「映像で笑いを取るのは難しい」コントとサスペンスが融合 男性ブランコ出演、新感覚ドラマの舞台裏

お笑いコンビのジャルジャル、シソンヌ、男性ブランコ、空気階段の4組が出演する『S区の奇妙な人々』(DMM TVで配信中、全6話)。東京の架空の区『S区』を舞台に、住人に扮(ふん)した芸人のコントとサスペンスが盛り込まれ、物語が展開していく新感覚な作品。ENCOUNTでは、脚本を手掛けた劇作家、上田誠氏(劇団「ヨーロッパ企画」代表)と男性ブランコの平井まさあきと浦井のりひろにインタビュー。今もっとも熱い劇作家とお笑いコンビが唯一無二の番組の舞台裏を語った。

取材に応じた男性ブランコの浦井のりひろと平井まさあき、脚本の上田誠氏【写真:ENCOUNT編集部】
取材に応じた男性ブランコの浦井のりひろと平井まさあき、脚本の上田誠氏【写真:ENCOUNT編集部】

お笑い芸人4組がドラマでコント披露『S区の奇妙な人々』

 お笑いコンビのジャルジャル、シソンヌ、男性ブランコ、空気階段の4組が出演する『S区の奇妙な人々』(DMM TVで配信中、全6話)。東京の架空の区『S区』を舞台に、住人に扮(ふん)した芸人のコントとサスペンスが盛り込まれ、物語が展開していく新感覚な作品。ENCOUNTでは、脚本を手掛けた劇作家、上田誠氏(劇団「ヨーロッパ企画」代表)と男性ブランコの平井まさあきと浦井のりひろにインタビュー。今もっとも熱い劇作家とお笑いコンビが唯一無二の番組の舞台裏を語った。(取材・文=大宮高史)

――まずは上田さんに伺います。『S区の奇妙な人々』の着想のきっかけは。

上田氏(以下敬称略)「4組の芸人さんがコントをする番組」というコンセプトがまずありました。そしてそれらをドラマ的な物語で繋いでいきたい、と。どの芸人さんも僕は好きでコントを見てきた方々だったので、(制作側から)お話があった時点で『他の作家さんにやられるのは嫌だ、ドラマパートは絶対に僕の手で書きたい』と思いました。それで芸人さんのコントを面白く引っ張るにはどんなテイストがよいか? と考えたら、サスペンスに思いあたりました」

――剛力彩芽さんが主人公・フウカ役を演じます。フウカは謎に包まれたS区の真相に近づいていきますが、そんな中、S区に住む芸人たちがコントを繰り広げていきます。

上田「普段生のコントで笑わせている芸人さんであっても、映像で笑いを取ることは、すごく難しいことだと思います。。三谷幸喜さんや北野武さんも、舞台では笑いをされますが、映像だとサスペンスやミステリー、シリアスが本領ですからね。ただこの4組なら、映像でもちゃんと笑わせてくれるだろうという信頼がありました。そうした映像コントありきの作品です」

――男性ブランコさんとは、作品について何かお話しはされましたか? 男性ブランコさんにも伺います。

上田「お2人には、昨年僕が脚本と演出をやった舞台『鴨川ホルモー、ワンスモア』に出演いただいていたのが大きかったです。笑いが上手いだけでなく、世界観を大切にしたお芝居ができるコンビだなという印象があります。実際、今回のコントを考えられる上でも、僕が考えたサスペンスのコンセプトに寄せたアイデアを出してくれました」

平井「コントを連発しながら、S区の謎の真相に近づいていくので、『上田さんが欲しているだろうな』と思えるワードを散りばめて、僕らのコントパートは作っていきました」

上田「平井さんは一つのテーマに何十個もアイデアをくださいます。それをキャッチボールしながら。例えば2人が刑事と探偵に扮してのコントでは、サスペンスの真相に絡むセリフは僕が考えます。それを渡すと、組み込まれた形でお2人のコントが出来上がっている感じです」

平井「異形なモノがいたら面白い」…相方・浦井を巨大な虫に

――これから見る方にはネタバレになってしまいますが、浦井さんが朝起きたら巨大な虫になっているネタもありました。あれも平井さんのアイデアでしょうか? カフカの小説『変身』のようなネタでした。

