政治の不正スクープとジャーナリズムの限界…当時のテレビ記者たちの証言から見えたもの
新型コロナウイルス禍の不自由な生活に、“コロナ憎し”の思いを強くする一方、よかったこともある。それは政治への関心が高まったことだ。コロナをめぐっては、特別定額給付金の振り込みのスピード感をはじめ、各自治体で対応が大きく分かれた。政治というと、国政に目が行きがちだが、地方行政がいかに大事か思い知った人が多かったのではないか。
ドキュメンタリー映画「はりぼて」監督の砂沢智史氏と五百旗頭幸男氏への取材から読み解く“ジャーナリズム”
新型コロナウイルス禍の不自由な生活に、“コロナ憎し”の思いを強くする一方、よかったこともある。それは政治への関心が高まったことだ。コロナをめぐっては、特別定額給付金の振り込みのスピード感をはじめ、各自治体で対応が大きく分かれた。政治というと、国政に目が行きがちだが、地方行政がいかに大事か思い知った人が多かったのではないか。
国民は所得の約10%を地方自治体に住民税として納めている。サラリーマンの平均年収は約400万円だから、住民税は約40万円にもなる。その血税を懐に入れようとするトンデモない政治家の姿を暴いたのが、ドキュメンタリー映画「はりぼて」だ。作品を見ながら、政治家の子どもじみた言い訳に失笑し、声をあげて激怒してしまった。本作は、声出し、ヤジOKのいわゆる“応援上映”スタイルでやるべきかもしれない(コロナ禍では難しいが)。
物語の舞台は、“有権者に占める自民党員の割合が10年連続日本一”である保守王国、富山県。2016年8月、ローカル局「チューリップテレビ」が「自民党会派の富山市議 政務活動費事実と異なる報告」とスクープ。この市議は“富山市議会のドン”といわれていた自民党の重鎮で、その後、自らの不正を認め議員辞職。これを皮切りに市議たちの不正が次々と発覚し、8か月間で14人の市議がドミノ式に辞職していく……。
きっかけは16年5月に持ち上がった市議の報酬引き上げ提案だった。現行の月収60万円を10万円以上引き上げ、年収1160万円以上になるというもの。改正前の時点で、なかなかの高給取りだが、当時70歳近い“市議会のドン”はそう思っていなかった。「国民年金は2か月で6万円もいかない。このままだったら、後ろ盾がある人しか議員はできない。こんなことで市はよくなるのか」と話し、取材記者も最初、まんまと言いくるめられてしまう。
この議案は市議会で可決するが、チューリップテレビが情報公開請求によって市議の政務活動費を精査すると、トンデモ事実が次々と発覚。政務活動費とは月収とは別に、政策調査研究などのために支給されるもので、富山市の場合月額最大15万円。トンデモ市議たちは領収書を偽造し、懐に入れていたのだ。ドンが不正に受け取った総額は約700万円! しかも、市議会事務局や教育委員会が情報公開請求の事実を市議会のドンら関係者に漏洩していたことまで明らかになる。
17年4月には市議会議員・市長選挙が行われ、政活費の新ルールも作られ、再生に向かうかと思われたが、不正発覚は止まらない……。一体、この富山市議会はどうなっているのやら。しかし、これを他県の出来事、他人事と思ってしまったら、“試合終了”である。これはまさに今の日本の政治の縮図かもしれない。思い返してみてほしい。黒川弘務・前東京高検検事長の定年延長をめぐる一連の問題、いわゆる“アベノマスク”の配布問題に、持続化給付金の事務局に関する諸問題……。メディアが報じ、市民が声を挙げなければ、政治家はやりたい放題ではないか。