と平瀬謙太朗が共同監督した異色のサスペンス作品だ。香川にとって、“演じる”とは何か?(取材・文=平辻哲也)

 本作は、従来のドラマの枠にとらわれない異色サスペンスで、各話ごとに異なる主人公を描く手法が特徴だ。香川は登場人物たちの人生に突如現れ、“災い”をもたらす謎の「あの男」役を演じる。彼は視聴者が感情移入できるような一般的な主人公ではなく、実質的な主人公は1話ごとに登場するゲスト俳優たち(松田龍平、シソンヌ・じろう、中島セナ、内田慈、藤原季節、坂井真紀)となっている。

 第1話の主人公は、受験生・北川祐里役の中島セナ。祐里はシングルマザーに育てられ、家計を助けるためアルバイトをしながら大学進学を夢見ている。彼女の前に香川演じる「あの男」は、やさしい塾講師として登場し、授業以外の補習でも微分積分を丁寧に教える。しかし、祐里は予想もしなかった災難に見舞われることになる。

 その災難には「あの男」の関与が示唆されるが、決定的な犯罪シーンは一切描かれない。提示されるのは主人公が経験する「災難」のみであり、不気味な雰囲気が全編に漂う。分かりやすく言えば、後味が苦い「イヤミス」に分類される作品だ。

 監督・脚本を務めたのは、『八芳園』(2014年)でカンヌ国際映画祭に正式招待されるなど国際的に評価されている監督集団「5月」の関友太郎氏と平瀬謙太朗氏。香川は主演映画『宮松と山下』(2022年)でも彼らとタッグを組んでおり、本作では再共演を果たした。

「『宮松と山下』でも“見たことのない映画を作ろう”という意識がありましたが、『災』もまた“見たことのないドラマを作ろう”という考えが根底にありました。通常の連続ドラマでは、最終的に何らかの解決が提示されることが多いですが、本作はその答えを提示しません。だからこそ、観る人それぞれがどう納得し、どう受け止めるかが問われます」

『宮松と山下』では記憶を失った俳優を演じ、『災』では6人の男を演じ分ける謎の男役を務めた香川。両者に共通するものはあるのだろうか。

「人間は常に“演技している”ものです。その点は共通しているかもしれません。自分の記憶が曖昧で、前の出来事を忘れているからこそ演じられる、という側面があると思います。それが、僕の演技スタイルに活かされているのか、それとも『5月』の監督たちがそういうテーマを好んでいるのか……どちらなのかは分かりませんね(笑)」

 香川は、新たな役を演じる際に、前のキャラクターを忘れるのか。

「完全に忘れますね。僕は、役に深くのめり込むタイプではないので、演じるたびに新しい気持ちになります。今回は特に、キャラクターに感情移入するのではなく、演技のアプローチそのものが違いました」

 役作りとは、自分の中にある何かを引き出して表現する作業だという。

「どこか遠くへ行って役を見つけるのではなく、自分の中に眠っている感情や経験をどう引き出し、どう表現するかを考えています。その引き出しになるのは、喜怒哀楽の経験を積んで、それをどう理解し、どう解釈するかが大事なんでしょうね。ただ単に怒ったり泣いたりするだけではなく、それが人生の中でどんな意味を持つのかを考えることで、感情の幅が広がるのではないかと思います」

 ドラマの現場は、韓国ドラマ『梨泰院クラス』をリメイクしたテレビ朝日系『六本木クラス』(2022年)で主人公の宿敵となる巨大コンツェルンの会長役を演じて以来となった。

「とにかく謙虚に、誠実に仕事をするという気持ちを持っていました。久しぶりだからといって浮かれるのではなく、しっかりと作品に向き合おうと。スタッフの皆さんの期待に応えられるようにという思いで現場に入りました。クランクイン初日は落ち着いた気持ちでした。知っているスタッフも多かったので、自然と現場に溶け込めました。監督がモニターを見て満足そうにしていたのを見て、『ああ、これで良かったんだな』と思えたのが印象的でした」

 塾講師役には、東京大学出身でフランス語も堪能な香川ならではの説得力がある。

「そう言っていただけると、とてもありがたいですね。特別に楽しいキャラクターがいたわけではないですが、1話から2話へのキャラクターの落差が面白かったですね。ほぼ順撮りで撮影していたので、仏のような塾講師から一気に変わる。その流れが興味深かったです」

自身の演技の変化にも言及「軽やかに演じることを意識するように」

 香川は1989年にNHK大河ドラマ『春日局』でデビュー。その後、主演Vシネマ『静かなるドン』が当たり役となり、2000年代に入ってからは映画、ドラマに欠かせない存在となった。

 筆者は、香川が日本軍の鬼軍曹を演じた中国映画『鬼が来た!』(チアン・ウェン監督、審査員特別賞受賞)の際、カンヌ国際映画祭(2000年)で同行取材したことがある。キャリアは35年に及ぶが、演技の変化をどう感じているのか。

「若い頃と比べて、軽やかに演じることを意識するようになりましたね。山崎努さんの本でも“役にべったり入り込むのではなく、軽やかに演じる”という話がありましたが、最近の僕もそう思います」

 映像の世界から一時離れていたが、映画界の動向には注目しているという。

「良質な映画が作られ続けることを願っています。この『災』も再編集して映画化することになったら新たな面白さが生まれるかもしれません」と語る香川。本作をきっかけに、俳優としての新展開にも期待したい。

□香川照之(かがわ・てるゆき)1965年12月7日、東京都出身。大河ドラマ「春日局」(89/NHK)で俳優デビュー。主な出演作は『赤い月』(04/降旗康男監督)、『北の零年』(05/行定勲監督)、『ゆれる』(06/西川美和監督)、『キサラギ』(07/佐藤祐市監督)にて日本アカデミー賞優秀助演男優賞受賞、『剣岳 点の記』(09/木村大作監督)で第33回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。

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