平井「そうですね。普段の生のコントではなかなかできない、異形のモノを入れたら面白いだろうなと思って(笑)。この舞台のS区って、忘れられた東京の24番目の区で、かつて人体実験も行われていたという設定なんです。だから変な怪物がいてもいいだろうなと、浦井を僕が好きなUMA(未確認動物)っぽい虫にしてみました」

浦井「巨大な虫になって生活するのも、やってみると慣れますね(笑)。意外と身体を使いこなせている感覚があって、本当に虫になってもすんなり受け入れてしまいそうです。結構派手な衣装なので、楽しんでください」

上田「虫とか、バイオ系のネタはほぼ平井さんのアイデアですね(笑)。今作のコントの作り方はコンビによってさまざまで、僕が完全に芸人さんのやりたいことに合わせていったケースもあります。男性ブランコさんは僕が作った物語の縦軸となるサスペンスを生かしつつ、横軸のコントも面白くしてくれました」

――今回ドラマでコントを展開して、思ったことはありますか。

浦井「一度始まったら止まらない生のコントと違って、ドラマはいろんな場面を細切れに、多角的に撮っていきました。だから気持ちを保ってカメラに向かうのは、目新しくもちょっと難しかったですね。劇場と違ってお客さんの反応が分からないので、自分の芝居を信じるしかない。だから今、おそるおそるSNSで評判を見ています(笑)」

平井「ぼそぼそ話してもマイクが声を拾ってくれるのが映像の良さですね(笑)。生よりも、リアルな会話のトーンで芝居ができて。違う競技くらいの感覚があります」

上田「男性ブランコのコントって、風景画を描いていくような大らかさがあります。そういうゆったりした笑いは映画のような風合いがありますが、今作は視聴の勢いを付けたく、ドラマパートでサスペンスの本筋をどんどんと進めて、コントは芸人さんにゆったり演じてもらおうと緩急をつけました。すると男性ブランコのゆるい空気感が、ちょうどそこにマッチして……。とても心地よく一緒に仕事ができたコンビでした」

――では最後に男性ブランコのお2人は、俳優としてもマルチに活動中ですが、お笑いへのこだわりはありますか。

平井「お笑いが、僕の人生を作った原点だという重みは変わらないですね。小学生の頃が『めちゃ×2イケてるッ!』(フジテレビ)や『はねるのトびら』(同局)の全盛期で、本当にお笑いが輝いて見えました。芸人になれてからはこうして上田さんに呼んでいただいたり、お笑い以外のお仕事もいただいていますが、ライブ感あるコントのクオリティー……これが男性ブランコの本質だという気持ちもずっと抱いています。2人きりで見せる話芸と、外仕事がらせんのようにリンクし合っている現状が心地よいです」

浦井「僕はもともと俳優になりたかったんですが一瞬であきらめて(笑)、『もしかしたらお笑いの方が向いてるかも』と思って、縁あって平井と組んでここまできました。やっぱり劇場でお客さんの笑い声を聞くのが一番うれしいですが、笑いと芝居、どちらの仕事もいただけているのがありがたいです。まさに笑いと演劇の間にかかる“ブランコ”になっていきたいです」

□上田誠(うえだ・まこと)1979年11月4日、京都府生まれ。劇団『ヨーロッパ企画』代表。劇団公演の脚本・演出を担当。外部の舞台や、映画・テレビドラマの脚本、番組の企画構成も手掛ける。脚本を務めたテレビアニメ『四畳半神話大系』(2010年)が第14回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門で大賞受賞。大喜利イベント『ダイナマイト関西2010 third』(10年)で優勝。17年に『来てけつかるべき新世界』で第61回岸田國士戯曲賞を受賞。同年に脚本を務めたアニメ映画『夜は短し歩けよ乙女』は日本アカデミー賞最優秀アニメーション賞を受賞している。

□男性ブランコ 大学の演劇サークルで出会った平井まさあきと浦井のりひろにより結成。2011年にプロデビューし、13年に「第14回 新人お笑い尼崎大賞」の大賞を受賞、21年に「キングオブコント」決勝に進出。2024年には「M-1グランプリ」準決勝進出。お笑いの他、俳優としても活動している。

「S区の奇妙な人々」はDMM TVで独占配信中
https://info.tv.dmm.com/original/pre-membership/sku/

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